第45話 コート上のペテン師!(上)
Dクラスが一回戦を不戦勝して、クラスのみんなが暇を持て余していた時、僕はただブラブラ歩いていわけじゃない。
実はBクラスの戦い方をじっくりと視察していた。それは元バスケ部の性。一流プレイヤーのプレイを少しでも見ていたかったからだ。
運動能力と経験では、あちらが圧倒しているが、Bクラスの攻撃パターンはワンパターンで読み易い。ボール運びをするのが、薫子さん一人しかいない。
いくらBクラスの運動神経が優れていても、所詮バスケ素人に毛が生えた程度。彼女たちに任せられるはずもなかった。
薫子さんがいくら天賦の才を持っていようが、茅さんと咲さん二人がかりで強固なマークをされれば、自然とパスするしかない。ガタガタの不慣れで、不格好で、不器用なそのパス。やる方も受ける方も、隙だらけだ。
「……なっ……?」
苦し紛れのパスを、いとも簡単に僕がパスカット成功させると、薫子さんから笑みが消える。
やっぱり、パスだけは他の技術に比べてぎこちない。恐らく、この試合以外でも、パス経験がほとんどないのだろう。一人で部活動をしていたことからも、このぐらいは予想できていた。
薫子さんの独断でディフェンスを翻弄する突破力と、彼女の攻撃的で実直な性格が裏目に出て、攻撃パターンを一辺倒にしてしまっている。
そして何より、薫子さん以外のメンバーにもそれほどやる気を感じない。嫌々やっているという雰囲気すら醸し出している。
当たり前だ。
協調性を理由に試合参加を断らないにしても、突然の誘いに戸惑ったはずだ。
ロッカーで聞いた限り、薫子さんの利己的な理由でこんな卑劣な手段まで使ったに過ぎない。それに巻き込まれる人間が、意欲を出してくれるはずもない。
だから、この僕がディフェンス陣を疾風のごとき速さで真っ二つに切り込み、レイアップシュートを決めるのも容易い。
振り返ると、ボールはゴールをぐるっと一周往生際悪く回るが、次第に回転する速さが遅くなり、なんとかボールはゴールに飲み込まれる。
「よしっ!!」
思わずガッツポーズをとって、歓喜するがBクラスはおろか、自陣のDクラスまで唖然としている。薫子さんに至っては茫然自失の状態。
あ、あれれ?
もしかしてガッツポーズとか、物凄く恥ずかしことやっちゃったのかな、僕?
「よっ――くやったわ、もみじん!」
「ぐはっ!!」
背中に茅さんの容赦なき平手打ちを食らった僕は吐血したようかのように、苦痛を訴えてしまった。咲さんも僕に近寄って激励してくれる。
「他者を圧倒する、疾風怒濤なドライブインだったじゃねぇか。どうやら口だけじゃなくて、俺は安心したぜ」
敵側がにわかに騒がしい。
これで、僕の実力はある程度推し量れたはずだ。これからマークも相当きつくなるだろう。
だけど、それでいい。それこそが狙いなのだから。
あえてほとんど僕一人で、ゴールを決めたことに意味がある。これで、あちらがどれだけ僕を過大評価してくれるかが見ものだ。いくら相手の足踏みが揃っていなかったとしても、僕一人だけで点数が奪取できるとしたら、油断し切った開始直後を不意打ちするより他はなかった。
だから僕は、多少無理をしてでもゴールを入れた。
茅さんと、咲さんのマークが決まっていなかったら正直危なかったけれど、僕の指示通りに動いてくれれば、薫子さんから突き放されることはないだろう。
どららのチームも個人プレーで点数を競い合うならば、エースの実力が勝敗を分ける。……だったら、僕さえ薫子さんに一度も負けなれば、この大差を縮められるということだ。
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