04 パンツ見えた
途中、神宮内にある
三羽の目線の先を見ると、子供たちがわいわい
ペンギンたちはサッカーボールを囲んでじっと見つめる。そのなかの一羽が近づいてボールを蹴った。……うーん、正確には、おなかで押した。
って、あれ? 押された方向にボールが転がっていく。子供たちには見えていないはずだから、ボールが勝手に転がっているように見えるはず。けれども、子供たちはそんなことはまったく気にもせずに、わたしに注目していた。
「おねーちゃん、パスしてパス」
「……え?」
ええー? ペンギンたちはサッカーボールに夢中で、あっちにこっちに押し返しているのに、そのボールを蹴り返さないといけないの?
「こっちに蹴ればいいんだよ」
「おねーちゃん早く早く!」
「困り顔かわいい」
……うう、仕方がない。ペンギンたちには悪いけど、やっぱりサッカーボールは返してあげなくちゃ。ペンギンたちが押し合いへし合いしているところを、ちょうど三羽ともボールから離れたタイミングを見計らって、一気に、蹴りあげ――
……あれ?
わたしの右足は、サッカーボールの横をすり抜けて、腰の高さまで持ち上がった。そのままバランスを崩した身体は、うしろへと倒れて、青空が視界に入り込む。
ドサア、という音とともにあお向けになってしまった。けど、さいわい雪の上だったことと、リュックを背負っていたのでそんなに痛みは感じなかった。……あ、けど、リュックのなかのポテトチップスは粉ごなになってしまったんじゃないか?
「へったくそー!」
「わー転んでやんの」
「パンツ見えた」
わたしの運動
ほんのり絶望感に襲われながらも、わたしは起き上がって雪をほろっ
やっぱり、子供たちにはペンギンは見えないのか。
「おねーちゃん、今度からボールは手で投げるといいよ」
男の子はそういうと、仲間たちのもとへ戻っていった。
親切心なんだろうけど、軽く
ペンギンたちを追いかけながら時計を見ると午後の二時。家を出てから二時間は外にいることになる。そろそろ疲れてきたところで、ペンギンたちは遊歩道から脇へとそれた。
そのさきにあったのは池だった。
円山公園にある二つのうち、
池はスケートリンクのように凍っていた。青空に反射された水面は、池らしからぬ、みたことがないくらいにきれいで、まるで鏡のようだった。
こんなにきれいに凍るなんて、普通はないよなあ。今年は気温とかの条件が重なって、鏡みたいにきれいな凍り方ができたんだろうか。
じっと池を見つめていたペンギンたちは、いつのまにか湯気が出はじめていた。
え? もしかして、この池に飛び込もうとしてるの?
ペンギンの平熱は、ふだんは三八度くらいなんだけど、冷たい海に飛び込むときにはその体温を五七度に上げることをわたしは知っていた。けど、この池はいま、氷が張られている。飛び込もうとしてもそのままスーッと滑ってしまうだろう。もしかしたら、高くなった体温で氷を溶かしてしまうかもしれないけれど。
どちらにしろ、ペンギンたちが怪我をすることもないだろう、と安心したそのとき、三羽のペンギンは、突然、両羽をはばたかせて、
飛んだ!
ええー!?
飛び立ったペンギンたちは、まるで海の中を泳いでいるかのように、白いおなかを見せながら、すいすいと青空をはばたいていた。目の前の信じられない光景に、わたしはぽかんとしてしまう。池のはるか上空をくるくると泳いでいたペンギンたちは、くちばしを池のほうに向けてきた。
え?
三羽のペンギンは、
このまままっすぐ落ちていったら、凍った水面に直撃しちゃうよ!
ペンギンたちはどんどん加速しながら水面へと落下していく。そして、水面とくちばしが水面に触れたそのとき――わたしは見ていられなくて、手ぶくろで顔を隠してしまったのだけれど――ペンギンたちは、凍った水面をするりと越えて、池の中へと入り込んでしまった。
(3)ほろう。北海道の方言。はらうの意。
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