第4話 適性検査(その1)

メディアはきっと知ってた。

何故そんな道を通らなければならなかったのか。

コメンテーターは知っていた。

その道を通るメリットを。


知った上で彼らは騒いだ。

「お前が悪い。」

「お前らが悪い。」

だってその方がネタになるから。


僕らは、アイツらの利益のため。

視聴率のため、名声のため、見てくれの為。

犠牲になり、その代償を払った。


「自由」「名声」「富」その代償を知ってたか?

今、その身体に刻んで、教えてやる。






さぁ本日5歳を迎えたわけですが、どうもしっくり来ない。

というのも、この国では産まれた日にちを統一するという決まりがある。


そうする事で、村のしきたりとも言えるこの魔法適性検査を一回で済ますことが出来るからだ。

魔法自体、使い方を知っていれば(極論だが)0歳でも使える。


なので、魔法の使い方を全員同時に教えられる、村全体で監視できる、等のメリットを考えれば合理的ではあるのかな…?


まぁ、その代わり検査のあとは大きなパーティーを開いて「誕生日おめでとう」と祝うし、デメリットは何一つない、筈なのだが…


うーん、こう…「今日は俺の誕生日、俺が持てはやされる日」という特別感を味わえないのが如何せんなぁ……?


そんな、のほほんとした悩みを抱えながら母のいる竈小屋へと向かう。


うちは一応父のおかげで不自由なく暮らしている。むしろ、こうして

寝床・居間・トイレ用の小屋と、台所・物置の小屋の2つの建物を所持しているくらいだし、「不自由なく」というよりむしろ「裕福」と言える気がする。


もっとも、前世では二階建てだった上小屋を分ける必要もなかった訳だが…

それはそれ、これはこれである。


「あ、おはよう。よく寝れた?」

「んー、おはよう。いつも通りだよ。」


軽い挨拶を交わしながら、用意されているおにぎりを頂く。

絶妙な塩加減の効いたおにぎりだ。

噛めば噛むほど塩の味が強まるのだが、しかしそこも計算されているのか、同時に白米の甘みも主張を強める。

嗚呼…お茶が欲しいなぁ…。


「あっ、せっかく綺麗に並べてたのにぃ…!」


母、といえ、実は母は28歳。

しかも見た目はまだ20代前半にしか見えない。実際も若いし

こうして拗ねて頬をふくらませる、なんてぶりっ子じみた動作も可愛く見える。


「良いじゃん、あと今日は検査の前にちょっと村の様子見てきたいから並べてても、並べきってなくても同じ様なもんよ」


「こう言うのは気持ちが大事なの!」


「いつも充分すぎるほど伝わってるよ、じゃあ行ってきます」


「……気を付けてね、お昼には戻るのよ!」


はーい、と返事をしつつ、お茶を飲んで外へ出る。


村もパーティーに向けて準備をしている最中だった。

「個人的に持て囃される特別感はない」と言ったが、まぁこれは…これで…気恥しいような…照れくさいような…。


「ヒコ、何1人でニヤニヤしてんの」


と、後ろから背中をどつきながら現れたのはサユ。


少し短めの髪を後ろで一つにまとめていて、顔はキリッと凛々しいタイプ。

今でも結構…その、いい感じだけど、多分大人になったらファンがつくんじゃないかってくらい。

でもサバサバした性格だし、一蹴されそう。

何がとは言わないけど。


髪型はポニーテールとまではいかない…けど、なんて言うんだろう、

「後ろで一つにまとめたら全部ポニーテール」くらいの認識でいた自分を殴ってやりたい。

いやもうポニーテールでいいや。


サユとは魔法友達みたいなもんで、実は魔法の使い方や歴史書についてはコイツの親の本を借りて一緒に読んだものだった。


他の家ではほとんど本など置いてないが、ウチは父親が稼いでるし

サユの家は、なんと父親が軍のお偉いさんだったりする。

なので、魔法や戦闘の本や他の国についての本は揃っているのだ。


しかも、お偉いさんと言っても「戦場で」のお偉いさんだ。

「軍事」のお偉いさんではないので、ただ偉そうにしているだけではない。

よく家に帰ってはサユの魔法の稽古をしている。


だから、同年代で魔法を使えるのは俺だけじゃない。

サユも魔法を使えるのだ。

さらに


オドろいたねぇサユちゃん

奇しくも同じ属性だ。


そう、サユも風属性。

だからだろうか…その…

負けたくない、みたいな思いが強い。

そして、多分普段の態度から見るにサユもそれは同じ。


「いやぁ、今日は村全体により一層派手に祝って貰えるというかさ、正式に迎えて貰える、みたいな感じだからさ、嬉しいんだよ。」


「まぁ、毎年あんな派手にしてる催しのメインになれるんだからね…まぁ確かに共感はできるかな」


でしょー?

