あたしのご褒美を味わいなさい

「今日、ヨシキは1DxにEF24-70mmF2.8L IIつけてたね。ヤツもやっと新しいカメラとレンズ買えたみたいだけど、いきなりイベントに持ってくるなんて、嬉しくて見せびらかしたいんだろな。

確かに1DxのISO102400は、暗い会場の中じゃ実用的だけど、そんなのストロボで起こせばいい話じゃん。ヨシキはノンストで撮ることが多いみたいだけど、それって単にストロボワークがヘタだからだろ。カメラマンのテクニックって、ライティングで決まるんだよ。バウンスやディフューザーを使って、光を拡散まわしてなんぼだろ。ジェネレーターやモノブロックで、フロント、メイン、バックの3灯ライティングは、ストロボワークの基本だけど、ヨシキは知ってるかなぁ? ぼくみたいに場数を踏んで、ライティングの応用ができるようにならないとね」


あたしを乗せたのが嬉しくてたまらないというように、クルマを走らせながら、ノマドは得意げにしゃべりはじめた。

相変わらずわけわかんないカメラのヲタ話と、ヨシキの批判ばかり。

つまんないヲタ話には適当に相づち打ちながら、あたしは別の話を持ちかけた。


「そうそう。夕食までまだ時間あるし、『アンジェリックプリティ』の秋の新作が出てる頃だから、ちょっと見に行きたいな~」

「アンジェリックプリティか… いいね」


ノマドはクルマを原宿方面に走らせると、ラフォーレ原宿近くの駐車場に停めた。


 『アンジェリックプリティ』のショップは、乙女の好きなものがたくさん詰まった、カラフルなおとぎ話のような世界。

ここにいて可愛いお洋服を見てると、現実のうっとおしいことなんか、みんな忘れちゃう。

『New Arrival』の棚に飾られた新作ワンピースから、フリルとレースのたっぷりついたピンクのワンピースを、あたしは手に取ってみた。


「きゃぁ! このワンピ可愛い♪」


花が咲いたように裾の広がったワンピースを胸元に当てたあたしを、ノマドはじっと見つめ、眩しげに言う。


「いいねいいね」

「ほんとに? 似合ってる?」

「ああ、、 すごく似合ってるよ」

「そっか~。ん~、、、 どうしよっかな~、、、、、、」

「、、じ、じゃあ、ぼくが買ってあげるよ」

「え~? うそ。麗奈嬉しい!」


迷うフリをしてるあたしを見て、ノマドはすぐに財布からカードを取り出してくれる。

『ほしい』なんて言う必要もない。

じっと見つめるだけで、いいのだ。

こうやって、無条件に女の子の夢を次々に叶えてくれる男ってのは、嬉しい存在。

まったく、、、

ノマドって(都合の)いい男。

だから好き♪


 大きな紙袋を下げて『アンプリ』を出たわたしは、ほかのお気に入りのロリータショップもいくつかチェックし、気に入ったものがあればおねだりビームを発射。

さらにいくつかのアイテムをゲットしていった。




 お買い物をすませたあたしたちは、ノマドが予約をとった『リッツカールトン』のフレンチレストランへ向かった。


「この『アジュール フォーティーファイブ』は、『ミシュランガイド東京』で星を獲得しているモダンフレンチダイニングなんだ。

パティシエからフレンチに転向して、パリのミシュランレストランはじめフランスで2年間の修行も積んだ料理長の、繊細かつバランスの優れた味つけが賞賛されていてね。 国内の港から産地直送された魚介、滋味溢れる野菜、ジビエなど、こだわりの食材を用いた料理なんだ。

今日は素敵な麗奈ちゃんと来れて幸せだよ。ふたりの夜に乾杯。うふ♪」


まるで、ホームページの紹介文をそのまま読み上げるように能書きをたれたノマドは、ぎこちない手つきでワイングラスをあたしにグラスにぶつけてきた。

いやいやいや。

ワイングラスで乾杯するときは、当たらないようにするのがマナーでしょ。(作者註*必ずしもそうではない)

ったくこいつ、、、

マナーも知らないのに、こんなレストランに連れてくるわね。


一般庶民には手の届きそうもないような、贅沢なフルコース料理を食べて、美味しいワインを飲みを終えた頃には、もう9時を回っていた。

その流れで、『個撮をしよう』という話を、ノマドはおもむろに切り出した。


ふふん。

こんな高級ホテルのレストランに予約入れたのも、そういう下心があったからかぁ。

まあ、そのくらいはこちらも計算済みだし、ここまで尽くしてもらえれば、ご褒美として、少しくらいなら下僕ノマドにも、いい思いを味あわせてあげるわよ。


レストランを出たノマドは、バッグのなかからルームキーを取り出した。

もう、部屋まで予約してたってことか。

なかなか用意周到ね。感心感心。


「スイートルームをとったんだよ。麗奈ちゃんのために。うふ♬♬」


得意げに言いながら、ノマドはエレベーターのいちばん上のボタンを押し、あたしを最上階へとエスコートした。


つづく

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