第2話

部屋を出ると、そこは街だった。建物は映画で観るような中世ヨーロッパ風。地面は石畳だ。


「どうですか?異世界の感想は」

「…そうだな。俺のいた世界とは気が違うな」

「気、ですか?」

「ああ。気配、空気…なんて言えば良いかな…世界の雰囲気のようなものかな」

「そうなんですか」


女性は俺の説明に分かっていないような反応をする。まあ、俺自身もちゃんとした説明ではなかったと分かっているから、気にしない。俺の説明が下手だっただけだ。


「では案内しますね」

「どこに行くんですか?」

「私の職場でもある、ギルドです。そこであなたには今後、この世界でどうしていくかを決めてもらいます」


女性はそう言って先導して歩き始める。

十数分歩き続けて、俺達は大きな建物の前で立ち止まった。


「ここがギルドです」

「予想以上に大きいですね」


窓の位置から考えて8階建てほどか。


「はい。権力で言えば、この世界で2番目ですから。ちなみに1番は王様です」

「ここは王国なんですか」

「そうです。ただ、この世界には他に国が1つしかありません。その辺りもきちんと説明しますので、まずは中にどうぞ」


そう言われて俺は女性と共にギルドと呼ばれる建物にドアを開けて中に入る。

中には沢山の人がいた。それも剣や槍を持っていたり、長い杖や短い杖を持っている人がいる。奥には長いカウンターがあり、カウンターの中には身なりの良い服装の人、外側には武器を持っている人が並んでいる。


「では、こちらにどうぞ」


女性に言われて俺はカウンターの外側に座る。対面には俺を連れてきた女性が立つ。


「改めまして、私はギルド職員のルミンと言います。これからあなたの担当官にもなるので、よろしくお願いします」

「俺はタロウです。こちらこそ、よろしくお願いします」

「はい。それでは、まずこの世界の説明をしますね」


ルミンさんの説明によると、この世界に大陸は1つしかなく、他は周りは海に囲まれている。大陸には人族と魔族が存在し、大陸を半々にして住んでいる。交易はない。魔族は時折、街の外に出た人族を襲っており、それが問題になっている。


「どの世界でも、そういう争いはあるんですね」

「タロウさんの世界にも、争いはあったんですか?」

「争いばかりでしたね。まあ最近は戦争はなくなってきてましたけど」

「どの世界でも大変なんですね。…それでは説明を続けますね」


そうしてルミンさんの説明が再開される。

この世界には、頻繁に異世界から人が来る。どういう理由で誰が召喚しているのかは分かっていない。

そうなると俺をこの世界に召喚した人、もしくは、それ以外の何者かに怒る事も感謝する事もできないな。

それから日常で使えそうな法律や、してはいけない禁忌などを教えてもらった。

まあ、簡単には覚えられないと思ったのか、ルミンさんは法律が書かれた書物をくれた。この書物は異世界から召喚された全ての人に渡しているらしい。


「最後に、この世界で生きていく為の方法を紹介します。ちなみにギルド職員には、この世界の人しか就く事はできません」

「そういうルールもあるんだな」

「はい。異世界から召喚された人が生きていく為の方法は大きく分けて3つです。1つはお店で働く事。宿屋や飲食店、商品を販売する店などです。次に農業や漁業。最後に冒険者です」

「その中なら冒険者かな。どんな仕事なんですか?」

「冒険者というのはギルドに所属する人の事です。ギルドが依頼を出し、それを冒険者が受注します。クリアすると、報酬を貰う事ができ、クリアできなかった場合、罰金はありませんが当然、報酬もありません。あまりにも依頼を失敗し過ぎると、冒険者として信頼性が低くなり、あまり依頼を受けられなくなるので注意してください」

「分かりました。依頼の内容はどんなものがあるんですか?」

「モンスターの討伐や品物の材料の調達、街の掃除なんてものもあります」

「便利屋みたいなものですね」

「その認識で合っていると思います」

「分かりました。それじゃあ冒険者になります」

「では冒険者登録をします。利き手を出してください」


言われた俺は右手を出す。現在は両利きだけど、元々の利き手は右手だから、右手を出した。するとルミンさんは短い杖を取り出し、何かを唱え始める。おそらく、呪文かな。杖を持ってるし、魔法っぽい。

呪文を唱え終えたルミンさんが杖先を俺の右手の甲に当てる。すると右手が光り出し、光が収まると、俺の右手の甲に数字とローマ字が表れた。数字とローマ字は2行になっており、上にはE、下には1と書かれている。


「Eというのは冒険者のランクです。ランクは上からS、A、B、C、D、Eとあります。Sランクは高難度で高報酬の依頼を受ける事ができ、Eランクは低難度で低報酬の依頼を受ける事ができます。下の数字はタロウさんのレベルです」

「俺のレベルが1…元いた世界であれだけ鍛えてきたのに」

「落ち込まないでください。元の世界でどれだけの達人でも、この世界に来た時からレベルは1からになってしまうんです」

「え?落ち込んでないですよ?現在の俺でレベル1なら、もっと強くなれるって事じゃないですか。楽しみですよ!」


どうやらルミンさんに勘違いさせてしまったらしい。でも、これが俺の本音だ。レベルを上げていく事が楽しみで仕方が無い。


「そうですか。それなら良かったです!実は、こういう事に落ち込んでしまう異世界の人が多いんです。それを苦にして自殺する人も何人かいました」

「へぇ、それは驚きですね。まあ、色々あったんでしょう。俺は大丈夫です。絶対に自殺はしません」

「約束ですよ?」

「約束です」


ルミンさんが微笑みながら言うので、俺は少しドキリとしてしまった。


「可愛いですね」

「何がですか?」

「ルミンさんですよ」


俺の言葉にルミンさんは動揺する。本当に自分の事だと分かっていなかったらしい。


「言われないですか?」

「言われないですよ。それに、そんな直接言う事でもないと思うし…」

「俺は思ったら言うタイプなんです。まあ、悪口は言わないですけどね」


とは言ったものの、俺に対して悪意のある態度をとってきた人には、言う確率が高いけどな。

それにしてもルミンさん、可愛いのに、可愛いって言われないなんて、おそらく謙遜だろうな。


「じゃあ早速、モンスター討伐の依頼を受けようかな」

「それはできません」

「え?」

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