もっとダメージくらいなさい

     thread7


「おっ、麗奈。今日のボカロはいっそうエロいな」


翌日のイベント会場。

バストを強調するようにカスタマイズしたボーカロイドのコスプレ姿のあたしを、ヨシキは目ざとく見つけて近寄ってきた。

数枚写真を撮ったあと、さり気なく訊いてくる。


「そういえば、昨日はあれからどうしたんだ?」

「昨日?」


、、、そうか。

昨日は素っ気ない顔して平静を装ってたけど、やっぱりヨシキはあたしたちのことが気になってたのね。

冴えないキモデブサヲタの親友みのるとあたしがデートしてたことで、秘かにプライドが傷ついたのかもしれない。


当然の報いよ。

このあたしのことを軽く扱うから、こんな目に遭うのよ。

だけど、そのくらいじゃ物足りない。

もっとダメージを与えてやる。

ウザいものでも見るかのような視線でヨシキを一瞥し、あたしは冷ややかに答えた。


「別に。どうでもいいじゃん。ヨシキには関係ないし」

「はは、、、 確かにそうだな。悪りぃな。変なこと訊いちゃって」


軽く微笑みを浮かべてきびすを返し、ヨシキはその場を立ち去ろうとした。

口惜しいでしょ、ヨシキ。

あたしに尽くしてくれる男なんて、掃いて捨てるほどいるんだから。

あなたはそのなかのひとりに過ぎないのよ。

追い打ちをかけるように、わたしは言い放った。


「あれからね。ミノルくんとデートして、行くとこまでいっちゃった」

「…へえ~」

「だれかさんと違ってあの人エッチも上手いし、尽くしてくれるし。彼氏には最高かもね」

「はは。ミノルも幸せ者だな」


捨て台詞を残し、ヨシキは雑踏に紛れていく。

その背中は、なんとなく淋しそう。


ふふん。

いい気味v

せっかくだからダメ押ししてやるか。

頃合いを見計らって、あたしはヨシキとミノルのサークルスペースへ足を運んだ。


「ミノ~ルくん♪」


甘い声で呼んでみる。

テーブルの向こうに並んで座っていたふたりは、接客そっちのけでなにやら深刻そうに話し込んでいたが、ミノルはあたしの声にハッとして顔を上げ、驚いたように目を見開いた。

優しく微笑みながら、あたしは両手をテーブルについて少し前屈みになり、ミノルに顔を近づけてささやく。こうしてると胸の谷間がミノルに覗かれちゃうけど、それは計算のうち。


「昨日はゴメンね~、急におなか痛くなっちゃって、、、 電話も出れずにゴメン。病院行ってたから」

「う、うん。まあ、いいよ、、、」

「え? 許してくれるの? ミノルくん優しい~。大好き♪」


襟ぐりの奥のたわわなふくらみをいやらしい目つきで見つめながら、あっさりと、ミノルは昨日の件を許してくれた。


まったく、、、


童貞キモヲタなんて、ちょろ過ぎて手応えなさ過ぎ。

まあ、途中でバックレたとはいえ、昨日はミノルだってこの巨乳でいい思いしたんだから、文句言える筋合いじゃないわよね。


「なんだおまえら。すっかり仲いいな」


ヨシキが横から口を出してくる。


「まあね。どこかの誰かさんと違って、ミノルくんって頼りがいあるし、優しいし。やっぱり女の子って、優しい男に弱いのよね」

「そうか~。でもミノルって、筋金入りのオタクだぞ。二次元にしか恋愛できないぞ」

「あたしだってオタクだもん。そんなの気にならないよ」

「童貞だぞ?」

「いろんな女と遊んでる様な男より、よっぽどいいよ」

「そっか~。ミノルがライバルか~。麗奈を取られない様、オレも頑張らなくっちゃな」

「今さら難しいんじゃない? まっ。健闘を祈ってるわ、ヨシキ」

「は、ははははは。。。。。」


あたしに調子を合わせて、ミノルも乾いた笑いを浮かべた。

でも、誤解しないでよ。

ヨシキにはそう言ったけど、あなたがあたしの彼氏になる日なんて、この宇宙が終わる日まで永遠に来るわけないのよ。

ヨシキの言うとおり、あなたには『リア恋plus』の高瀬みくみたいな、二次元のカノジョがお似合い。

デブサヲタには一生、リアルな恋愛なんて、縁のないものなのよ。


と、そのとき、力なく微笑んでいたミノルの表情がハッと変わり、いきなり椅子から立ち上がって、あたしのうしろを凝視して叫んだ。


「しっ、栞里ちゃんっ!」


思わずあたしも振り返り、ミノルの視線の先を追う。

そこにいたのは、中学生くらいの小さな女の子だった。

ピンクのカットソーに、ミニのプリーツスカート。

着てる服は安っぽかったけど、そんなことどうでもいいくらい、可憐で清楚な女の子だった。

小さな顔につぶらな瞳と可愛らしい唇。

少し憂いを帯びた瞳は、まっすぐミノルを見つめてた。

もしかして、、、

この子がミノルんに転がり込んできたっていうJC!?


信じられない。

なんて美少女!!


ミノルが名を呼ぶと、彼女は一瞬戸惑い、目を逸らしてクルリと背を向け、人ごみの中に紛れていった。


「追いかけろよ!」


ヨシキの一喝が響く。

呆然と立ちすくんでたミノルは、その言葉で我に返った。


「ヨシキちょっと頼むっ」


そう言い残すと、ミノルはサークルスペースを飛び出し、あたしに目もくれずに隣を風のようにすり抜け、JCが消えていった方へ走っていった。


なっ、なに?

なんなの、その態度!?

まだあたしと話してる途中でしょ?

なのにあたしのこと無視して、あんな中坊の方に走っていくなんて!

デブサヲタのくせに、このあたしをないがしろにするつもり?!

そんなの100万光年早いわよ!!(作者註*光年は時間の単位ではない)


つづく

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