第6話 違うもの

「治朗さん、スマホ、スマホあります?」

「ええ、持ってますけど・・・何かわかるかもしれません」

俺はポケットからスマホを取り出し、オンにする。


「普段は、電源切ってるんですね」

「ああ、迷惑ですからね」

「同じですね。彼と」

彼というのは、本来のこの世界の俺の事だろう。

スマホを見てみる。


番号やメアドは同じだ。

しかし、差出人は違っている。

全て俺の知らない人ばかり・・・

いても、俺とは面識のない人だ。

当然、アリスさんもいた。


「ひとつ、わかりましたね。違うとこ」

「ええ、でもこれは必然でしょう」

たいした解決策にはならない。


「一応、家族にだけ連絡とってみます」

「それがいいですね」

繋がり、家族は変わらないというのがわかった。


ただ訊いてくる内容は、違っていた。


俺は、電源を切ってポケットにしまう。

「もう、切っていいんですか?」

「ええ。かかってきても、対応できませんし、アリスさんのほうが、詳しいでしょう」

「そうですね」


アリスさんと、町を歩く。

昨日までいた世界と、まるで変わらない。


人も車も建物も・・・

電車まで同じだ。


「アリスさん、喉かわきません」

「そういえば、お腹もすきました・・・すいません・・・」

「いいえ、その辺で食べましょう」

俺は、元いた世界で、なじみの店に入った。


こじゃれたカフェだが・・・


「こんにちは」

「あっ、治朗さん、いらっしゃい」

俺の事は、知ってくれているようだ。


「いつも奥さんと、あつあつだね」

「・・・どうも・・・」

アリスさんが、会釈する。

アリスさんとも、なじみのようだ。


「治朗さん、いつものでいいかい」

「ええ」

「奥さんも、同じでいいかい」

「はい」

対応は、いつもと変わらない。


アリスさんと、しばらく話したが、ここにいても変わらないので、外へ出る事にした。


「マスター勘定お願い」

「はい、2人で2000円ね」

俺は財布から、千円札を2枚出した。


「治朗さんも、奥さんが出来て変わったね」

「えっ」

「こんな、冗談できるなんて、嬉しいよ。明るくなった」

「マスター?」

「よく出来てるね。このおもちゃ。野口英世の千円札なんて、ないよ」

俺は、茫然と立ちつくした。

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