「詩集 永劫」(11月)

舞原 帝

30.「」の中で

書けてこの程度の「詩」しか出来ない中で 不安を覚えるのも当然のこと

本当の詩を書けていれば 不安だけでなく 何の迷いもないことだろう

不安を拭うには 迷いを断つには いつまでも「詩」を書いていては駄目なのだ

詩人になるべく 詩を書くことを始めねばならぬ時が来たのだ


書き始めた時より身を委ねてきた独自性から身を引こう 私の「詩」から離れてみよう


どれほどの時間を無駄にしたことだろう 返らぬ時間 取り戻す術はない

人よりも後れを取り 独自性に身を委ねてきた結果 悲しいかな 出遅れてしまった

後ろを振り返っても誰もいない 前を向いても誰の背中も見えない

今さら歩き始めたところで 行きつく先は ただの終点 そこが私の臨終の地・・・

身の丈に合った終わりを望むのなら きっとそれが最適に違いない

最善ではないかもしれないが 最悪でないのなら 選り好みなどしている場合では――


こうして書くばかりでは いつもと変わらぬ「詩」を書いているだけ

「独自性」とは名ばかりの 駄文を書き連ねているだけ

「では、どうすれば?」と尋ねるのは常套策 不安を言葉にしてこの場をやり過ごしたい一心

詩に焦がれるだけ焦がれて 結局は「詩」の中に身を置く意気地なし

「」の中の蛙でいようとすることなかれ! そこから脱する法を模索せよ!

このまま駄文に駄文を重ねていけば それはそれは立派な「詩」が出来よう

一人の人間の苦悩に一体全体どれ程の価値があるというのか と締めくくれば見事完成

価値や意味に囚われて その度に似たような思考を手繰り寄せる天才は 私を措いてほかにいない・・・


きっと もう 詩を書くことを諦めてしまっているのだ

いくら否定しても 心が同意していては認めぬ訳にはいかぬ

「詩」を書き過ぎた そして そこに思いを込め過ぎた

「詩」から離れようとすると実際心が痛む それは不安や迷い以上に 私にとって問題である

とは言え 一人の人間の苦悩に一体全体どれ程の価値があるというのか

と締めくくったところで 本当には立派な「詩」など書けたことにならぬ

そもそも本当の詩を書けてこそ立派というもの だのに私は だのに嗚呼――・・・

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