第22話

「ただいま帰りました」

「どうして帰って来なかったんですか!?」


ダンジョンから出て、ギルドに報告に行くなり、ルミンさんが駆け寄ってきてそう言う。


「ど、どうしたんですか?」

「ずっと帰って来なかったから心配したんですよ!?」

「あー、確かに半年くらい篭ってましたね」


ダンジョンに入ると時間の感覚が分からなくなる。でも俺は約半年間篭っていたと言える。なぜかと言うと、朝と夜では自然エネルギーの量に変化がある事に気付いたからだ。自然エネルギーの量が変化した回数を数えていけば、自分がダンジョンにどれだけの期間、篭っていたかが分かる。


「やっぱり篭り過ぎでしたね」

「そうですよ。タロウさんが強い事は分かってますけど、ダンジョンは何があるか分からない場所です。そんな場所だから、もしタロウさんに何かあったらと思うと…」

「ちょっ…泣かないでくださいよ」


ルミンさんは泣き出してしまう。

十数秒後。


「す、すみません。取り乱してしまって」


落ち着いたルミンさんと共にギルドの受付に行く。カウンター越しに喋る、いつものスタイルだ。


「でも、なるべく早く帰ってきてほしいです」

「そんなに俺の事を心配してくれる理由は何ですか?」

「え?あ、それは…タロウさんが特別だからです」

「俺が特別?」


ルミンさんにとって俺は特別らしい。でも特別になるような事をしたつもりはない。


「はい。だって私はタロウさんの事がす…っ!いえ!なんでもないです!」

「そう言われると気になりますね」


す、から始まる言葉か。ルミンさんが好きだから、少し期待してしまうな。


「えっと…す…素晴らしく強い人だって言いたかったんです」


ちょっと無理矢理っぽいけど、ここで詮索しても仕方ないか。


「タロウさんもですけど、ゼルスさんもキーサさんもです。3人共、史上最高のレベルに達している人達ですから。失うのは、この世界の損失なんです」

「成程、俺達は貴重な人間なんですね」

「そうです!」


やっぱり無理矢理感があるな。


「それじゃあ今度からは、どれだけの期間、ダンジョンに篭るかを言ってから篭りますね。そしたらルミンさんも心配しないですよね?」

「はい!そうしてくれると助かります」

「分かりました。それじゃあ」


それから俺は素材と命石を換金して宿に向かった。今日は宿で休憩する予定だったからだ。別にダンジョンの地面で寝る事に不満はないけど、たまにはベッドで寝たいからだ。


〜ルミンside〜


「はぁ…」


タロウさんがギルドから出て行ってから私は小さな溜め息を吐く。

もう少しで好きって言っちゃいそうだった。でも受付嬢として担当したタロウさんをサポートするのが私の務め。恋愛感情なんてもったらいけない。


「あーあ、告白したら良かったのに」


私に近寄りながら、同じ受付嬢のセティ(同年代)が話しかけてくる。


「きっとタロウさんもルミンが好きだよ?告白しても断られる心配はないって」

「そう言うけど、私達ギルドの受付嬢は冒険者の皆さんをサポートするのが務めでしょ?好きになっても告白なんてしたらダメなんだよ」

「そんな事はないよ?だってエスト先輩は自分が担当してる冒険者の剣士と交際してるよ」

「そ、そうなの?!」


そんな話は初めて聞いた。


「そうだよ。交際してる事を隠してないし、その上でギルドから何も言われないんだから、冒険者と交際しても大丈夫なのよ。だからルミンも告白したら?」

「でも…」


簡単に割り切って告白する勇気もない。


「…まあね。どっちかって言うと、男性から告白されたいわよね」


セティは勘違いしてくれたみたい。


「でも、そんな気持ちで良いの?強力なライバルが出現してるのに」

「もしかしてソフィアさん?」

「そう。タロウさんのいた世界出身で、タロウさんの弟子のソフィアさん。あの態度はタロウさんに恋してるね」

「うん、それは私も思う」

「そうでしょ?!だったらソフィアさんより先に告白しないと!」

「だから、しないって!」


そうは言ったけど、タロウさんと付き合いたいなぁ。でもソフィアさんの気持ちを尊重したいし……はぁ…。


〜タロウside〜


翌朝。俺はギルドのルミンさんのもとに行く。


「おはようございます」

「おはようございます。今日もダンジョンですか?」

「はい。それじゃあ、今回は半年ほどダンジョンに篭ってきます。半年後に顔を見せますから、心配しないでくださいね?」

「その事なんですけど…昨日はすみませんでした!」


ルミンさんが急に謝ってくる。


「何がですか?」

「冒険者は自由な身分です。自由と言っても何をしても良いというわけではないですけど、ダンジョンに篭る期間がどれだけ長くても私達、ギルド職員には、それについて言う権利はないんです。それなのに私はタロウさんが長く篭っていた事に文句を言ってしまいました…本当にごめんなさい…」

「気にしなくて良いですよ。ルミンさんが本気で心配してくれたのは分かってますから。だから謝らないでください」


本当に謝らなくて良い。確かにギルド職員としては、悪い事をしていない冒険者に、関わり過ぎるのは良くないだろう。でもルミンさんは本気で俺を心配してくれた。俺はそれが嬉しかった。


「…私の事、怒ってないですか?」

「怒ってないですよ」

「良かった…タロウさんに嫌われたらどうしようかと思いました…」

「俺がルミンさんを嫌いになる事はありませんよ」


俺はそう言って笑う。ルミンさんも笑ってくれた。


「それじゃあ半年ほど篭ってきます」

「期間を言って行くんですか?」

「はい。だから半年間、心配しないでくださいね?」

「はい、半年後、タロウさんが無事に帰ってきてくれるのを楽しみに待ってます!」


ルミンさんは笑顔で言ってくれる。


「いいですね。やっぱりルミンさんは笑顔が可愛いですよ。それじゃあ行ってきます」

「い、行ってらっしゃい!」


さて、ダンジョンに行くか。

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