第23話

半年後の昼。

ルミンさんとの約束通り、ダンジョンから出ると、街中は慌ただしい様子だった。


「どうしたんですか?」


目の前を通り作業としていた冒険者に声をかける。


「知らないのか?!魔龍が攻めてきたんだ!」

「魔龍!?何匹?」

「20匹はいる筈だ!」

「そんなにか…」

「今、ゼルスさんが向かってくれてるけど、数が多いからな…」

「何!ゼルスが向かっているのか?!早く行かないと!魔龍はどこにいるんだ?」


男に魔龍が攻めてきている場所を教えてもらい、俺は走り出す。場所は前に魔龍と戦った草原。そっちの方向に何かあるのか?地図を見た事がないけど、もしかしたら魔族の国があるのかもしれないな。


走り続けること、半時間。レベルが上がった事で、俺の走る速度も上がっている。かなり早く草原に着く事ができた。


「ゼルス!」


草原で30匹の魔龍と戦っているゼルスを見かけて俺は声をかける。聞いていた数より多いな。


「おう!タロウも来たのか!」

「ああ!せっかくの経験値だからな!」


魔龍を倒せば、かなり経験値がもらえるからな。レベルアップ目的の俺達としては、こういうモンスターがいてくれると助かる。まあ、他の人達からしたら迷惑な存在以外の何者でもないけどな。


「行くぞ!」


そう叫んで跳躍すると、魔龍の横っ面に内壊波を放つ。それだけで魔龍は動かなくなり、霧になって消えた。戦闘中だけど、命石は回収しておく。見失うとは思わないけど、草が生い茂っている草原という場所が場所だけに、見失わないと断言はできない。俺と同じようにゼルスも命石を拾っている。


「キーサは?」

「あいつは街の防衛だ。今頃、街全体に結界を張ってるんじゃないか」

「そうか。キーサも来れたら良かったのにな。そしたら、かなりレベルアップができるのに」

「まあな。でも、そんな事を考えているのは俺達くらいで他の奴らは怯えているだろうからな。誰かが守らないといけないってわけだ」

「…そうだな。それじゃあ俺達はさっさと魔龍を倒して帰るか!」

「おう!」


魔龍との戦闘を始めて数分が経った。俺はついゼルスの攻撃を見てしまう。理由は簡単だ。


「ギャ…アッ!」


ゼルスに首を斬られて魔龍が呻き、霧になって消える。ゼルスは剣士だから、それは良い。ただ、ゼルスは魔龍の首を一刀両断していた。どう見ても首の太さより、刀身が短い。切れ味も凄いが、ゼルスの腕前がすごい。あー…早くゼルスと闘いたいなぁ。

そんな事を考えながら魔龍の頭に内壊波を放って殺す。そんな事を数度続けていくと、魔龍がいなくなっていた。いや、全滅していた。


「呆気なかったな」


ゼルスの言葉に俺は頷く。


「前の魔龍と同じ強さだった。これは経験値はそんなに貰えていないと思う」


俺の言葉通り、レベルはそんなに上がっていない。390→395だ。


「ゼルスのレベルはどうだった?」

「俺は440→447だ」

「俺より上がった数値が高いな」

「倒した数じゃないか?俺は20匹殺した」

「俺は15匹だ。確かに少ないな。っていうか、最初は35匹もいたのか!?」

「そうなるな」

「まったく…」


「やはり、貴方達は強いですね」

「誰だ!?」


ゼルスはそう怒鳴るけど、俺は声の主が分かっていた。前にも聞いた覚えがあるからな。

予想通り、俺達の前方に現れたのは魔族の男だった。以前、魔龍を使役して進行してきた魔族だ。


「お久し振りですね」

「…知り合いか?」

「前に魔龍を使役していた魔族だ」

「ああ、お前が逃げられた時の」

「ぐ…そうだ。その事は思い出させてくれるな」


ゼルスの言葉に苦笑いする。


「どうやら街にも結界を張っているようですね。という事はあの魔法使いも元気なのですね」

「そうだ。今日はどうして来たんだ?俺達が健在だという事は分かっていただろ?」

「いえいえ、そこまでは分かりません。目的は以前と同じです。貴方達の生存確認ですよ。もし貴方達が死んでいる、もしくは街にいない状況だったのなら、このまま侵攻しましたけどね」


まずいな。俺達がいないと、この街は終わりだ。3人同時にダンジョンに篭る事は避けた方が良いかもしれない。


「それでは俺は失礼しますね」


そう言うと、魔族は消える。以前と同じで気配も感じ取る事ができない。


「逃がすか!」


俺はそう言って探知魔法を発動させる。


「…そこか!」


探知魔法は効果があった。逃げていく魔族の位置が分かったのだ。俺は幻痛を魔族の右腕に向けて放つ。


「ぐあっ!?」


その瞬間、魔族が悲鳴をあげて姿を現す。


「腕が!!………ある?」

「ほう、気づくのが早いな」

「…今のは貴方の技ですか?」

「そうだ」


この攻撃なら姿を現すようだな。さらに俺は幻痛を繰り返しながら魔族に近づく。幻痛を受けるたびに魔族が呻くけど関係ない。そして首に向けて幻痛を放つと一瞬、魔族は動かなくなった。その隙を逃さず、俺は一気に距離を詰めると、魔族の頭を殴る。その瞬間、魔族の頭は破裂した。


「うおっ!」


攻撃した本人である俺が驚いてしまった。まさか破裂するとは…今のは内壊波みたいな気を使う技を使ったわけではない。単に思いっきり殴っただけだ。今の俺の実力だと、思いっきり殴っただけで、人体なら破裂させられるようだ。気をつけなければいけないな。

