26.「井の中の蛙大海を知らず」

変に焦ってもしょうがない

漕ぎかかった舟だと櫂を握り直す

目指す先ははっきりしている

我が眼を咥えた烏が先導してくれる


――何故だろう 漕いでも漕いでも進まない

大したことのない風に押し戻される

揺れる舟の上で気持ちをしっかりと持つ

櫂を握る手に力を籠めまた漕ぎ出す


我が眼は水平線の彼方を見据えている

だが目指すはさらに先だとその眼は言っている


舟に空いた穴も入って来た水もそのままだ

岸から返す波の力を借りて少しずつ進むしかない

浸水は免れないだろう――その時はいずれ来る

しかしそうなったら自力で泳ぐまでだ

舟を捨ててでも目指すべき場所へと向かうのだ


そろそろ焦らなくてはいけない頃合いか

後に退けぬのは舟を出した時から変わらない

焦りは禁物だと今度も自分に言い聞かせる

そろそろ潮時かと焦りではなく諦めが顔を出して来ても・・・


漕ぐ手を止め櫂を置き舟を捨てる

それまで先導してくれていた烏が我が眼を返しに来たのだ

自分の力だけで進むべきだと言っているように思えた

旋回し元居た場所へと帰って行く烏――礼の一つも言えなかった


烏の去った上空をどんよりとした雲が覆う

大したことのなかった風が嵐に変わる

ついには荒れ出した波間からそれでも水平線を捉える

目指すはその先なのだからと掻いて進むしかない


井の中の蛙が海に出たのは空の青さを誰かに伝えたかったから・・・

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