第42話 布団に隠れた表情!
保健室は僕ら以外無人だった。
僕は労るように、白鷺さんを真っ白なベッドにそっと寝かせる。廊下で倒れ込みそうだった彼女を見かねた僕は、ここまで背負って運んだ。最初はかなり渋っていた彼女だったけれど、いざ僕が足を抱えてから、ここにくるまでは静かなものだった。
妙に、首筋にかかる吐息が熱かったが、それだけ体調が優れなかったのだろう。
「申し訳ありません、もみじさん。あなただけにはお世話になるわけにはいかないと思っていたのですが、とんだご迷惑をかけてしまいました」
「いいんですよ、このぐらい。白鷺さんには、僕の秘密を守ってもらっているし」
「そう……ですよね……秘密っ……それだけですもんね、私たちって……」
白鷺さんは当然のことだけど、元気がない。
「もう、このまま寝た方がいいですよ。保健室の先生もいないみたいだし、僕が今から探してきます」
「いいえ、私は大丈夫です」
「でも、」
白鷺さんが。
中途半端に浮かせた腰を、白鷺さんの穏やかな表情を見て、椅子に落ち着かせる。
「もみじさん、ありがとうございます」
「いきなりどうしたんですか?」
白鷺さんは、ベッドの掛布団で口元を隠す。
「だって、また助けてもらいましたから」
消え入るような声は、なぜか辛そうではなかった。
「でも、最初の時は、僕は何もできなかったんですよ」
「いいえ。もみじさんが一番最初に駆けつけてくださいました。あの時私は救われたんです」
「そんなことないですよ、僕は――」
「駅で倒れた時、私もう駄目かと思いました。ああ、私はもうここで死ぬんだなって。誰にも助けてもらえないで、ここで倒れるんだって覚悟致しました。だけど、そんな私に手を差し出してくれた人がいらっしゃいました。――それが、もみじさんです」
違う、そんな目で見ないでください。僕はあなたに何もしてあげられなかった。
そう突っぱねたかったけれど、僕は言うことができなかった。
なぜなら、白鷺さんは僕より頑固な稀有な人だから。
「結局、私はもみじさんと一緒にバスケをすることはできませんでしたね。……楽しみだったんですけど、仕方ないですよね」
「そう……ですね、僕も残念です」
すくっ、と僕は立ち上がる。
「とにかく今は何も考えずに寝て、体を休ませてあげてください」
「……はい」
白鷺さんは、そういった瞬間に掛布団を顔面に覆い、かわいい寝息を立てる。それだけ、試合での疲労が溜まっていたんだ。体の弱い白鷺さんが、いきなりあんな運動量をこなせば当然だろう。
……いや、違う。
彼女の噛み殺したものを、彼女が僕に伝える事のできなかったことを、僕は気がついてしまった。
静かに、僕は保健室をあとにする。
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