第8話 隣り合わせ

「アリスさん」

「はい、何ですか?」

「今、何年の何月何日ですか?」

「えっ、それは治朗さんのいた時代だと同じだと・・・」

「教えて下さい」

「わかりました」

意を決したように、アリスさんは答えてくれた。


「201×年○月△日です。平成だと○○年です」

「私のいた世界と同じですね」

「それが、どうかしましたか?」

「ここのアニメ雑誌の出版社、8年前に倒産しているんです」

「じゃあ、私たちの馴れ初めのアニメ雑誌は?」

「当然、廃刊になりました。最も私の時代でですが・・・」

そう、出版社が倒産し、アニメ雑誌も廃刊となった。


俺はそこの店舗を借りて、ゲーム会社を立ち上げた。

そして、今日にいたる。


「どうします?治朗さん、入ってみます?」

「いや、止めておきます。余計にわからなくなります」

「でも、ここの人たちは、治朗さんの事も、私の事も知っています」

「今の私は、ここの社員の人たちも知りません」

そう、俺は知らない人ばかりだ。

なので、話が出来ない。


「私、行ってきます」

「えっ」

「もしかしたら、私の知っているあなたがいるかもしれません」

俺はしばらく迷ったが・・・


「わかりました。お願します」

「じゃあ、行ってきますね」

アリスさんは、そう言って、会社へと向かった。


さすが人気声優だ。

歓迎されている。


程なくして戻ってきた。


「アリスさん、どうでした?」

「いませんでした。それどころか、昨晩から連絡が取れないようです」

「取れない?」

「ええ、もう少ししたら、捜索願を出そうか迷っています」

「で、出すんですか?」

「いえ、熱を出して、家で寝てると伝えておきました。

『愛する夫を差し置いて出かけるな』と、叱られましたけどね・・・」

照れくさそうに笑う。


「やはり、どこかで入れ違ったみたいですね」

「入れ違い?」

「パラレルワールドは、目に見えない平行社会。

でも、隣り合わせなので、紛れ込んでもおかしくないことが、立証されています」

「お詳しいですね」

「今、そういうアニメに出ていますので・・・」


合わせ鏡を思い出した。

似ているのかもしれない。

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