あたしをいい気持ちにしなさい

「べっ、別に、、、デートってわけじゃないんだけど、、、」

「ふぅん、、、 ま、いいや。あ、彼女はレイヤ-の美月梗夜みつききょうやさん。梗夜さん。こいつはぼくの相方兼親友の大竹稔。ミノルでいいよ」

「はじめまして。こんにちは」


あたしのことはスルーで、みんなでそれぞれ自己紹介しあってる。

なんか、余計にむかつく。

ミノルにしても、なによ!

『別にデートってわけじゃない』なんて。

あたしのことが好きなら、ヨシキから奪い取るくらいのパフォーマンスを見せなさいよ!

、、、って、チキンなキモヲタくんじゃ無理か。


「彼女はレイヤーの美咲麗奈さん。普段はエロゲーのコスが多いけど、最近はボカロメインでやってるよ」


ようやくヨシキが、わたしを紹介する声が聞こえてきた。


「…こんにちは」


少し構えるように、美月梗夜はお辞儀した。

明らかに声が固い。

こんな女とは口ききたくもないけど、ヨシキのお気に入りのこの子を味方につけておけば、あとあと有利になるかもしれない。

緊張をほぐしてやるように、あたしは明るく笑顔を向けてやった。


「美月梗夜さんね。こんにちは。よろしくねw」

「よろしく。美咲さん」

「麗奈でいいよ」

「ありがとうございます」

「梗夜さんっていくつ? いつからコスプレしてるの?」

「17歳です。コスプレははじめたばかりで、まだわからない事が多くて、、、」


くそっ。

リアルJKか。


「そう。なにか困った事があったらあたしに相談してね。力になるから」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「メアド交換しようよ♪」

「え? ええ」

「明日のイベントも来る?」

「行くと思います」

「そっか。会えるといいねw」


そう言いながらあたしはスマホを取り出し、美月梗夜とメアド交換を交換する。


「自己紹介が終わったとこで、おまえらと相席してもいいか? 賑やかな方が楽しいしな」


ヨシキはそう言って、ミノルの隣に座ろうとした。


はあ?!

ふたりがいちゃついてるのを、目の前で見せつけられるわけ?

ふざけないでよ!

そんなの耐えられない!!


「ゴメン。あたしたちもう出る所だったの。デートの途中だしね」

そう言って、あたしはミノルに目配せしながら席を立った。さすがにミノルもわたしのアイコンタクトには気がついたらしく、あわてて立ち上がり、ヨシキに挨拶した。


「じ、じゃあヨシキ。ぼくたちもう行くから」

「そうか? じゃあ、また明日」

「ミノルくぅん。麗奈まだ行きたいとこいっぱいあるんだ。もっともっと楽しもうねw」


ヨシキの事なんか眼中にないといった風で、ミノルの腕にからみついて甘える。

なのにヨシキは別に焦る様子も、焼きもちを妬く様子もなく、平然と答えた。


「ごちそうさま。あんまり遊び過ぎて、明日のイベント忘れんなよ」


なにそれ?

ムカつく!

あたしがあんたの親友とイチャイチャしてても、全然気にならないわけ?

こんなさえないブッ細工なキモヲタに、自分のカノジョを取られかけてるのよ?

なのに、茶化すくらい余裕で見てられるなんて、、、


どうかしてる。

これじゃ、リベンジにもならないじゃない!


ミノルにぴったりと寄り添ってカフェを出ながら、あたしは頭がクラッシュしそうになってた。

しかも、ミノルは足を踏んでくるし。

まったく、、、

女の子と腕組んでまともに歩けないの?

足は踏むしあそこは膨らませるしで、やっぱドーテー君は最悪、、、



 店を出るとすぐ、あたしはミノルの側を離れた。

こんな男と、いつまでもくっついていたくない。

夏の日射しが照りつける秋葉原の街を、あたしは無言で足早に歩いていく。

少し離れたうしろを、ミノルはトボトボとついてきていた。

あたしの気分を取り繕おうとしてか、しきりに話しかけてくるんだけど、その話題のチョイスに、さらにムカついてくる。


「いや、、 びっくりしたね。まさかあんな所でヨシキと会うなんて」

「…」

「そう言えば美月さんって初めて見るけど、こないだの夏コミには来てたのかな?」

「…」

「麗奈ちゃんはイベントで見かけなかった?」

「…」

「ヨシキとはどうやって知り合ったんだろ?」

「…」

「美月さんって、美人だよね~」

「…」

「麗奈ちゃん?!」

「…」

「麗奈ちゃん?」

「…ホテル。行こ!」

「え… ええええっ?」


どうリアクションしていいかわからず、絶句するだけのミノルの腕をギュッと抱きしめた。


なんか、、、

もうどうでもいい。


ヨシキのことも美月梗夜のことも、考えたくない。

今は、このムシャクシャした気持ちを吹き飛ばしたい。

もう、ミノルでもいいから、スカッとさせてよ!

ミノルはあたしのこと好きでいてくれるし、たくさん尽くしてくれるから、一度くらいならエッチしてあげてもいいわよ。

自分の親友があたしとエッチしたって知ったら、ヨシキはどうするかな、、、

ってか、もうあんなやつのことなんて、考えるのもメンドくなってきたし。


「あんなふたりの事なんかどーでもいいし。今はミノルくんに夢中だから」


ヨシキのことを頭から振りほどくように、あたしはミノルに胸を押しつけた。

お互いの肌の感触が、気持ちを高めていく。

興奮で言葉が上擦りながらも、ミノルは訊いてきた。


「ほっ、ほんとに?」

「もうっ。女の子に何回もそーゆー事言わせないのっ」


乙女心をわからないDTは、これだからメンドいのよ。

こういうときは、なにも言わずにあたしの腕を引っ張って、さっさとホテルに連れ込めばいいのに。

こっちから誘ってるんだから。

あんまりグズグズしてると、気が変わっちゃうわよ。


しばらくあたしの瞳を穴が開くほど見つめていたミノルは、ようやく意を決したように、うなづいた。


つづく

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