そんな事を考えていると魔族が霧になって消える。跡には命石が残されていたので、それを回収する。


「他に魔族はいるのか?」

「いや、さっきの探知魔法には他の魔族はひっかからなかった」


ゼルスに聞かれたので素直に答える。


「そうか、残念だ。俺も魔族と戦ってみたかった」

「あ、悪い。倒す事に集中し過ぎて、ゼルスに俺が倒していいか、聞くのを忘れてた。すまない」

「いや、その事は気にしていないぞ?単に魔族と戦いたかっただけだ。さて、そろそろ帰るか。皆にも危険が去った事を報告しないとな」

「ああ」


ゼルスの言葉に同意して俺達は街に戻った。


「キーサ、大丈夫だったか?」


街に戻った直後に出会ったキーサに声をかける。


「ええ。こっちは何もなかったわ。正直、つまらなかったわね」

「そうか」

「そっちはどうだったの?」


俺は状況を説明する。


「私も魔族と戦いたかったわね」

「すまない。今度、もし魔族が攻めてきた時には、誰が街に残って誰が魔族と戦うかを相談しないといけないな」

「そうね。それとギルドに早く行った方が良いんじゃない?ギルドマスターも心配してるでしょうし、大丈夫なら、その報告を王様にもしないといけないから」


どうやらギルドマスターには王様と連絡できる権利があるらしい。


「分かった。ありがとう」


それから俺はギルドに向かう。途中で、報告が面倒だからという理由でゼルスはどこかに行った。


「タロウさん!無事だったんですね!」


ギルドに到着した俺を真っ先に迎えてくれたのはルミンさんだった。しかもルミンさんは俺を抱きしめてくる。


「ど、どうしたんですか?」

「本当に無事で良かったです」


そう言って数秒した時、ルミンさんは俺から離れた。


「…落ち着きましたか?」

「はい、すみませんでした」


ルミンさんは顔を真っ赤にしながら謝ってくる。


「気にしなくて良いですよ。ちなみにゼルスも行ってたから、俺1人で戦ったわけじゃないですよ?」

「はい、その事も分かってたんですけど…」

「まあ、無事に倒せて良かったです。ところで、ギルドマスターに報告したいんですけど」


それから俺はギルドマスターに面会し、事情を話した。魔龍を倒したところまでは喜んでいたが、魔族がいた事を話すと驚いた。


「また魔族か…」

「はい」

「それで魔族には逃げられたのか?確か、気配を感じれなかったんだよな?」

「気配は分からなかったですけど、探知魔法を使って見つける事はできました。勿論、倒しましたよ」

「なに!?倒したのか?!それはすごいな!」

「まあ、そこまで強くなかったですから」

「それでも魔族を倒せる事はすごい!ゼルスやキーサと同じで、規格外のSランクみたいだな」


規格外のSランク…俺達はそういう認識をされているらしい。まあ当然かもしれないな。自惚れではないけど、レベルが普通より高いからな。

その後、俺はギルドの受付の方に向かった。


「本当にお疲れ様でした」


ルミンさんに言われる。もう完全に落ち着いたようだ。


「そんなに疲れてないですけどね」


「師匠、どこに行ってたんですか?魔龍とかいう恐ろしい龍が出現したとかで、街は大騒ぎだったんですよ?」


ソフィアが傍に来ながら言う。ソフィアは魔龍を知らないし、前に俺が倒した事も知らないからな。


「もしかしてダンジョンに行ってたんですか?」

「いや、魔龍と魔族を倒してきたんだ」

「なんだって!?」

「魔族がいたのか?!」


俺の言葉を聞いた他の冒険者たちが騒ぎ出す。


「安心してくれ。魔族も倒したから」

「そうか!さすがタロウだ!」


冒険者たちは安堵する。


「師匠…魔龍を倒しに行ってたんですか?」

「ああ。ソフィアがこの世界に来る前にも魔龍は倒した事があるんだ。数は多かったけど、ゼルスも一緒だったから余裕だったぞ?」

「でも魔龍は強いんですよね?」

「強い。生半可な強さじゃ挑まないほうが良いだろうな」

「…やっぱり師匠はすごいです!」

「ハハ、ありがとう」


ソフィアは俺をキラキラした目で見てくる。


「そう言えば、ソフィアのレベルはどれだけ上がったんだ?」

「私の今のレベルは104です」

「すごいな!頑張ったんだな」


そう言ってソフィアの頭を撫でると喜んだ。頭を撫でられて喜ぶのは、この世界に来ても変わっていないな。


「師匠のレベルは何ですか?」

「395だ」

「すごいですね!!」

「そうだな。一般レベルはとっくに越えている」

「おいおい、謙遜ってものを知らないのか?」


冒険者の1人が絡んでくる。


「まだまだ、なんて言ったら皆に失礼だろ?395の俺がまだまだなら、俺達は何なんだって落胆するだろ?過ぎた謙遜は嫌味だからな」

「まあ…それもそうだな」


冒険者の男はそれだけで納得してくれた。もっと絡んでくるかと思ったけど意外だったな。


「さて、魔龍も討伐したしギルドマスターにも報告したし…またダンジョンに行こうかな」

「タロウさん、休む必要はないかもしれないですけど、たまにはのんびりしたらどうですか?」

「のんびり、か…そうだな、それならSランクっぽい依頼でも受けようかな」

「え?依頼ですか?」

「はい。場所はダンジョン以外のものをお願いします」

「分かりました。でも、もうすぐ夜になってしまうので、また明日来てください」

「…そうですね。では明日来ます」

「はい!お待ちしてます!」


今からどうしようかな…せっかくだから、のんびりするか。

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