あたしの会話でなごみなさい

「その子がDVとか、家庭内不和で家出してるとして、おまえにそれを、ちゃんと解決してやる覚悟と力は、あるのか?」

「…」

「原因を解決してやれないのなら、ずっとその子を家に置いて、面倒見てやれるのか?」

「…」

「そんな覚悟もないまま、『帰せるわけない』なんて言うな。

それって単に、『可愛いから』ってペットを飼って、気に入らなくなったら捨てる様な、バカな飼い主と同レベルだろ」

「…」

「中途半端にやさしくされて、その後に見捨てられる方が、余計に傷つくだろ」

「…」

「最後まで責任持てる自信がないなら、はじめっから関わらない方が、お互いのためだろ。こども110番とか児童相談所とかの機関もあるんだし、警察だって家出少女は引き受けてくれるさ。

本当にその子が困ってるのなら、そう言う所で保護してもらうのが、一番現実的な対応なんじゃないのか?」

「…」


そりゃそうよね~。

こんな冴えない男が、家出少女のナイトになれるなんて、、、 ないないない。

ってかヨシキって、意外とはっきりモノを言うのね。

全然遠慮もなくて、こんな言われ方した方は傷つくだろな。


ミノルは黙ったまま、ヨシキの説教を聞いていた。

だけどそのうなだれた姿には案の定、明らかに怒りの表情が浮かんでた。


困るのよね~。

あたしとは関係ない、こんなつまんない話題を、グダグダ引っ張られても。

ここでふたりがケンカになっちゃ、あたしとヨシキの時間が余計に減っちゃうじゃない。

しかたないな。

あたしが間を取り持ってやるしかないか。

慰めるように、あたしはミノルに言った。


「でも、ミノルくんって、いい人よね。そうやって家出少女の面倒みてあげたいなんて。

家出少女を泊めても、男の人はヤリたいだけなんでしょ? ふつー。

なのにミノルくんは、こうやってその子の事心配してあげてるし、それなりに気を遣ってるし」

「そ、そうかな?」


うん。

これならミノルのメンツも立つわ。

あたしの言葉に照れるように、ミノルは頭を掻く。

赤らんだ頬がキモいが、わたしはにこやかに続けた。


「その子だって、きっと不安でいっぱいよ」

「不安?」

「だってそうでしょ。知らない男の部屋に泊めてもらうんだから。

無理矢理ヤラれるかもしれないし、暴力ふるわれたり、殺されたりって恐怖もあるわけでしょ。

でもそうやって、ミノルくんの前でスヤスヤ眠ってるなんて、、、 安心してるって事じゃない?」

「…そう?」

「そうよ。あたし見直しちゃったかも、ミノルくんの事」

「え…」

「いっそカノジョにしちゃいなさいよ、その子。そうすれば問題ないじゃない」

「ま、まさか… 14歳なのに」

「え~っ? たった8つ差じゃん。

6年経てば28歳と20はたち。ふつーじゃん」

「ま、まあ、そうかもしれないけど…」


ミノルの表情からは怒りの色が消え、穏やかな空気が戻ってくる。

さすがあたし。

場を和ませるのが上手いわよね♪


「ま。あとはおまえが決めろよ。タイーホされてみるのも、人生経験になっていいんじゃね? まあ生暖かく見守ってるから」


ヨシキがそう言って、とりあえずそのJCの話題は終わった。



 夜も更けてカラオケ店を出たあと、ミノルと駅前で別れ、当然のようにあたしたちはラブホへ向かった。

モダンなホテルの一室に入ると、ヨシキは思い出したようにあたしに頼む。


「麗奈。ちょっと電話したいから、スマホ貸してくれない?」

「え? いいけど… どこにかけるの?」

「まぁね」

「自分のスマホじゃダメなの?」

「すぐすむから、いいじゃん」

「…」


どうして自分のスマホ使わないのか疑問を感じながらも、あたしはヨシキにiPhoneを渡した。

自分のiPhoneに出した番号ナンバーを見ながら、ヨシキは電話をかけ、相手が出ると、妙に深刻そうな作り声で話しはじめた。


「大竹稔さん、ですね。

警察の者ですが、そちらで少女を保護しているとの通報がありましてね。今から確認に伺うので、住所を教えて下さい」


はぁ?

いったいなに言ってるの?

電話の向こうで固まったミノルが、容易に想像できた。

一転して、ヨシキはおチャラケた声で笑い出す。


「はははは… ウソウソ、オレだよ~ん」


もしかして、ミノルをからかうために電話したの?

それにしても、警察だなんて…


「もうっ。意地悪ね」


思わずヨシキをなじる。

なんであたしとホテルのベッドの上にいながら、そんなつまんない電話かけるのよ!

そんな話ししてるヒマがあったら、早くイチャイチャしようよ!!


あたしを放ったらかしてしばらくミノルと話していたヨシキだったが、電話を切ってiPhoneを返すと、意外なことを言った。


つづく

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