第19話
ソフィアと再会してから、ルミンさんにダンジョンから出た事の報告に行く事にした。その時、なぜかソフィアもついて来た。ゼルスとキーサは喫茶店で別れた。
「ソフィア、時間は大丈夫なのか?」
ギルドまでの道中、ソフィアに聞いてみる。
「はい。もう師匠と離れたくないんです。あの時は、とても寂しかったから…」
「そんなに寂しいものか?師匠とはいえ、他人だぞ?」
「でも師匠は私を家族のように大切にしてくれました。私にとって師匠は両親と同じくらい、大切な家族なんです」
「ハハハ、そうか」
そこまで思ってくれてるとはな。確かに、一緒に食事をしたり、旅行に行く事もあったけど。恋愛の意味で親しくなりたかったわけじゃなく、俺を信頼してほしい目的だったんだけどな。
「だから、もう師匠を離しません」
そう言ってソフィアは微笑んでくる。
さて、どうしたものか。思い返せば、俺のしてきた事は恋愛相手でもないのに、過剰に接し過ぎたのかもしれない。ソフィアの俺への恋愛感情には気づいている。NOと言うのは簡単だけど、それによって俺への感情が変化し、弟子としてきちんと聞いてくれなくなる可能性がある。ソフィアは魅力的だけどOKと言うのもなぁ。
「どうしたんですか?」
「ん?ああ、少し考え事をしていたんだ」
どうやらソフィアが気になる程度の時間、考え事をしていたらしい。
そうしている内にギルドに着き、俺達はルミンさんのもとに向かった。
「お久し振りです!タロウさん、無事に帰ってきてくれたんですね!」
ルミンさんが微笑みながら言ってくれる。その言葉が社交辞令などではなく、本心から言っている事が分かるので、すごく嬉しい。
「はい。またルミンさんの笑顔が見れて良かったです」
「そ、そうですか?」
ルミンさんの頬が赤くなっていく。
そうだ、俺はルミンさんに恋をしている。それが分かれば、ソフィアも諦めるのではないだろうか。そうすれば、恋愛感情なしの師匠と弟子の関係になれるんじゃないのか?
「そ、そういえば、今日はソフィアさんはどうして一緒に?」
「ルミンさん、ソフィアを知ってるんですか?」
「私が担当してますから」
「すごい偶然ですね。ソフィアは元の世界で俺の弟子だったんですよ。まあ、これからも俺の弟子でいてくれるというんで、師弟の関係は変わらないですけどね」
「そうだったんですか!」
驚いた。こんな偶然もあるんだな。
「タロウさんの弟子だったんですね。それならソフィアさんの強さにも納得がいきますし、武器が自身の肉体というのも頷けます」
「やっぱり格闘家は珍しいですか」
ソフィアがルミンさんに聞く。
「珍しいです。歴史上、異世界から転移してきた格闘家の人は2割程度だと思います」
「少ないですね」
「やはり剣や魔法の方が相手に大きなダメージを与えられますからね。格闘家でありながらタロウさんのような強さを持っているのは異例です」
ルミンさんの説明に納得する。自身の肉体を、相手を殺せるほどに鍛えるよりも、剣や魔法の方が比較的、早く殺せる程には強くなれるからな。
ちなみに剣や魔法を馬鹿にしているわけではない。効率よく相手を倒す手段としては、肉体を武器にするよりも効率的だと言いたいだけだ。
「これからタロウさんはどうするんですか?」
「ダンジョンに行こうと思います」
「またですか?!」
「はい。でも今回はソフィアのレベルを上げるためと、訓練をするためです」
ダンジョンなら、あまり人目を気にしないで気の扱い方を教えられるし、モンスターが来れば倒して経験値を貰えるしな。ソフィアにとっては良い場所だと思う。
「ソフィアは時間はあるか?」
「はい!大丈夫です!もし何か用事があっても、師匠との訓練を最優先します」
「いい心がけだけど、本当に大切な用事なら、そっちを優先して良いからな?」
「ありがとうございます。でも今日は本当に大丈夫です」
