第3話

ルミンさんの言葉に俺は驚いた。


「どうしてですか?!」

「冒険者登録をして最初の依頼は薬草摘みと決まっているんです」

「や、薬草摘み…」

「薬草摘みを疎かにしてはいけないですよ?薬草が無ければ回復薬を作れません。回復薬は冒険者にとって必須のアイテムです。だから薬草摘みは大切な依頼なんですよ」


確かにそうだな。回復薬は大切だ。


「俺が間違ってました。薬草摘み、頑張ります!」

「はい!頑張ってください!」


それから俺は街を出て、森に来ていた。この森に目当ての薬草が生えているからだ。


「どうしてルミンさんも一緒に来たんですか?」


薬草を探す俺の近くにはルミンさんがいる。


「私はタロウさんの担当官です。担当官は冒険者が初めて依頼を受けた時には一緒に行く事になっているんです」

「そうなんですか。ありがとうございます」

「何もないとは思いますが、万が一もありますからね。山賊なんかもいますし」

「山賊…失礼ですけど、ルミンさんは強いんですか?」

「自慢できるほどの強さではないですけど、戦闘はできます。レベルも35ですから」


ルミンさんのレベルを知る事ができたが、俺にはその凄さが分からない。


「そのレベルは凄いんですか?」

「一般的な平均レベルは60程度です。担当官は冒険者をサポートするのが務めですから、適度に強くなければいけないんです」

「現在の最高レベルは何ですか?」

「250です」

「凄いですね!誰なんですか?」

「誰なのかは明かせないんです。ただ、冒険者として活動していれば、いずれ分かると思いますよ。有名ですから」


ギルド職員としては簡単に個人情報を明かせないんだろうか。まあ、いずれ分かると言うんだから気にしないでおくか。


「よし、これで良いかな」

「はい、依頼の薬草摘みの規定数に達していますね。あとはギルドで報告してクリアになります」


薬草が大切なのは分かってるけど、やっぱり討伐系の依頼を受けたいなぁ。

っと、そんな事を考えていたら、強そうな気配の生物がこっちに近づいてきてるな。


「タ、タロウさん。落ち着いて聞いてください。すぐに逃げる準備をしてください」

「俺の後方ですよね?さっきから、強そうな気配が近づいて来るなと思ってたんですよ」

「どうして言ってくれなかったんですか!?」


ルミンさんは小声で怒る。


「いやぁ、闘いたかったんで。それで何がいるんですか?」

「…魔族です」


魔族と言えば人族と仲が悪いっていう、あの魔族か。よし、見るか。

俺が振り向くと、そこには肌が灰色の人がいた。いや、人ではなく魔族なんだけど。特徴としては肌が灰色で両目が赤い。

俺達に対して警戒心を露わにしている。


「逃げれますか?行きますよ」

「ちょっと待ってください。ルミンさんでは勝てないほど強いんですか?」

「はい、勝てません」

「じゃあ俺に闘わせてください。未知との闘いをしてみたいんです」


実際は、してみたいではなく、楽しみたいんだけどな。

ルミンさんは呆れた表情をしている。


「なぁ魔族、俺と闘わないか?」


言葉が通じるかは知らないけど、俺は魔族に声をかけてみる。


「無知な人族め。俺に勝てると思っているのか?」


あれ、言葉、通じたな。


「喋った!?」

「ルミンさん、どうして驚いているんですか?」

「魔族は上位と下位に分けられていて、上位の魔族は喋れますが、下位の魔族は喋れません。上位の魔族に遭遇したら諦めろ、という言葉があるほどに上位魔族は強いです」

「女、詳しいではないか。それに比べて男の方は…愚かだな」


そう言って魔族は俺を嘲笑う。


「もう逃げる事もできないですね。まさか、ここで死んでしまうなんて」


あっさり死を認めてしまうんだな。多少は抵抗すれば良いのに。いや、抵抗できないほど強いのかもしれないか。どっちにしても楽しみだ。

…俺は戦闘狂だからな。

とりあえず様子見でもするか。

俺は一気に魔族との距離を詰めると、魔族の腹を殴る。あくまでも相手の強さを見極める為なので、本気で殴ってはいない。元の世界の格闘家相手なら悶絶させる程度の威力だ。速度も本気ではないから、避けようと思えば避けれるはずだ。

そんな事を考えて拳で打ったわけだけど、拳は腹に命中した。正直、避けてくれたら相手が強い証明になるから嬉しかったんだけどな。


「ぐはっ!」


魔族は呻きながら倒れる。


「な、なんだ!この力は!?」

「いや、この程度でそんなに痛がられても…もしかして、俺を油断させる手口か?」


そんな期待をして言ってみるが、魔族が本気で痛がっている事は分かっていた。正直、凄くショックだ。


「もういいか。ルミンさん、魔族は殺しても良いんですか?」

「え、ええ、大丈夫です。遭遇してしまった場合は基本的に殺してしまっても問題ありません」

「問題があるときは?」

「自分から魔族の国に行って殺す事です。侵略ですから許されません」

「なるほど。じゃあ今回は大丈夫ですね」


そう言って俺は倒れている魔族に近寄り、頭を掴んで捻り、首の骨を折る。魔族はそれで絶命した。

あっけないな。

ん?魔族が黒い煙になって消えていくぞ。


「これはどういう状況ですか?」

「魔族は死ぬと煙になって消えるんです。魔族だけではありません。モンスターも煙になって消えます。原因は分かっていません」

「そうなんですか。…何か落ちてるんですけど」


魔族が煙になって消えた場所には手の平サイズの石が落ちていた。


「それは命石みこといしです。命の石と書きます。魔族やモンスターは絶命すると素材と命石を落とします。それらは換金アイテムなので拾っておく事をお勧めします」

「じゃあ拾っておこうかな」


俺は命石を拾う。命の石だけど、意外に軽いな。


「あ、ちょっと待ってください!タロウさん、右手の数字が変化してますよ!」

「え?あ、本当だ。10になってる。という事はレベル10になったんですか?」

「そうです!こんなに、すぐレベルが上がるのは珍しいですよ!」

「そうなんですか。もしかして魔族を倒したからですかね?」

「そうだと思います。強い敵に勝てば経験値が多く貰えるので、魔族を倒した事が原因とみて間違い無いです」


それは嬉しいな。


「それならもっと魔族と遭遇したいな。レベルをどんどん上げていかないと!」

「そう簡単に魔族と遭遇できないですけどね。今回は異例です。それにしてもタロウさんは相手を殺す事に慣れているんですね」

「えっと、俺は元の世界で戦争に傭兵として参加した事があるんですよ。自分の命に危険が迫る中で闘って、心身共に強くなる事が目的だったんですけど…軽蔑しますか?」


自分が強くなりたいという思いだけで戦争に参加した事は人からすれば軽蔑される可能性があると俺は考えている。


「いえ、そんな事はしません」


俺の考えとは違い、ルミンさんは軽蔑はしなかった。


「そうですか…そう言ってくれると助かります」

「それでは帰りましょう」

「はい」


それから俺達はギルドに戻った。

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