20.忘却の人

忘れてはいけない人たちがいる

偉人や著名な人のことなどは忘れ去っても構わない

だが 家族のことだけは忘れてはいけないのだ

父母(ちちはは) 兄弟姉妹 夫妻(おっとつま) 息子娘 義理の息子娘 孫・・・


覚えていなければならないことは分かっているつもりだった

それでも忘れていってしまった

すべてを忘れた訳ではないが 忘れてはいけない人たちのことを 確かに忘れてしまったのだ


忘却に私は苦しみ 自らを叱咤した

そんなことをしても「馬鹿」を「阿呆」と罵るようなもので 現に何の意味もなかった

実際には「馬鹿やろう!」「この阿呆が!」と言った気がする

その咳唾のように言い放った言葉が それこそ何の意味もなく自らの胸に刺さったことに 驚倒せざるを得なかった

次第に私は忘却を疎むようになり そして当然のように いつか自らに首縄を掛けてしまった――


忘れゆく中で覚えていたことは 自分の哀れみ方と そんな自分を殺す方法だけであった

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