今日は村人全員誕生日ではあるが、魔法を習える5歳からはほぼ成人と変わらない扱いをされる。

まぁ、アルコール類とかはまだダメだけど、

「社会の一員として認められる」のだ。


そこからは少し長い間魔法訓練、もとい軍事訓練を受ける。

そして戦争へ送り出されるのだ。

ある種1/2成人式みたいなイメージかな?


「ね、どうせだからさ、ついでに今日の試験何やるかちょっと見てこない?」

ふと、サユが言った。


「あっあぁー…まぁ、暇だし、いいy」

「じゃあこっち!」


ひょいっと腕を引っ張られる。

何か、こうして見ると王子様に連れていかれる姫様みたいな気分。

いやそれは性別逆だけども、


毎年魔法適性検査の内容は違う。

一昨年はどれくらいの時間魔法を使っていられるか。

去年はどれくらい遠くまで魔法を飛ばせるか。


去年みたいに飛距離を争うくらいなら楽でいいけど、魔法は使えば使うほど疲れる。

持続検査なんて言うと、前世で言う持久走みたいなものだ。


適正属性が水の人なんかマーライオンみたいになっててちょっと可哀想だった。


「しっ、ここの柵の囲いの中だと思う。柵の間から何か見えるんじゃない?」


サユが柵で隠されたスペースを見つけた。

2人して柵の間からなにか見ようとするも、すだれが掛かってて見えない。


さっすが、しっかり対応されてる。


俺は魔力を弱めに、弱めに指先に集める。

風魔法を固定し、カッターナイフみたいに細い刃にした。

ちょいちょいっと四角く切り、自分の所からギリギリ見えるくらいの穴を作る。


あぁー、便利。何て素敵なんだ魔法社会。

前世じゃ、こういうカッターみたいな小道具って必要な時に無いことの方が多いからストレス溜まったけど

今じゃ準備の必要も、持ち運びという面倒くささもない。

まぁ、カタナみたいな、よく使う武器とかは持ち歩いた方が魔力の消費を抑えられるし威力もあるって事で、成人男性は常備させられている。

そこはちょっと面倒くさそう。


そんな考えことをしてると、サユが俺の作った穴から中の様子を見ていた。

あ、このやろ…とどかそうと近付くと、女の子特有のいい匂いがした…。

きょ、今日はこの位で勘弁したる。

おぉん、見逃してやるよ!命拾いしたな!


「ね、ね、見てあれ。私たちの得意分野…!」


声を押し殺そうとはしているが、興奮してか少し声が大きい。


「何があったの…?」

と穴から除くと


マトだ。


「あぁ〜…!精密性の検査か…!」

サユはそう!そう!そう!と必死に頷いている。


魔法を使えるようになった日から、石ころなんかに魔法の弾を当てる練習をしていた。

そして、上達した頃には何故か射的ゲーム感覚で、

「どっちが多く当てられたか」「どっちが正確に当てられたか」

なんかを競い合っていた。


しかし、やはり二人とも同じ時期に、同じ本で、同じ方法で練習したからか両者いっぽも譲らない成績。


現在72戦36勝36敗。

しかし、最近はお互いに家の手伝いやらで勝負する暇もなく、今日という日を迎えたのだ。

じゃあ今日は…?


