第11話 謁見
「え、まだ何か」
「はははは、そう警戒するでない、ここから先は余談だと申しただろう」
ようやく解放されるかと思いきや、ここから先が余談と言う名の本題のようだ。国王の目が怪しく光る。
「アデムよ、魔女とはどういうものだった?」
「どういうとは……」
「そのままだ、お前が感じたことを素直に言ってくれればよい」
「一連の戦いはレポートとして学園に提出しております、それを取り寄せて頂ければ詳細は分かりますが」
「うむ、当然そのレポートは目を通してある。しかし、余は其方の口から直接聞きたいのだ。
前国王、即ちわが父上は、国家の敵であると知りながら、それでも魔女の毒牙に掛かった、奴はそれほど魅力的な存在だったのかね?」
そう言われれば退路は断たれた。俺は緊張でしどろもどろになりつつも、魔女との戦いについて話しをした。
「ふむふむ、やはり興味深い。アデムよ、魔女とは何だったのだろうな」
「奴は、別世界の住人だと言ってました」
ありとあらゆる点で規格外、奴はそんな存在だった。
「余は召喚術については明るくないが、召喚術と言うものはその様な者も呼べる魔術なのか?」
「いえ、現在使われている召喚術では不可能です、召喚術とはあくまでも契約した魔獣を呼び出す転移魔術に他なりません」
魔女を呼び出すための儀式、大戦時に行われたソレは施設人員ごと木端微塵になっていると聞く。その時にどんなことが行われていたのか、今となっては知りようがない。
「だがしかし、現実に奴は別世界とやらからやって来た。それに其方の言う新なる召喚術でも似たような事が出来ると聞くが?」
「はい、アリアさんの考案した新なる召喚術も、モノの起源と輪廻を辿ることで、別世界から力を引き出す事が可能です、しかし借り受けることが出来るのは一時的に彼らの力懲り受けるのみ、彼らその者をこちらの世界へ転移させることは不可能です」
例えば、
「ふむふむ、それではアデムよ。其方は召喚術の抱える問題についてどのような見識を持っておる」
やはりこの人は食えない人だ、いや、一国の主となればこんなものなのだろうか。召喚術には疎いと言っておきながら、最低限以上の見識は持っている様だ。
「それは、現代の召喚師の不甲斐なさについてのお話でしょうか」
「うむ、かつては竜も使役した召喚師が、現代では精々クラス3の魔獣を従えるだけで賢者扱い。
かつてはわが国でも召喚師は花形魔術師だったが、現在では三流魔術師と言うのは何故かと思ってな」
そんな事教授連中に聞いてくれ、少なくともチェルシーなら何か思いつくことがあるかもしれないが、俺にはさっぱりだ。
「国王陛下は、その事と魔女が関連しているとお思いなのですか?」
俺が答えに詰まっていると、シャルメルが助け舟を出してくれた。
「ははは、流石はミクシロンの才女、門外漢の召喚術についても見識を持つか」
「えっ? どういうことだ? シャルメル?」
俺が後ろを振り向くと、シャルメルはウインクをしてこう言った。
「歴史よアデム。帝国との大戦時、魔女の出現を機にして召喚術の衰退が始まっているの」
シャルメルのその答えに、国王様は満足そうに頷いた。
「そうだ、大戦前期では、召喚師は真言魔術師と並び、わが国の最高戦力の一つだった。だが魔女の召喚を機に召喚術は徐々に衰退を始め、今ではこの有様なのだ」
そして、魔女の存在を秘匿している中、その研究も遅々として進んでいないと。
「それでは、魔女が居なくなった今、召喚術は元の力を取り戻すと?」
「余はそう踏んでおるんだがな」
国王様はそう言って難しい顔をする。
そう、難しい顔、つまり現状はそうなっていないと言う事だ。
「……陛下、つまり、魔女はまだ生きておると疑われているのですか?」
ゲルベルトの爺さんがそう口を挟む。国王様の仮定ならば、そう言う事を言っているのだろう。
「ははは、そう怖い顔をするでないゲルベルト、かの聖戦士ロバートの愛弟子が得物を仕留めそこなうとは疑っておらんよ」
魔獣の中では死んだふりをする魔獣も多い、得物をきちんと仕留めたか見極めるのはこちらの生死にかかわってくる。そこら辺は骨の髄まで叩き込まれている。
とは言え、あの時俺は全ての力を使い果たし意識を飛ばしてしまった。きちんと魔女を仕留められたかと改めて聞かれると不安も残る。
「国王陛下はアデムをお疑いなのですか」
シャルメルが国王様にそう言って食って掛かった。
「違う違う、もしそうなれば、彼の魔女は嬉々として復讐を始めているであろう?
