だれかあたしを救い出しなさい

 ホテルの外に出ると、そこはいつものありふれた日常風景。

4車線の大通りには、信号待ちのクルマの列がダラダラと続き、仕事を終えたスーツ姿のサラリーマンが、疲れ果てた足どりで陽の暮れかかった街灯りに吸い込まれていく。


「はは、、、 あははははは」


なんだか笑いが込み上げてきて、軽やかにステップを踏んでみる。

ここまで来れば大丈夫だろうというところまで来て、あたしはスマホを取り出し、掲示板を見た。


『大丈夫か?!』

『ツーホーした』

『場所を言え。近ければオレが助けに行く!』

『相手はだれだ!』

『状況をkwsk』


さっきのカキコで、たくさん釣れてる。

稀にみる大漁だ。

愉快な気持ちで、わたしは続きを書き込んだ。




359:C.N.;名無したん 2012/8/18/17:32 ID:kjyuKJXl50

  あまりに懇願するから仕方なく会ったら、無理矢理ホテルに連れ込まれた

  相手は知り合いのキモヲタ

  自称『逝けメンカメコ』とグルになってて、リンカーンされそ




すぐにレスがつく。




360:C.N.;名無したん 2012/8/18/17:33 ID:lksdfuv9o

  ホテルだと!!!

  なんかされたか???


366:C.N.;名無したん 2012/8/18/17:34 ID:kjyuKJXl50

  珍珍触らされた。キモイ。死ぬ~~~((( ;゜ Д ゜)))


368:C.N.;名無したん 2012/8/18/17:35 ID:;sdefo45w0

  まじヤバイな!

  ほんとに助けに行くから、ホテルの名前教えれ!!


371:C.N.;名無したん 2012/8/18/17:35 ID:;s:otvwetjy0

  オレもかけつける!!!

  か弱い乙女をレイープするようなやつは許せんっ!!!!


374:C.N.;名無したん 2012/8/18/17:37 ID:;ds;_tlrewcsl0o

  うちにショットガンある。

  今すぐレイープ魔の頭吹き飛ばしてやるからな!




う~ん、、、

そこまでしてくれなくていいんだけど。

どうせこいつらもお祭り気分の遊び半分だろうし。。

まあ、適当なとこで収めとくかな。




378:C.N.;名無したん 2012/8/18/17:45 ID:kjyuKJXl50

  みんなありがと。シャワー浴びてるスキになんとか脱出できたお


380:C.N.;名無したん 2012/8/18/17:47 ID:p:dsoijvf0

  とりあえずよかったな

  しかし許せん!

  そのキモヲタを晒すのだ!

  どんなヤツなんだ?


382:C.N.;名無したん 2012/8/18/17:48 ID:kjyuKJXl50

  その男は厨房もレイープしようとした常習犯




“RRRRR RRRRR RRR…”


そこまで書いてると、スマホが震えて電話の着信音が鳴った。

ヤバッ。

ミノルからだ。

ここはスルーしとこう。

ミノルのナンバーを着拒にして、あたしはネットを続けた。

訊かれるまま、キモヲタと逝けメンカメコの特徴を、書き並べる。


『特徴? エロ絵描いてるデブサのヲタ』

『ちょっとフォトショ使えるかと思って、師匠気取り』

『リア恋のみくが嫁とか、痛杉』

『じゃちょっとだけ晒す。デブサヲタのツレの逝けメンカメコは、いろんな女喰い散らかしてる極悪。罰のリーダーみたいな名前』


ジグソーパズルみたいに、ひとつひとつじゃわからなくても、この情報を全部組み合わせてみれば、だいたいだれだか特定できるはず。

わたしが手を下すまでもない。

ヨシキもミノルも、ネトラーどもの鉄槌を受ければいいんだわ。


思惑どおり、そのあとのスレは、ふたりに対する罵倒と非難のカキコで埋まっていった。


「ふふ、、、 ヨシキめ。いい気味」


お祭り状態になってる掲示板を見ながら、ほくそ笑む。

あたしがちょっとネタを投下すれば、見る見る火の手が上がって、ヨシキもミノルも火あぶりにされるのだ。

バイト先から、つきあってる女の子、持ってるカメラの種類や乗ってるクルマ、サイトアドレスまで、公私ともに晒されまくって、ヨシキもミノルも丸裸にむしられていった。


やっぱり男どもは、みんなあたしの信者だわ。

なんてったって、あたしはネット世界の女神さまなんだから。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る