第9話
「おめでとうございます!」
ランク昇格をかけた試合を終えた俺に対してルミンさんが声をかけてくれる。
「ありがとうございます!」
「ギイテさんも強いんですけどね。タロウさんはそれ以上に強かったですね」
「この調子でどんどんランクを上げていきますよ!」
「ふふ、頑張ってくださいね」
その後はランクFに見合った依頼をこなしていき、夕方になった。
「それでは宿に行くんですか?」
「はい。夜通しできる依頼はないので、素直に宿に帰る事にします」
そうして俺は宿に行く。
翌日もギルドで依頼をこなし、数十日後にはBランクまで上げる事ができた。この間、討伐系の依頼ばかり受けてきたが、強いモンスターに遭遇する事はなく、結果、レベルは6しか上がらず、86で止まった。
「はぁ、やっぱりレベルは上がらなかったなぁ」
夕方、宿の食堂で夕食を食べ終えて寛ぎながら、俺はため息をつく。
「なんだ、レベルが86まで上がったのに不満なのか?」
隣の席の冒険者の男が俺に声をかけてくる。
「それにランクもBだろ。贅沢しなけりゃ、普通の生活ができるじゃねえか」
「生活は質素でもいいんだけど、強さは普通では満足できないんだ」
「どの程度の強さなら満足できるんだ?」
「最強だな。誰よりも強くなりたい。元の世界でも最強だったから、この世界でも最強になりたい。わがまま過ぎるのは分かってるんだけどな」
そう言って俺は苦笑いする。自分でも分かってるんだ。おこがましいのは。でも最強にはなりたい。その為の努力なら欠かさないしな。
「最強か。俺は今でも満足してるんだけどなぁ。まあ、頑張れよ!」
「ああ!」
男が言葉だけではなく、本心から応援してくれている事が分かったので、嬉しかった。
さて、ランクもBになったし、明日からダンジョンに行くか。まだ誰も俺がいた階層よりも下には行ってないから、90階層からスタートだな。100階層にはボス的なモンスターがいると期待してるんだけど、どうなるかな。
翌朝。俺はギルドでルミンさんにダンジョンに行く事を報告しに行った。
「またダンジョンに行くんですか?」
「はい。ランクも上がったので、そろそろ100階層には行きたいと思ってるんですよ。キリがいいし、もしかしたらボス的なモンスターがいると期待してるんです!」
「なるほど。確かに、いそうですね。でも、それなら尚更気をつけてください。どんなモンスターがいるか、誰も知らないので」
「はい!」
そうして俺はダンジョンに入る。そして一気に90階層に着いた。
ここまでのモンスターとは極力、闘わないようにしている。命石を入れる鞄にも限界はあるし、少しでも体力を使いたくないからだ。
「さて、やるか」
90階層に着いて早々、複数のモンスターに囲まれた俺は呟く。ちなみに俺を囲んでいるのはダンジョンで最後に見たモンスター、オーガ。ギルドカードを見た時に、俺が倒したモンスターの名前が出たので、オーガだという事が分かった。
こいつらの命石は高く売れるけど…今回は拾わずに置いておくか。まだまだ潜るわけだし、経験値のために闘うけどな。
それから俺はオーガの群れを一気に倒していく。目的地はダンジョンの100階層だ。
「やっと着いた。やっぱり下の階層に行けば行くほど、広くなってるんだな。なかなか階段が見つからなかったぞ」
俺は今、ダンジョンの100階層に通じる階段の前に来ていた。ここを下りればついに100階層。強い気配も感じるし、間違いなく、強いモンスターはいる!今の俺のレベルは93。微妙だな。せっかくだからレベルが100になるまで我慢するか。レベル100で100階層に到達。うん、その方が良いな。
そう考えた俺はそれから99階層でレベル上げをするためにオーガを倒しまくる。
「それにしても、オーガしかいなかったな」
どれ程の時間が経ったか分からない。ただ、86だったレベルはついに100になった。
「さぁ、いよいよ100階層だ!」
気合いを入れて俺は100階層への階段を下りる。下りた場所は、かなり広い場所だった。天井も高い。これは期待できるな。
「…お出ましか。まさか、こんな所で遭遇できるとはな」
つい俺は笑ってしまう。原因は俺の前方に現れた存在。それは映画やゲームで見たドラゴンだった。見た目は西洋のドラゴンだな。色は赤い。大きさは足を4本、地面につけて首を上に伸ばした状態で、5メートルといったところか。
