第10話 再会場所は浴場!

 僕は全裸だった。

 眼前の女の子は目を丸くして、宇宙人を見るかのように、僕の裸体を凝視している。

 そして、僕も彼女の体のラインに目を奪われていた。

 ボディタオルで、全身のほとんどが覆われているとはいえ、彼女の体は神々しかった。

 蒸気によって全容は把握できないのが逆に魅惑的な雰囲気を醸し出し、僕はごくりとはっきとした音を立てて唾を飲み込んだ。

 大きすぎず、それでいて小さすぎない胸を(目測Cカップ)支えるのには、どうも心もとない細さのウエスト。くびれはまるで、人間国宝が作った壺のように見事で、どこにも贅肉が見受けられない。

 ほっそりとした足も長く、まるでモデルか、キリンのようだった(褒め言葉)。脚フェチでない僕が、思わず感嘆するほどの脚線美。一部のコアな層ならば、喜んで踏まれたいと志願するのではないだろうか。

 お尻は安産型で、彼女の体の部位で最もエロい。ぷっくりとした桃は弾力性がありそうで、押したらすぐさま押し返しそう。どんなに抗おうとも、どうしてもその尻から目を逸らすことはできない。

 ……っくぅ。

 な、なんて凄まじい拷問なんだ。

 連邦軍のモビルスーツは化け物か、と慄くぐらいの破壊力。旧型のスカウターが壊れんばかりの戦闘力。覚悟のないものが卒倒するぐらいの圧倒的な覇気。

 が、なんとか自分の欲求に打ち克ち、彼女の顔を見やることに成功する。

 上気した彼女の顔は、体を見て高まった期待を裏切らない容姿。だけど、その顔はいつかどこかで見たような……。

 妙な既視感に囚われ、僕は戸惑った。

 いったいどこで? 同じ中学? いや、そうじゃない。

 浴場の湯気が、外気の冷気に掻き消されていくと、その全貌が明らかになっていく。それと同時に彼女も冷静になってくるのが見て取れた。

 ――なんで、女子寮の共同風呂に男子がいるの? という顔。

 男の証であるものを晒してしまった僕に、弁解の余地などない。頭の中で高速でこれからの人生をシュミレーションするが、待っているのは絶望しかない。

「ち――」

 痴漢?

 ま、まずい。

 彼女が叫ぶ前に、僕は持っていたシャワーで、お湯をぶっ掛ける。

 そしてひるんでいる彼女の口を塞ぎ、開けっ放しであった浴場のドアを思いっきり閉める。

 よし、これで多少なりとも音が大きくなっても誰もここには入ってこない。

 時間は深夜。

 本来ここには誰も入ってきてはいけない。イレギュラー因子であるのは僕と彼女だけだ。何とか口封じを、この状況を打破することができれば、僕の日常が帰ってくる。

「んー、んんん!」

 彼女がくぐもった声で何かを主張している。肘で僕の脇腹を突き抵抗している。

 絶妙に痛いところをついてきて、勢い以上の威力がる。

「静かにして。手荒なまねはしないから」

 余裕がなかったせいで、声のトーンは低く脅すような声音。彼女の顔から血の気がさーっと引いていき、本気で怯えているようだ。

 いったい、これからどうしよう? なんでこんなことになってしまったんだろう。

 やっていることと思考回路は、完全に犯罪者のそれ。

 いったい僕はどこを間違えたんだろう。

 この時間帯にお風呂に入ったこと? しっかり施錠したかどうか確認しなかったこと? 男でありながら女子高に通うことを決心したこと? それとも根本的に、ちゃんと受験をしなかったこと?

 とにかくもう、言い逃れはできない。

 よくて退学、最悪の結果としては少年院行きだ。

 でも、それによって一番辛いのが、僕の処遇ではなく、僕の周りの人間が、社会からどんな扱いを受けるかだ。

 僕の家族は、「あそこの家の息子は、女装して女の子に性犯罪をはたらいた」と後ろ指を指されながら、一生過ごすことになるのだろうか。

 裏口入学を指示したあの学園長だって、ただではすまないだろう。教師資格の永久剥奪だって考えられる。

 僕の失態で、様々な人たちの人生が狂うことになる。

 それに、愛華だって……。

 愛華はこんな僕をどう思うだろうか。

 変態だと罵られるだけならまだ耐えられるが、もし一生口を聞くことも許されなかったとしたら、それだけでも僕は相当のショックだ。

 ――僕はこの日、高校初日を迎えるまでもなく、秘密がばれてしまった。

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