愛の食事
ある日のある一家のことです。
その日の一家の朝食は、ベーコンに乗った目玉焼きと、カレー煮込みの蜂蜜パンと、こしあんを混ぜたオレンジジュースと、イルカとムックの佃煮でした。
「さあ食べなさいさあ」お母さんがいいます。
「いただきますまあいただきます」口々に三人兄弟は合唱しました。
四人はおいしく食事をしました。お父さんは朝が早いのでした。
「蜂蜜おいしい」
「ムック赤い」
「ああ幸せ。歌いたいくらい」
三人は口々に呟きます。お母さんはにこりとしながら新聞を読みます。しかし、
「何これまずうい」長男がいいました。
「目玉焼きがまずい」次男もいいました。
「ぺっぺ食べれないこれぺ」末っ子長女もいいました。
「こらちゃんと残さず食べなさい」
お母さんはそういいましたが、三人は目玉焼きをまずそうに見ています。
「おいしくないよお母さん」
「しかたないなあ他のは食べなよ」
お母さんは残った三つの目玉焼きを食べながら確かにまずいなと思いました。
その日の昼食は激辛カレーと猿ラーメンでした。
「どうおおいしい?」お母さんは訊きます。
「まずうい」
「からあい」
「猿の目怖い」
辛いもの駄目かあと思いながらお母さんは胡椒を二瓶入れた鍋を見ました。三人は殆ど全部を残しました。
その日のおやつは西瓜でした。
「西瓜よーおやつは西瓜よー西瓜」お母さんがいいます。
「わあい西瓜わあいイエア」長女が踊ります。
「かぶと虫もいるからかぶと虫と一緒に西瓜食べよ」
「かぶと虫?」次男が嬉しくて叫びます。「雄雌どっち?」
「どっちもよ」
大皿の上に乗ったかぶと虫を指差してお母さんは笑います。西瓜と二匹のかぶと虫は喧嘩にならないようにちゃんとそれぞれ四つに切ってありました。
「さあどんどん食べましょうおかわりもあるよ冷蔵庫に」
三兄弟がどこかへ行ってしまったのでお母さんは一人で全部食べました。水っ腹だあとげっぷして思いました。
その日の夕食を、どうしようかなあとお母さんは考えていました。もうすっかり夜でした。
「お母さんお腹すいたよ」長女が静かにそういいます。
「もう十時だよ。寝る時間だよ」
「僕ら昼もおやつも食べてないよ。お腹すいて死んじゃうよ」
長男と次男もいいます。お母さんはむうと唸ります。
「そうだっ」
お母さんは立ち上がると、台所から包丁を取ってきて次男にフルスイングしました。
「いやあん」次男の手が取れました。
「ほあっ」お母さんが長女のお腹を蹴ると、長女は開いた窓から落ちていきました。ところでこの家はマンションの七階でした。
「あちょー」
長男はお腹から血を出しました。
「お母さんっ」次男が手を食べながら叫びます。「お母さんっおいしいっ! これおいしいよっ! ああっいいっ」
「お母さん最高! うめえうめえうまいこれほんと」
長男は自分のお腹を食べながらきゃいきゃいと叫びます。その内どんどん自分のお腹の中に入って行ってしまいました。お母さんは次男をまた切りました。
「ただいまあどうしたんだこの子下で寝ていたよ」お父さんが帰ってきました。手には長女っぽいものを持っていました。
「あなたあおかえり! いただきますっ」
お母さんはそういうと、お父さんを頭からぱくりと食べてしまいました。お父さんは食べられてしまったので、あああと思いました。そしてお母さんのお腹の中の目玉焼きと西瓜と虫を食べました。
みんなおなかいっぱいで嬉しいなとお母さんは思いました(長女は蹴りを食らったのです)。
ある日のある一家のことでした。
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