あたしの下僕になりなさい

「そんなしかめっ面すんなよ。ミノルに振られたのがそんなにショックか」


気持ちを見透かすように、ヨシキが意地悪そうな微笑みを浮かべてからかってきた。


「そっ、そんなんじゃないわよ! 勘違いしないでよ。あたし別に、あんなキモヲタを好きなわけじゃないし!」

「そうか~、、、 だけどこれは、ひょっとしたらひょっとするぜ」

「なにが?」

「栞里ちゃん。ミノルに惚れてるんじゃないか?」

「まさか?!」

「今の栞里ちゃんの表情。あれは恋する乙女の瞳だぜ」

「ありえない! だってあの子、まだ中学生でしょ?」

「恋に年齢は関係ないって。…にしてもミノルのやつ、恐るべしだな。あんな美少女に惚れられるとは」

「あんなの、ただのビッチじゃん」

「そうか?」

「だって家出少女でしょ?! あちこちで宿主とやりまくってるに決まってんじゃん。あのJC、自分に優しくしてくれる男なら、だれだっていいのよ」

「ミノルを取られたからって、嫉妬は醜いぞ」

「そんなのないし! だれがミノルなんか、、、」

「え~? ミノルは『彼氏には最高』なんじゃなかったのか?」

「い、今この瞬間に冷めたし、、、 あんなロリコン男なんて、こっちからパス!」

「はは。負け犬の遠吠えにしか聞こえないけどな」

「…」

「ま。おまえにとっちゃ、オレはもう『関係ない』らしいから、おまえらの修羅場にオレを巻き込むなよ」

「…」


そう言うと、ヨシキは笑いをこらえるように肩を震わせて口許を押さえた。


「じゃね。ここにいたってつまんないし!」


ひとこと言い捨てて、あたしは足早にヨシキたちのサークルから離れた。

からだがカッカと熱くなり、動悸が激しくなって、膝がガクガク震えてる。


口惜しい!

どうしてわたしばかり、こんな酷い目に遭わなきゃいけないの?!

ヨシキにはセフレ扱いされた上に、『関係ない』なんて酷いこと言われるし。

ミノルはあたしを裏切って、ビッチJCに走るし。

こいつらのおかげで、あたしのプライドはズタボロ。

むかつく!


はらわたの煮えくり返る思いで、あたしはコスプレスペースを回り、良さげなカメコを漁った。

だけど、どいつもこいつもネクラでキモいデブヲタか、でなければやたらハイテンションなだけで、自分やカメラのことばかり自慢げに話しまくる、自己中ヲタばかり。

写真の腕も、みんな同じような記念写真レベル、、、


ヨシキみたいな神カメコは、なかなかいない。

やっぱりヨシキは、至高の存在なの?

口惜しすぎる!!




 …ったく、今日のイベントはサイテー! 

ビッチJCはレイヤーでもないくせに、生意気にも『リア恋plus』SSRの『高瀬みくスーパーアイドルデート服』なんか着て、サークルスペースでもコスプレスペースでも人だかりができるほど大人気。

美月梗夜みつききょうやと恋子は、人がせっかく親切にしてやってるのに、感じ悪く切り返してくる。

だいたい、底辺レイヤーばかりで、『リア恋合わせ撮影会』なんてやったところで、カメコからも他のレイヤーからも注目されるはずないし、SNSのアクセス数も稼げるわけがない。

だから、有名人気レイヤーのあたしがメインキャラの『高瀬みく』役で入ってあげようっていうのに、みんなして拒否ってきて、、、

雑魚レイヤーが集まったって、ゴミみたいな撮影会しかできないっていうのに、あたしを入れないなんて、世の中のことわかってなさすぎじゃない?

挙げ句のはてには、薙刀振り回して暴力に訴えてくる始末。

美月梗夜があそこまで凶暴だなとは思わなかった。

まったく、ひどい一日だわ。

ネタにしてやらなきゃ気がすまない。


 コスプレスペースの壁にもたれかかり、くずレイヤーとヲタカメコたちが撮影してる光景をぼんやり眺めながら、あたしは怒りをぶつけるかのように、『悪魔カメコ夜死期の悪行を晒すスレ』に書き込みを重ねていた。

とそのとき、汗を拭き拭きノマドが近づいてきた。


「麗奈ちゃん久し振り~。こないだの画像、ROMに焼いたからプレゼントするね。うふ♪」


ううっ。

相変わらず、臭い。

こいつは年中汗かいてるけど、夏場はそれが発酵して香ばしさを増して、半径2m以内に近づいてほしくない。

とはいえ、ノマドはコスプレSNSでは有名カメコで、アクセス多くて人脈広いし、リッチだし、とりあえずキープしてて損はない。でもその、『うふっ♪』って口癖は、頼むからやめてくれる?


「おっ。今日はボカロかぁ。そのおっぱ、、、 むっ、胸元のぴったりしたコスがエ、、、 チ、チャーミングだよ。写真撮らせてくれる?」


舐めるようなエロオヤジ目線で胸元を凝視しながらも、スケベ心を悟られまいとわざとらしく明るくふるまい、ノマドはカメラを構えた。


とりあえず、こいつでいいやぁ。


こいつはわたしの下僕みたいなもので、なんでも言いなりだし。

書き込みをやめて、あたしはノマドに微笑んでみせる。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る