「じゃあ、行こうか。ルミンさん、それじゃあダンジョンに行ってきます」
「行ってらっしゃい。タロウさんもルミンさんも気をつけてね」
「「ありがとうございます」」
礼を言ってからダンジョンに入った。
今回はソフィアのレベル上げが優先だから、そんなに下層までは行かない。
「まずはソフィアの強さを見る。もうすぐゴブリンが1匹くるから、倒してくれ」
「はい!」
俺の言った通り、1匹のゴブリンが来た。ソフィアは構え、俺は後ろに下がる。まあ、下がる必要はないかもしれないけどな。ゴブリン程度の強さなら、俺を強敵と見るだろう。そして勝てる相手に狙いを定める。まあ、つまり、俺ではなくソフィアに狙いを定めて、ゴブリンはヨダレを垂らす。ゴブリンは人間の女を性的な対象に見ており、女であれば、性行為を行おうとする。だから女冒険者からは嫌悪されており、冒険者ではない女からは恐れられている。
まずゴブリンが棍棒を片手にソフィアに襲いかかる。
んー、避ける事はできたけど、避けた後に隙ができてるな。ゴブリンは1匹だから良かったけど、複数なら隙をつかれて攻撃されていたかもしれないな。
そういえは、ソフィアは対武器戦をした事がなかったか。今後の課題だな。
その後はゴブリンの棍棒攻撃をギリギリで避けながら攻撃するという展開が続き、ついにソフィアの拳がゴブリンの顎に直撃する。その衝撃で倒れたゴブリンの喉を取り出したナイフで切り殺す。
躊躇なく殺せたな。まあ、この世界でモンスターを殺せないなら、2週間でレベル7になるのは難しいか。採取依頼で得られる経験値なんかしれてるからな。
「はぁ…はぁ…ふーー。どうでしたか?師匠」
命石を拾い、息を整えたソフィアが聞いてくる。
「及第点だな。ただ棍棒の避け方がギリギリ過ぎて危なっかしかったな。でも殴る時の身体の使い方は良かった。今後は武器を持つ相手への対処法を教えないとな」
「はい!」
「でもナイフを持っているのに、ナイフでの攻撃は考えないのか?」
「当たり前です!師匠に教えてもらっている格闘技は捨てられないし、捨てたくないです!…ただ、師匠みたいに決定的な攻撃力がないので、トドメはナイフに頼ってしまってるんですけど…」
ナイフを使う事を申し訳なさそうに言う。
「俺が、武器を使う事に怒っていると思っているのか?」
「…はい」
「それは違うぞ。この世界で冒険者をしてるんだ。トドメを刺す攻撃力が無いなら、武器を使うのも仕方がない。そういう臨機応変さは大切だ」
もし格闘だけにこだわっていたら、危険な目に遭っていただろう。臨機応変さは大切だ。
「ありがとうございます!」
しかしゴブリン1匹で息を乱すか。慣れるまでは、命のやり取りは精神的に疲れるのだろう。俺は元の世界で命のやり取りをしていたから、その点は平気だったな。これは慣れるしかないから、俺は何もしてあげられないな。
その後も、同じ階層でゴブリンばかりを相手にして、ソフィアの実力を見てきた。
ソフィアに教えた格闘技は打撃と投げ、そして締めだ。格闘技の試合で使える技術だ。命に関わる危険な技は教えていない。危険だからな。でも、これからはそういう危険な技術も教えていかないといけないか。
その後はゴブリンを相手にソフィアの実力を確かめながら、何が足りないかを指摘していく。
「今日はありがとうございました」
夕方、ダンジョンから出るとソフィアがお礼を言ってきた。
「ソフィアは格闘の技術に関しては申し分ない。ただ、対武器戦が得意ではない。だから明日からは本格的に対武器戦の格闘技術を教えていこうと思う。それで良いか?」
「はい!よろしくお願いします!」
これから俺は自分を鍛えつつ、ソフィアも鍛えていく。ソフィアは飲み込みが早いから、成長が楽しみだ。
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