第5話 アリスの知っている俺

「アリスさん」

「何ですか?」

「アリスさんの知っている私ですが・・・」

「はい」

「取材が馴れ初めだそうですが、詳しく教えてくれませんか?」

何かわかるかもしれない。


「そうですね。お話しておきます」

「お願します」

アリスさんは、話しをしてくれた。


「まず、最初は話しをするだけでしたが、彼、つまり私の知っている治朗さんの想いは気付いてました」

「はい」

「私も、彼の事が好きだったので、プロポーズしてくれるのを待っていました」

「はい」

「でも、なかなかしてくれない。待ちくたびれましたので、私からプロポーズしたんです」

「逆プロポーズですか?」

「そうですね。」

照れくさそうに、笑うアリスさん。


高校時代の俺なら、自分から女の子に告白なんて出来ないだろう。

そこは、一致している。

かなり内向的だった。


大学で落研に入り、荒療治になるが、少しだけ社交的になった。

中学からの進路は違うようだが、多少の性格の差は、ここにあるのかもしれない。


「アリスさんの知っている私と、今の私、外見に違いはありますか?」

「全く、同じですよ。違っていたら、わかります。」

確かに、愛する人が違えば、わかるだろう。

もし、わからなければ、愛が足りないということになる。


「で、お互いは、何て呼び合っていたんですか?」

「知り合った当初は、互いに苗字のさん付です。」

「はい」

「親しくなってからは、アリスさん、治朗くんと呼び合っていました」

「結婚後は、アリスとあなたです」

「よく呼び捨てに出来ましたね。あなたの知っている私」

「私が、無理やり言わせました」

押しに弱いのか・・・昔の俺のままだ。

もっとも、今もあまり変わらないが・・・


アリスさんと町を歩く。

いたるところを見て歩く。

お店、公共施設、学校、駅・・・

全てが、俺のいた世界と全く同じだ。


アリスさんに、ここ数年の社会情勢を訊いてみた。

全て同じだった。


今、何年かも訊いてみた。

これも同じだった。

西暦も年号も・・・

もうじき平成が終わるのも、同じだった。


「何かひとつでも、違いがあればいいんですが・・・」

「そうですね。がんばって探しましょう。治朗さん」

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