第5話

「俺が強い事が分かるんですか?」


他人がどれだけ強いかは気配を探れば分かる。しかし気配を探る方法は思っているより難しい。

この男も相当の実力者のようだな。


「分かる。お前のような実力者が増えると嬉しいな!」

「どうしてですか?」

「ん?闘技場があるからだろ。知らないのか?」

「闘技場?いや、知らないです。この世界の人間ではないので」

「ああ、異世界の人間だったか。闘技場はこの世界の住人が試合をするための場所だ。まあ戦闘に慣れている冒険者が主な出場者だけどな。ただ、お互いに任意でないと試合はできない。一方的に指名して闘えないんだ」

「そんなものがあるんですね」

「ああ。レベルは低いけど、お前なら今、闘っても良い試合ができそうだな」

「あなたのレベルは何ですか?」

「俺か?俺は250だ」


レベル250!!?じゃあ、この人がルミンさんの言っていたレベルの高い冒険者か。


「あなたですか。レベル250の冒険者というのは」

「俺を知ってるのか」

「名前は知らないですけど」

「俺の名前はゼルス。よろしくな!」

「俺はタロウ。よろしくお願いします」

「気持ち悪い」

「…え?」


不機嫌な表情になったゼルスさんの突然の言葉に俺は驚いた。相手を気持ち悪くさせるような事はしていないからだ。


「何がですか?」

「その喋り方だ。そんな固苦しい言い方は止めてくれ。年齢も近いだろ?レベルは違うけど、強さも似ている。気軽に話しかけてくれ」

「…分かった。ゼルス、これで良いか?」

「ああ、タロウ、それで良いぜ!」


ゼルスは笑いながら言う。


「でもゼルスはどうしてここに?ダンジョンはあまり好きじゃないんだろ?」

「ハハハッ!その通りだ!なかなかレベルが上がらなくてな。たまにはダンジョンに潜ろうって考えたんだ。結局、レベルは1しか上がらなかったけどな!あ、じゃあレベルは251か」


そう言ってゼルスは笑う。なかなか快活な人だな。好感が持てる。


「タロウはどうしてダンジョンに?」

「レベルを上げる為と、この世界での自分の実力を確認する為だ」

「確かに、自分の現状を理解しておく事は大事だな。まあ、頑張れよ!早くレベルを上げて俺と闘おうぜ!じゃあな!」


そう言ってゼルスはダンジョンの出入口に向かっていく。

あの人と試合か…すごく楽しそうだ。その為にもレベルを上げていかないとな。

俺はそう考えて、ダンジョンを進む。

そして、モンスターを倒しながらだが、俺はダンジョンの20階層に着いた。


「ふぅ、今のところ、苦戦はしないな。もう少しいけるか」


そう言いながら俺は襲ってくるモンスターを殴り殺す。

そうして現在はレベル15になった。


「とりあえずレベルは20にしたいな。それに袋を命石で一杯にしてから帰りたいし。…魔族、出てこい!」


目標はレベルを20に上げる事。レベルを一気に上げる手段は魔族を倒す事だから魔族を呼んでみるが、魔族はこない。まあ、そう簡単に魔族と遭遇しないか。


「…もう40階層か。袋も一杯になったし、帰るか」


その後、俺は一気に地上に戻った。

ダンジョンに入ったのが昼で、日が沈みかけてるから、そこまで時間は経っていないな。俺はその足でギルドに向かった。ギルドがいつまで営業しているのかは知らなかったけど、開いていてホッとした。ルミンさんに報告しないといけないからな。


「ルミンさん、ただいま戻りました」


受付に近づいてルミンさんに声をかける。


「タロウさん!?心配したんですよ!?」

「え?」


泣きそうな顔をしているルミンさんに怒られて、俺は困惑してしまう。


「どうして1日間も入ってたんですか?!私、タロウさんに何かあったんじゃないかって心配で…」

「1日間?でも、まだ夕方ですけど。俺がダンジョンに入ったのは昼過ぎですよ?」

「昨日のお昼過ぎです」


なるほど。俺がダンジョンに入ったのは今日の昼ではなく、昨日の昼だったのか。それは怒るよな。


「時間が分からなくて気づかなかったんです。すみません」


俺が悪いんだから素直に謝罪する。


「いえ、私も言い過ぎました。ごめんなさい」

「いや、気にしてないですよ」


そう言って俺達は笑い合う。


「ところで何階層まで行ったんですか?」

「40階層です」

「40階層…疑うわけではないですけど、ギルドカードを見せてもらってもいいですか?」

「ギルドカードなんて貰ってませんけど」

「あれ?説明してなかったですか?ごめんなさい。『ギルドカード、オープン』と言ってもらえますか?」

「はい。『ギルドカード、オープン』…おっ!」


ギルドカード、オープンと言うと、俺の目の前に青い半透明のモニターが現れた。そこには俺の名前とレベル、ランク、それに『ダンジョン最高到達地点40階層』という文字が書かれていた。それ以外にも、ダンジョンで倒したモンスターの名前と、その横に数が書かれている。


「これは何ですか?」

「ギルドカードです。その人の名前とレベル、ランクなどが表示されます。その他にもダンジョン到達階層や、受けている依頼の内容、例えば薬草摘みなら、依頼名と現在摘んでいる薬草の数が表示されます。討伐系の依頼なら、倒したモンスターと、その数ですね」

「こんなふうにギルドカードが表示されるんですね。これも魔法の一種ですか?」

「そうです…なるほど、確かに40階層に到達したみたいですね」


ルミンさんが俺のギルドカードを見て感心している。


「って、レベルも25に上がってるじゃないですか!?」

「そ、そうですね」


驚くルミンさんの態度に、俺も驚いてしまう。


「本当にすごいです!冒険者になって2日しか経っていないのにレベルが25になるなんて」

「この調子で、どんどんレベルを上げてランクも上げていきますよ!ゼルスとの約束のためにも」

「ゼルスさんに会ったんですか?!」

「はい。ダンジョンで」

「ゼルスさんがダンジョンにいたんですか!?」

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