第4話 変わらない世界、変わった俺

俺が昨日帰って来た時は、もうへとへとだったので、すぐに寝た。

疲れていたので、気付かなかったが、アリスさんはいなかった。


もっとも、声優さんは不規則なので、帰りが遅かったと言う事もあるが・・


「治朗さん」

「はい」

「治朗さんのいた世界では、私はいますか?」

いますか?というのは、声優として、活動しているかということだろう。


さすがに、アニメとは距離を置いている年齢だが、話題となっているアニメはチェックしている。

もっとも、肌に合わない作品が多いが・・・

それでも、声優さんだけは、チェックしている。

アリスさんは、34歳といった。

となると、それなりのキャリアはある。


でも、俺は聞いたことがない。

別名で活動しているのかもしれないが、正直に話そう。


「いや・・・聞いたことがないですね・・・」

「そうですか・・・」

何だか、がっかりしている。



「治朗さん、家の中を確認しませんか?」

「家の中?」

「違っている事があるかもしれません」

「そうですね。確かめてみます」

俺は家のなかを、くまなく見て回った。


言い忘れてたが、マンションだ。


「どうでした?」

「全く同じだったよ」

「全く・・・ですか・・・」

「はい。家具、家電、間取りなど、全て同じでした・・・ただ・・・」

「ただ?」

「ふたつだけ、違ってました」

「何ですか?」

正直に、話そう。


「ひとつは、寝室のベットがダブルベットになってました。

でも、メーカーやシーツの色は、同じでした」

「もう、ひとつは何ですか?」

「空き部屋だったのが、アリスさんの個室になってました」

「それだけですか?」

「はい」

家の中は、それ以外は変わっていない。


「治朗さん、外へ出ましょう」

「外へですか?」

「昨日は遅くて気がつかなかったみたいですが、何か変化があるのかもしれません」

「そうですね・・・出てみます」

俺達は、外へでた。


まずマンション内を、くまなく調べた。

住民、エレベーター、階段の位置など・・・

マンションの外へも出た。


「どうでした?」

「全て、同じだったよ。住民の方、マンションの外観。

全て元いた世界と同じだ」

「そうですか・・・」


その時、ひとりのご婦人に声をかけられた。

「あら、柳本さん、お早うございます」

「辻村さん、お早うございます」

「柳本さんも、奥さんが出来て、生き生きしてきたわね。」

アリスさんが、笑顔で会釈する。


完全に、打ち解けているようだ。


辻本さんとは、よく顔を合わせる。

なので、もし俺が結婚したら、間違いなく世話をする。


元いた世界では、よくお見合いの話を持って来られた。

といことは、本当にどこかで、紛れ込んだようだ。


しばらくして、アリスさんが戻ってきた。

「辻本さん、相変わらずですね」

「そうですね」

「治朗さんがいた世界でも、あんな感じだったんですか?」

「ああ、全く変わらないですね」

「そうですか・・・」

アリスさんは、複雑な表情を浮かべる。


「治朗さん、町へ出てみません」

「町・・・ですか?」

「何かわかるかもしれません」

昨日は暗くてわからなかったが、何か変わっているところがあるかもしれない。


「でも、アリスさん、お仕事はいいんですか?」

「ええ、今日はオフですから・・・」


ふたりで、町を見て回る事にした。

どこか、違いがあればいいのだが・・・


少しでも・・・


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