「じゃあ今日は久々に?」

「的当てゲームをして?」


「「決着を付けようじゃん!」」


と、2人で叫んだ瞬間、

『コラァ!誰か見てんのか!』

と、叫び、誰かがこちらへ向かってくる音がした。


やべっ、ここでバレると試験内容変えられる。


2人は急いでその場を離れようとした。

すると、逃げようとした先に小さな子が2人こちらを見ていた。


しめた、俺はポケットの中から小石を二つ柵の方へ投げた。

そして、小さい子に悪魔の囁きをかける。

「あそこに2つお金投げたから、見つけたらあげるね」

「いいの?!」

「いいよ!ほら、早くしないと誰かに取られちゃう!」

すると、たちまち小さな子二人はターッ!と走って柵の方へ行った。


「ひっど」

サユがジト目でこちらを見ている。


「いいよ、向かってきたおじちゃんも小さい子ってわかればお駄賃か何かあげて家返すでしょ。」


「それにしてもあんな小さい子騙す?」


俺は得意顔で言った

「己の利益の為には、小さな犠牲は付き物なのです。」


少し、胸の奥が傷んだ。




時刻は昼になり、ついに魔法適性検査が始まった。

今日は、サユの父さんが適性魔法検査の試験官をしている。

魔力の込め方、魔法の使い方の解説をしてくれるのだが…。

やっぱり、基礎となる部分なのでサユと俺は軽いおさらい程度で終わった。


そして、ついに魔法試験だ。

試験内容はやはり的当て。

制限時間内に、どれだけ正確に、どれだけ早く魔法を的に当てられるか。


会場へ向かう途中、サユの父さんがやってきた。

「おう坊主!大きくなったな!」

と、頭を叩いてくる。


俺はそれを払い除けながら

「ふっふ〜、背丈だけじゃなくて中身もひと味違うって所を見せてしんぜよう」


サユの父さんはほう、と声を漏らした。

「そうだな、じゃあ今日の的は10個ある。それを時間内に全部当てられたら何か一つお願いごとを聞いてやろう」


実は簡単に思える試験、魔法使いたての人間にはどうも厳しい。


というのも、教えてもらえるのは「魔法の発動のさせ方」だけ。

それでも発動はできるが、魔力の制御やこめ方のコツを知らないと真っ直ぐ、狙った通りにはいかない。

ましてや魔法の起動を変える、「魔法操作」なんて技術は到底無理。

というか今の俺にも無理。


多分俺が魔力制御出来ることは知っていると思う、だからこれは冗談だろうけど…まぁ、モチベ上がるし少し乗るか。


「いいの〜?そんな事言ってぇ。全部当てて優勝するからね、お願い事なんでも叶える準備しててよ?」


すると、また後ろからサユが声をかけてきた。

「いや、優勝するとかそういう物じゃないでしょ」


「まぁ、例えだよ例え。でも、この村最優秀の成績でこの試験終えるのは事実だから。」


少し挑発してみる。

負けず嫌いなサユならここで…


「は?いや、それは私だから。アンタが最優秀は無理無理。」

「そうだぞ!うちの娘が一番だからな!お前には勝てんぞ!」


ここぞとばかりの父親の援護射撃がうぜぇ…


「父さんにも無理」


あ、味方部隊ぶっ潰しやがった。

結構キてるなこれ…?


思わぬ方向からの攻撃にお父さんもたじったじ。


「いやいや!お父さん魔力制御も得意だから!今この村にいる人の中で一番だから!」


「「ホントに〜?」」


「声を揃えて疑うんじゃないよ!」


聞くところによると、サユのお母さんは魔力制御が超得意。

俺とサユに魔力制御のコツを教えてくれてのは、実はサユのお母さんだったりする。

ご近所だからかご贔屓にさせて頂いて、すまないでゴワスゴワス。


「母さん程じゃないでしょ。」

「嘘はいかんよ、嘘は」


お父さん絶対もう苦しくていっぱいいっぱいでしょ、2人で畳み掛ける。

あれ?いつの間に共闘してたんだろう?

敵の敵は味方的な心理が働いてる。

そうか、これがいくさだというのか。


「母さんにも負けないしっ!」


「「あ」」


そう叫ぶお父さんの後ろに、1つ影が…。

サユのお母さんだ。


思わぬタイミングの奥さん登場にさらに驚く一家の大黒柱。

そして、神妙な顔つきで手招きされ、どこか遠くへ連れていかれていった。

頑張れお父さん、負けるなお父さん。


その日のサユのお父さんの丸まった背中は、ちょっと悲しく、

そして、いつか自分もああなるのかという不安を僕に抱かせた。


その後試験官は変わった。

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