第3話 国と魔法と私

 あぁ、また今日も音が鳴る。


 声が聞こえる度に僕らは耳を塞ぎ、急いで別の部屋へと隠れる。

 そうして足音が去るまで、ジッと息を潜めるのだ。


 たまに勝手に庭に入っては部屋の様子を覗こうとする輩までいた。


 覗き込む奴らの顔は影で隠れていて、真っ黒に塗りつぶされたように見える。


 ただ2つの眼球が僕らを捉え、いっそ


 いっそ、潰してやりたくなるような。

 そんな気さえするのだ。


 それだからか、僕は何かしら、絵でも写真でも見る度に、その視線がこちらを向いていると。


 こうして、削り取りたくなる。

 こうして、塗りつぶしたくなる。


 あの、影に隠れた顔よりも、もっと黒く。

 もっと赤く。もっと、もっと、もっと。


 ~四年後~


 自立歩行、言語習得、魔法……。

 まずはこの世界の情報について。


 まず最初に自分のこと。

 名前は「ササモリ」家に産まれた「ヒコ」。


 ササモリヒコ

 何とも日本っぽい名前な気がする…。

 黒髪で、黒い瞳をしている。

 顔立ちもアジア系の…結構平型の顔なのかな?

 彫りの深い欧米とは明らかに異なっているようだった。


 父はやり手の商人で、各地を転々としながら商売をしている。

 なのでまだ一回しかあった事が無いが、母を案じて仕送りはしてくれているようだ。


 母は父から送られてくる仕送りの他に、足袋等の小道具を作る内職をしている。


 両親ともやはりアジア系の顔立ちをしていて、2人の顔の特徴を少しずつ受け継いだ自分は

 やはり、この二人の子供か、という事を認識させてくれる。


 言うて父さんは去年に一回しか会ってないけど。


 次に、国。

 今ここはそんなに被害を受けていないが、およそ100年続いてる戦争だ。

 生まれた国の特徴や長所、短所を知らない事には生き残れないというものだ。


 ここは「ワコウ」という国らしい。

 神様と最後に確認しあった「カタナ」もとい日本刀を扱う国。


 ここの国は(地図全体で見ると)起伏の激しい土地で、「フジミ山」という山が一番高い。


 やっぱり、ここまで調べてみるとここは別世界線上の日本なのでは?と思えてくる。

「ワコウ」も、ちょっと弄れば

「ワコク」、つまり「倭国」だろう。


 しかし、魔法が絡んだせいか戦争の影響か、色々違う点がある。

 まずは先ほど紹介したフジミ山。


 絶賛噴火中である。

 まぁでも、魔法があるお陰かその噴火中のフジミ山の近くに位置するこの村も火山の影響を悪い意味では受けていない。


 というのも、その火山から噴出したマグマを利用して行う鍛冶が盛んで、都市は前世と違って中心部に集まっている。

 むしろいい意味で影響が出ている。


 たまにマグマが予定より噴出し、村に迫ってくることもあるが

 そこは魔法の出し時である。


 村から火属性の適正を持った大人が数人係で火の魔力を注ぐ。

 そうするとマグマを制御下におけるのだ。

 多分海側の村なんかは水魔法を使って津波を抑えたりしてるのかな?


 時代は前世で言う江戸時代。

 伝書鳩なんかが唯一の連絡手段だぞ?

 そこは魔法で良いだろ、と突っ込みたくなるが

 火・水・風・雷・氷の五属性を主としているこの世界にはそんな魔法はもう無い。

 実はこの他にレアな属性があって


 龍と闇の二属性、

 古文書によると

 無・死・呪・光等の属性もあるらしい。

 でも詳しいことは分からないけど、結論から言うとその魔法は使っちゃいけないとか。

 禁忌魔法とまで言われていて、この属性を持った人間は適性検査に引っかかって、無条件で処刑。


 たまに産まれるところを見ると、「滅んだ」と言うより「滅ぼそうとしている」が正しいだろうか。


 俺の属性の適性は多分「風」。

 だからまぁ、こんな幼少期で村人に殺される事はなさそうかな?


 明日誕生日を迎え、5歳になる。

 一般的には、5歳になると魔法適性の検査が行われる。

 厳密に言うと、魔法を使う原動力となる「魔力」の込め方と魔法の発動のさせ方を教わる。

 そこで魔法を発動させ、適性属性を見るというわけだ。


 適性属性は一つしかないから、そこで禁忌の魔法を持った人間は炙り出される。


 ちなみにその情報を知る前に、どうしても魔法や魔力を込めた何かをしたくて暗中模索してたら、

 ある日魔力を使った「身体強化」が使えた。

 そこから同じ要領で魔法も使えたので「風属性」と判明したのだ。


 もっぱら、村の人にバレたくないって言うのと、使い所が今の所ないから扇風機代わり位にしか今は使っていない。


 あーあ、折角だから早く大っぴらに魔法使いたいなぁ…。


 因みに、固有スキルについては各敵国の王やら貴族やらがたまに発動する超常現象的な扱いらしい。

 そんな面倒なポジションには着きたくないし、そんなのが知れたら最前線に出されるに決まっている。

 戦争中とはいえ、自分だけはゆっくり暮らしたいし。


 うん、誰にもバレないように使おう。このスキルだけは。


 多分、このスキルがあれば全世界を殲滅することだってできる。

 文明を滅ぼして再構築したり、全人類の洗脳だって出来るだろう。

 でも神様が言った「好きに使っていい」はそういう事じゃないし、折角の異世界なんだし、使うつもりもない。


 だってこの世界ではキャッキャウフフな生活を楽しめるチャンスだってある筈なんだしー!


 とにかく、明日の適性検査が終わればある程度自由に暮らすことが出来るだろう。


 そんな期待を胸に、ヒコは眠りにつくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る