第16話
キーサに魔法を教わって1週間。俺はずっと探知系の魔法を使えるようになろうと努力していた。その練習を宿の自室で行なっていた際、魔力を使い過ぎて気絶してしまった。まあ、お陰で現在の自分の魔力量が分かったけどな。
魔法の方は、ようやく形になってきたと思う。探知の精度は100%、範囲は半径5kmほどだ。目標は国がすっぽり入るほどの範囲なんだけど、範囲を広くするためには大量の魔力が必要なようで結論から言うと、俺の魔力量では厳しい。魔力量を増やす方法をレベルを上げる事しか知らないけど、調べれば他にもあるだろう。キーサに聞けば分かるかもしれないけど、流石に迷惑だと思うから、図書館に行ったりして自分で調べる事にした。
「お久し振りですね。最近、見かけなくなったので心配してたんですよ?」
ある日の朝、俺がギルドに行くとルミンさんがそう言ってくれた。表情などから判断して嘘や社交辞令の類ではないと分かって、すごく嬉しい。
「すみません。魔法の練習をしていたら、出かけない事が多くなってしまって」
「魔法の練習っていうと…キーサさんに教わった事ですか?」
「はい。前回、魔族には逃げられてしまったので、今度は逃げられないように探知系の魔法を使おうと思ってるんです」
「使えるようになったんですか?」
「はい。まだまだですけどね」
「それでもすごいですよ!」
ルミンさんの態度に驚いてしまう。そんなにすごいかな?
「だってタロウさんは武術家ですよね?剣士もそうですけど、魔法を使わない人が急に魔法を使えるようになるのはすごいですよ」
「良い師匠に出逢えたお陰ですね」
「う〜ん、タロウさんの素質もあると思うんですけど、キーサさんのお陰でもありますね」
俺の素質か…何を言われても気にしないけど、あまり素質だったり才能だったりと言われるのは抵抗があるな。今の俺があるのは、努力の結晶だと思っている。まあ努力の天才と呼ばれるなら悪い気はしない。
「それで今日はどのようなご用件ですか?」
ルミンさんが話題を変えてくる。表情や態度に表していないはずだけど、少し表れていたのかな?それともルミンさんには人の感情の機微がわかるような術でもあるのか…
「今日からまた冒険者として活動しようと思っていて…とりあえずSランクになろうと考えています」
「ついにSランクを目指すんですね!」
「はい。そのためにAランクの依頼をどんどん受けようと思って」
「そうですか。頑張ってください!タロウさんなら、きっと、すぐSランクになれますよ!」
「そう言ってくれると、嬉しいです。その言葉に応えられるように頑張ります!」
それから俺はAランクの依頼を受け続ける。それこそ昼夜問わず、毎日。討伐系の依頼ばかり受けたけど、特筆すべき事はなかった。ダンジョンのモンスターに比べたら弱すぎる。
「おめでとうございます!Sランクへの挑戦資格を得ましたよ!」
依頼を成功した事を報告した時に、ルミンさんが教えてくれた。
「もうですか。意外に早かったですね」
「そうですね。私もビックリです!」
「S級になるにも、誰かと闘わないといけないんですよね?」
「はい。でも今回の相手は今までとは違って一筋縄ではいかないかもしれません。今回の相手は…ゼルスさんです!」
「ゼルスとですか!?」
「はい。知っての通り、ゼルスさんは人族の中では1番強いです。怖いですか?」
「とんでもない!絶対にゼルスと闘い、そして勝ちます!」
ゼルスとの闘いか…この世界に来てから強者と闘う機会がなかったけど、やっと闘えるんだな。…でも今の俺だと、良い勝負はできないかもしれないな。何せ、ゼルスのレベルは290になっているからな。ちなみにキーサのレベルは272になっている。2人共、ダンジョンにこもっているらしい。やっぱりダンジョンのモンスターは経験値が多いんだな。その結果、ダンジョンの攻略階層は300階層になっている。
「どうします?Sランクに挑戦しますか?」
「いえ、もう少しレベルを上げてからにします。そうしないと今のゼルスとは良い試合ができないから」
「分かりました。それではSランクになりたい時には教えてください」
「はい。ありがとうございます」
さて、ダンジョンに行くか。
1ヶ月後。ダンジョンに篭り続け、俺のレベルは201→305になった。
でもゼルスもレベルを上げており、今は350になったらしい。キーサは320だ。
どうやら300から先は上がりにくくなるらしい。
そろそろ挑戦するか。
「いらっしゃいませ!今日はどうしたんですか?」
「Sランク試験を受けに来ました」
朝、ギルドに行き、ルミンさんに報告した。
「そうですか。でもゼルスさんがいないと試験はできないんです。ですからゼルスさんの居場所が判明してからで構いませんか?」
ゼルスはレベル上げのためにダンジョンに行ってるからな。ゼルスとの試合が試験だから、その本人がいないと試験ができない。でも、その点は解決済みだ。
「それなら大丈夫です。ゼルスは今、ギルドに向かっているはずです
「どうして分かるんですか?」
「さっきゼルスに会って、事情を話したからです」
「準備が早いですね」
「よう!待たせたな!」
ギルドに入ってきたゼルスが俺達に近づきながら声をかけてくる。
「事情は聞いてる。早速、試験をするか!」
「よろしく頼む」
「おう!ただ試験は別として、別の日にでも試合をしようぜ?試験はルールだらけだからな。試合で全力で闘いたい!」
「ああ。俺もゼルスと本気で闘いたい。でも、まずは試験だな」
「そうだな。言っておくが、倒せると思うなよ?」
「いや、倒す気でいく。試験のルールの中で、全力を出し、そして…勝つ!」
「言うじゃないか。だけどな、俺は強いぞ!」
「お、お2人共、落ち着いてください!」
ルミンさんの言葉で俺は、自分達が気迫を出している事に気づいた。無意識に出していたみたいだ。ゼルスもそうだったようで、慌てて気迫を消す。
ここでいう気迫は、やる気のようなもの。目には見えないが、周囲の人や動物に対して精神的な圧迫感を与えてしまう。この世界に来て、レベルが100を超えたあたりから、こういう意味での気迫が使えるようになったけど、コントロールするのは難しいな。
「すみません、ルミンさん。それに皆も」
「悪かったな」
俺とゼルスは、ルミンさんや他のギルド職員、それに冒険者達に謝った。皆も俺達を驚きながら見ていたからな。誰彼構わず、精神的に圧迫してしまう気迫、これは使わないようにコントロールする必要があるな。
「とにかく、試験だ。今から受けるだろ?」
「当然。ゼルスがダンジョンに行く前にやらないとな」
「ハハハッ!確かにその通りだな!」
それから俺達はルミンさんに案内されて、試験場に向かった。
「あれ?キーサ、どうしてここに?」
試験場に着くと、キーサがいた。
「今回の試験はゼルスとタロウだからね。審判であるギルド職員に被害がいかないように結界を張るように要請されたのよ。闘いに割り込むような事はしないから安心してね」
そう言うとキーサは審判を務めるギルド職員のもとに飛んで行き、数秒してから審判にOKサインを出した。
「それでは、これより冒険者ランクAのタロウの、Sランク昇級試験を始める!相手はゼルス。これは試験であり、試合ではない。タロウ、試験は勝敗より、勝負の内容を重視している。その事を忘れるな」
「はい」
「それでは試験、始め!」
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