余が言ったのは門外漢の浅知恵よ、これをたたき台にして、召喚師の力を取り戻してほしいとそう願っておるだけじゃ」
国王様は笑いながらそう言った。
「それではアデム、褒美の件忘れるでないぞ」
国王様はそう言って話を締めた。俺とシャルメルもそれと同時に部屋を追い出される。後は国の重鎮三人で何か政治の話をするんだろう。
「はー、心臓に悪い」
「うふふふ、アデムもこれからこう言った事になれなきゃ駄目よ」
勘弁してくれ、幾ら非公式の場とは言え、国王様との謁見になんか何時まで経っても慣れるとは思わない。
「しかし、一体何を言いたかったんだろう?」
召喚師が元の力を取り戻す、召喚師の地位低下にそれほど心を痛めていると言う事なのか?
「……あまり考えたくはないけども、戦が近いのかもしれませんわね」
「戦?」
勘弁してくれ、魔女の企みで始まったあの日の戦いは不完全燃焼に終わり、ようやく平和が訪れたのだ。
「帝国は、今年は不作だったと言う話ですわ。先の大戦から30年、戦争の傷が癒えたのは王国だけではありませんわよ」
シャルメルはそう言って厳しい顔をする。腹空かせた
もしあれが本格的な内乱に発展していれば、それを好機と帝国が攻め入って来たかもしれない未来もあったと言う事か。
「人間同士の戦争に駆り出さるのは気分がいいものじゃないですわね」
この世界に、人類共通の敵となる魔王なるものは存在しない、例外としては魔女だが奴は既に滅んだ後だ、後に残るは何処まで行っても人間同士のそれぞれの正義を掛けた戦いとなる。
折角華の王宮に呼ばれたと言うのに、俺たちは暗い気持ちになってそこを後にした。
「やぁ王様、アデム君はどうだったかい?」
国王の寝室、余人が入る事は敵わない、神聖なる空間の風景が歪み、そこから1人の女性が現れた。
「はっはっは、中々謙虚な少年じゃないか。日頃、王宮狸ばかり相手をしているのでな、ああいった頃合いは新鮮だ。
それより、お前は彼に合わなくて良かったのかね、因縁の相手だろう?」
チムリークはそう言って意地悪そうに嗤った。
「うふふふ。僕のチャーミングな目は見る人が見れば一目瞭然らしくてね、アバターは代えているとは言えばれちゃう危険は冒せないよ」
「なるほど、確かに其方の目は特徴的だ、例えるならば、極上の酒に樽一杯のヘドロをぶち込んだ様なものだ」
「うふふふ、酷い言いざまだねぇ」
その女はそう言って、何処からか取り出してきた酒をチムリークに注いだ。
「ところで少年は、確かにお前を滅ぼしたと言っていたぞ?」
チムリークは何の疑いも持たずにその杯を煽りながら女に尋ねる。
「ああそうだよ、死んだ、死んだとも、あの場所にいた魔女は確かに死んだ。けどもバックアップを取っておくのは基本だよ。
ペナルティとして大幅なステータスダウンを食らったものの、何とかこうしてしがみついているって訳さ」
魔女はやれやれと肩をすくめる。
「と言う訳で、暫くは前線に立ってのドンパチはお預けだね。まぁ元々僕は切った張ったのRPGは得意じゃないんだ、これからはAVGに精を出すとするよ」
「ふーむ、其方の言う事は時々理解が出来ぬが、まぁ置いておこう」
「ああ、そうするといいよ。僕だって自分の立場はわきまえてるさ、今の僕は敗軍の将の様なもの、君に不利なようにはしないつもりだよ」
魔女はそう言って自分の杯に酒を注ぐと、チムリークと杯を合わせたのだった。
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