第2話 産声と精神的なソレ
時間は夜8時頃。
父さんを筆頭とした家族全員、僕らはただひたすらその式が執り行われる図書館へ向かっていた。
図書館そのものは、決して大きくはない。
しかし、その式に参列する人間にとっては十分な大きさだったのではないだろうか。
僕は慣れない寒さ、そして気温とは別の悪寒を感じながら歩く。
僕はこの悪寒の正体を知っている。
僕はこの悪寒がどこから来るかも知っている。
ただ、それを口に出すと心が挫けてしまいそうで、ただただその幼い体へ押さえつけるのだった。
気持ち悪い…
その呟きも、暗闇を照らすハザードランプやクラクションが夜闇に消し去った。
僕の声はどこにも、誰にも届かない。
あぁ正しく、この気分は…
『最低の気分だ。』
誰かが僕の耳元で…そう、呟いた気がした。
僕は図書館へ着くと同時に、
一層強まった悪寒のせいか、胃の中の全ての液をタイルへぶちまけることとなった。
あぁ確かに…最低な気分だ。
集まる親たちを尻目に、遠ざかるような光景に辟易するように、僕はただ吐き続ける事しか出来なかった。
急な浮遊感に襲われ、何かから覚めたような気がした。
辺りを確認しようにも、目を開けることもままならない。
声を出す代わりに、どこか聞き覚えのあるような……聞き覚えのないような声が響く
「オギャア!オギャア!」
あぁー…赤ん坊の声か。
耳をつんざくような大声だけど、まぁ、これくらい元気な方がいいよ。
まぁ、場をわきまえた方がいい気もするけど…
赤ん坊は泣くことが仕事とも言うしね。
しかし、それにしてもうるさすぎる。
目も開けられない、体を動かすことも出来ない今では苦痛でしかないし、少しあやしてもらうようお願いしてこよう。
……んんん?
声を出そうとしても、ぜんぜん声が出ない。
しかも目が開かず、どうやっても周りを確認することは出来ない。
すると、遠くの方から大きめな音…いや、声が聞こえてきた。
(なんだろう…人の声に聞こえなくも無いけど…)
などと、悠長に構えようとしたその瞬間
バチィッッ!!!!
という破裂音に近い何かと同時に、尻…と、若干太ももと背中にはみ出るようなもみじ型の痛み。
肌が敏感なのか、普段感じるジンジンとした痛みではなく
心の臓に響くような、燃えるような痛み。
思わず絶叫をしそうになった…その時
聞こえてきたのは
「オギャア!オギャア!」
という声だけだった。
あっあぁー……思い出した。
(そう言えばしたんだっけ…転生)
となると、今は産まれて間もない赤ん坊だから……
そうだ、泣かないとッ
バチィッッ!!!!
また尻の大部分と背中あたりに激痛が走る。
そう、赤ん坊は産まれたときに泣いていないといけないのだ。
確か、今はまだ肺の中に羊水が溜まってるから、無理やりにでも泣かせないと死んじゃう云々の話を聞いた事が歩きがする。
ならば、それに従って泣くまでよッ!
「オギャア!オギャア!」
この迫真の演技、プライスレス。
しかし何だろう、仕方の無いこととはいえ、赤ちゃんプレイ的な…恥ずかしさを含んでいると言うかその…
そんな複雑な心境でしばらく過ごす事になった。
当たり前だが、歯など生えているはずが無い。
ならば食事は?
そう、(リアル)赤ちゃんプレイには欠かせない授乳タイムだ。
体はまだお子様なので、性的興奮作用は伴わない。
しかし、心は大人よ、これは精神の赤ちゃんプレイなのだ。
と待ち構えているも、そこに待っていたのは哺乳瓶。
…ふ…ふふふっふっふっふふふ。
やるじゃない神様。
産まれたばかりの俺から唯一の楽しみを奪うと言うのか。
すると甘ぁい声が聞こえてきた。
「はぁい、ミルクの時間ですよー」
「あぅ……」
これはこれでアリ
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