「さぁ、闘おうぜ!」
「グアアアアーッ!!」
俺の言葉に応えるようにドラゴンは吼える。
まずは挑戦者である俺から仕掛けるか。そう思って一気に距離を詰め、ドラゴンの右前足を殴る。
「硬いな!」
鱗がとても硬い。これは本気で殴るしかないな。そう考えて今度は本気で殴る。すると拳が鱗を突き破ってしまった。まさかの結果に驚いて、拳を引き抜く。拳にはドラゴンの血がつあていた。
「ギャオオオオオッ!?」
ドラゴンが悲鳴をあげる。
「悪いな。まさか鱗を突き破るとは思わなかったんだ」
謝罪の言葉は少しだけ本気だ。そんな簡単に突き破れるなんて思わなかったからな。
次の瞬間、ドラゴンが爪で俺を斬ろうとする。その爪を、あえて受け止めようとしてみた。
「っ!」
ドラゴンの攻撃の勢いに負けて、俺は数メートル吹き飛ばされてしまった。
「でも、さすがレベル100ってところかな」
爪の攻撃を受けたけど、俺は無傷だった。気で強化した体で受けたけど、それプラス、レベル100の耐久力でドラゴンの攻撃にも耐える事ができたな。
ん?ドラゴン、口を開けたな。口の中に炎が見える。これは炎を吹き出すのかな?さすがに、それを喰らうわけにはいかない。
ドラゴンが炎を吹き出す前に俺は距離を詰めて、ドラゴンの顎めがけて跳躍する。元いた世界でも跳躍力は高かった方だけど、この世界でレベルが上がったから、さらに跳躍力が上がったな。顎まで簡単に跳躍できた。
「行くぞ!
俺はドラゴンの顎を蹴り上げる。
「ガフッ!?」
俺は、衝撃で上を向いたドラゴンの頭部を本気で殴る。
「おう…マジか…」
拳が直撃したドラゴンは少し浮いて横に倒れる。その光景に驚いてしまった。
しかし、これで倒すことはできず、ドラゴンはゆっくりと立ち上がる。それでもダメージはあったようで、ふらふらしている。
さすがドラゴン。耐久力があるな。でも俺の攻撃が通じる事は分かった。でも打撃だと倒せないな。本気で殴ったのに立ち上がるんだから。それなら斬撃かな。
そう考えて一気に距離を詰めると、手刀でドラゴンの左前脚を斬る。するとドラゴンの左脚が斬れて血が出た。
よし、通じるな!
俺はドラゴンの体を駆け上がり、首を手刀で斬る。といっても両断はできなかった。
「グギャオーーーッ!!!」
ドラゴンは悲鳴をあげる。悪いな、一発で仕留められなくて。でも、これで最後だ。俺は自分が斬った方とは逆側のドラゴンの首を手刀で斬る。ドラゴンは、首は両断はできなかったが、血がたくさん噴き出して倒れる。しばらくドラゴンは暴れていたが、やがて動かなくなって、煙になって消えた。残された場所には命石と牙と爪が落ちていた。
「倒す事はできたけど、あまり良い勝ち方ではなかったな。ドラゴンにも苦しい思いをさせてしまった。もっとスマートに勝つ事ができるやうにならないと」
ドラゴンの苦しそうな死に際を見て、苦しませないように倒さないといけないなと決意した。
さて、今度は命を石だけじゃなくて、素材も拾っておくか。ドラゴンの素材なら高く売れそうだし。そう思ってドラゴンの命石と素材をカバンに入れる。
さて、もう少し進むか。
面白い事に100階層は、この空間で終わり。ドラゴンを倒して進むと、下へ続く階段があった。そこを下りた先が101階層だ。101階層も広い空間だった。そして出現するモンスターはオーガとドラゴンだった。しかし、ここに出現するドラゴンは立ち上がった状態で3メートルほどの大きさだった。
「本当ならドラゴンはきちんと闘って勝ちたいんだけどな。レベル上げが先だから、簡単に倒させてもらうぞ」
俺は目の前で煙になって消えていくドラゴンに向かってそう言った。レベル上げのためだから、恐怖の波動と幻痛を使って一瞬で倒しているからだ。他のモンスターと同様、このコンボは効果的だった。ちなみに、このコンボが効かない相手は俺よりも強い存在。もしくは恐怖心を持たないもの。今のところ、そういう存在に遭遇していないけどな。
打撃で一撃で倒せたら良いんだけど、まだ一撃で倒せないからな。
そして俺は120階層を過ぎ、121階層に続く階段の手前に来ていた。
そろそろ帰ろうかな。袋も一杯になってきたし。そう考えて俺はダンジョンから出る事にした。
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