第4話
「レベル10でも討伐依頼を受ける事は無理なんですか?」
ギルドに戻った俺はすぐにルミンさんに訊いた。
「駄目です。いくらレベルが強くても最低ランクだと不可能なんですよ」
「そうなんですか…」
「そんなに討伐系の依頼を受けたいんですか?」
「依頼というより、自分の現在の実力を見極め、そのついでにレベルを上げたいから、討伐対象を討伐したいんです」
「でしたら、ダンジョンに行くのはどうですか?」
「ダンジョン?」
「はい。ダンジョンは地下に続く迷宮です。そこには魔物がおり、その魔物を倒す事で経験値と素材、それに命石が入手できます」
「地下何階まであるんですか?」
「現在判明しているのが80階層です。それ以上は分かっていません。地下に行くにつれて魔物が強くなっているので、ダンジョンの最下層は判明していないんです」
「前に言ってたレベルの高い人でも無理なんですか?」
俺は疑問を口にした。レベルが高い人がいるのに80階層までしか判明していないのが不思議だったからだ。
まあ、もしかしたら、その人でも太刀打ちできないほど強い魔物がいるのか。
「あの人は、あまりダンジョン攻略に興味が無いようです」
「じゃあ依頼だけで、そのレベルに?」
「そうです」
それは凄いな!聞く限り、ダンジョンはレベルを上げる為にあるような場所だ。それなのに、その場所を使わずにレベルを上げていくなんて。
とてもじゃないが俺は真似をしたくない。ダンジョンを使って効率的にレベルを上げていくか。
「それじゃあダンジョンに行ってきます!」
「はい。気をつけてくださいね」
「はい!」
それから俺はルミンさんにダンジョン出入口の場所を聞いて、そこに向かった。場所はなんと、街の中心にあった。ダンジョンには魔物が棲んでいるのに、どうして外に出てこないんだろうか?
それもルミンさんに訊いたけど、どうやら昔の魔法使いが、魔物が外に出てこれないように結界を張ったらしい。
俺的には、どうして浅い階層と深い階層で魔物の強さが分かれているのかも疑問だったけど、それはルミンさんも誰も分かっていないらしい。
話を聞くほどに不思議で面白い場所だな。
ダンジョンの出入口付近には商店があった。商品は武器や防具、それに薬品各種など。それらはダンジョンに入る冒険者達が購入していく。良い儲けになりそうだ。俺の本業は冒険者だけど、副業としてなら冒険者相手の商売は良いかもしれないな。まあ、副業が可能かどうかは分からないけど。
「いらっしゃい、お兄さん、回復薬は要らないかい?」
「食料を持っていかないと餓死するよ?うちで買っていきな!」
「あんた、防具はどうしたの?!うちで買っていかないと危ないよ!」
ダンジョンに入るために歩いていると、商人から声をかけられる。しかし俺は全て断る。
俺は相手が自分より強いか弱いかが気配で分かる。強敵と闘う事は好きだが、無謀な闘いはしない。だから回復薬は要らない。
自然に存在する気を吸収すれば、食べなくても多少は生きていける。だから食料は要らない。
気で体を強化するから、防具も要らない。時速60kmで走ってくる普通車に衝突されても平気なほどだ。
そういう理由があるから商人からは何も買っていない。まあ、そこまでお金があるわけでもないし。
「なんだ…ここは」
ダンジョンに入った俺は、その光景に驚く。ルミンさんから聞いた話だが、ダンジョンは通路と広場に分かれているらしい。そして俺がいるのは通路なんだけど、明るかった。理由は天井が光っているから。明るさは日中の外くらい。通路は高さが3メートルほど、幅が5メートルほどある。
どうして明るいかは疑問だけど、これも理由が分かっていないから気にしない事にする。
さて、まずは自分の実力確認をするか。
そう考えて俺はダンジョンを進む。数分ほど歩いていると、前方から5匹のゴブリンが歩いてきた。ゴブリンは俺を見るなり、手に持っている短い棍棒を構えて叫んでいる。
「さて、試すか」
俺は1匹のゴブリンとの距離を一瞬で詰めると、ゴブリンの顔を殴る。拳が当たると、ゴブリンは吹き飛んで壁にあたり絶命した。
「力は元の世界の時と、ほぼ同じか」
その後も俺はゴブリン相手に自分の実力を確かめていく。元の世界の時と違った場合、戦略などを変更しなければいけないからだ。
しかし力や速さ、防御力など、どれも元の世界とほぼ同じだった。ほぼ、というのはレベルが10だからか、少しだけ元の世界の時より強くなっているからだ。
あと1匹だな。こいつで最後の確認だ。
そう念じた瞬間、ゴブリンは右手で左肩を抑えて呻きだす。
成功だな。次は。
恐怖の波動
そう念じると、ゴブリンは俺を見ながら尻餅をつく。
よし、これで最後だ。
幻痛
再び念じると、ゴブリンは絶命して倒れ、煙になって消えた。他のゴブリン達も消えており、素材と命石だけが残っている。
俺は命石だけを拾って鞄に入れると、通路を進む事にした。
実験は成功だな。
幻痛とは、文字通り幻の痛みを標的に与える技。その痛みは五感全てに通じ、俺が刀で斬りつける幻が見え、斬られると血の臭いがし、口内を斬れば血の味がし、自分の肉体を斬られる音がして刀が肉体を通る感触がある。それらの感覚から脳が痛みを幻ではなく、実際の傷だと勘違いする技だ。とは言っても首を斬る幻を見せても死ぬ事はなく、気絶するだけだ。
恐怖の波動は、俺に対して失禁するほどの絶対的な恐怖を標的に与える技。効果時間は24時間。ゴブリンは失禁しなかったけど、モンスターは排泄する必要がないのかもしれない。
そして恐怖の波動を受けた標的に幻痛を与えると、絶命する。
この技が使えるか試したかったんだ。試す標的にしたゴブリンには少し悪い気がするな。
ゴブリンも冒険者を殺しているわけだから、単純に謝罪するわけじゃないけど。
…ん?向こうから誰か強い人がくるな。
通路の向こう、広そうな空間が見えているけど、そっちの方向から強い気配の人が、こっちに向かって歩いてくる。だからといって身構える必要はなさそうだけどな。気配を探ってみても悪人じゃないみたいだし。
そう思って俺は相手の方に歩き出す。その人に用事があるわけではなく、その方向に進みたいだけだ。
やがて俺の前から男が歩いてくるのが見えた。あの人だな、強い気配の持ち主は。
「お、冒険者か?見ない顔だな」
俺の近くに来るなり、男は気さくに話しかけてきた。
「はい。まだ冒険者になったばかりです。この世界に来てから日も浅いので」
「そうか。レベルは?」
「10です」
「まだまだだな。…それなのに、どうして強い気配を持っているんだ?」
「え?!」
俺は男の言葉に驚いた。
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