もっとあたしを楽しませなさい

「おおっ! 今日のカッコも最高だよ。いいね!!」


待ち合わせの私鉄の駅前でわたしを見た瞬間、ヨシキは顔面をほころばせながら喜びをあらわにした。

そりゃそうよ。

とっておきのメタモルフォーゼの白ワンピ。

小柄なあたしでも着こなせるように、スカート丈を短くカスタマイズして、ボリュームたっぷりのパニエが見えるようにしている。

髪もラビッドスタイルのツインテール。

ヨシキがいちばん萌える髪型だ。

ロリータファションはある意味戦闘服だというけど、これだけロリ武装しておけば、ヨシキだって陥落させれるはず。


 しばらくふたりで駅前で話していると、ミノルが電車を降りて改札を抜けてくるのが見えた。

相変わらずモテない男子代表みたいな、ダサいヲタファッション。

わたしを見ると、ビックリしたように目を見開き、髪の先からつま先まで、舐めるように見回す。


キモっ。


そういえば、こいつもヨシキと同じで、ロリータファッション好きなんだった。

なんかムカつく。

ヨシキの気を惹くための服なんだから、あんたなんかに見られたくないわ。


「よっ、犯罪者。調子はどうだ?」


ヨシキはミノルを認めると軽く手を挙げ、からかうように意外な言葉を発した。


「犯罪者? なにそれ」

「実はこいつの部屋に今、女子中学生JCがいるんだよ。なんか『責任とれ』って、脅されてるんだってさ。モテる男は辛いよな~。なあミノル」


ミノルを冷やかしながら、ヨシキはわたしの質問に答えた。

ええっ!

中学生の彼女~~っ?!

こいつ、モテない草食男子のフリして、実は肉食なの?

なんか意外。


「なにそれ。ミノルくんの彼女? ほんとに中学生?」

「かっ、彼女なんかじゃないよ」

「でももう、二泊もしてるんだろ? その間になにもないって方が、不自然じゃん」


な~んだ。

二晩も女を放っとくなんて、やっぱグズでノロマな草食ミドリガメじゃん。

ちょっとからかってやるか。


「ええっ~? ほんとになにもないの?! なんか… 逆にイヤかも、そういうの」

「え? どういう事?」


慌てたように、ミノルは訊いてくる。


「だってぇ。二晩も男といっしょにいて、全然手出されないわけでしょ? それって、女の子としてはけっこう屈辱的かもよ。女の魅力ないって言われてるようなもんじゃん」

「そ、そんなもの? ゲイとか、誤解されるかなぁ」

「ゲイの部屋に女の子の萌えフィギュアとか、飾ってないっしょ。ふつー」


ヨシキが口を挟む。

あたしはさらに、厳しい言葉を投げかけた。


「ん~、、、 好きでもないヤツとエッチしたいとは思わないけど… かと言って、全然女の子として見られないってのも、女のプライドが傷つくみたいで、なんだかなぁ」

「…そうなんだ」

「それは麗奈、おまえが淫乱だからじゃね?」

「ええっ。ヨシキひど~い!」


ヨシキもけっこうドSかも。

でも、そんなひどいこと言うのは、愛情の裏返しなのかも。

こうやってミノルと親しそうに話してると、決まってヨシキが口を挟んでくるのも、焼きもちからなんだろな。

ヨシキって、意外と『構ってちゃん』で、愛情表現もちょっと屈折してる。



 その日は速攻でカラオケルームに入り、食事をしながらアニソンやボカロ曲をメインに歌いまくった。

あたしはヨシキの隣に陣取り、腕を絡ませながら甘えてみたりして、『早くふたりっきりになりたいアピール』をするんだけど、全然気づいてもらえない。

ヨシキとミノルは歌の合間に、例のJCの話題で盛り上がってるし、、、 


ってか、放置プレイ?

なんか、、、 モヤる。

この巨乳美少女のあたしが、可愛いロリータ着て、あなたたちの目の前で退屈そうにしてるのよ。

もっとあたしに気ぃ遣って、楽しませなさいよ!


にしても、、、


やっぱりミノルって、バカ?


『ぼくには栞里ちゃんがそんなに悪い子には思えないんだよ。

そりゃ、ワガママで気まぐれな所はあるけど、昨日だって、ぼくのいない間に部屋を掻き回したりしてなかったし、コミケの売り上げも無事だったし、ぼくが渡したお金にさえ、手つけてないくらいだよ。

栞里ちゃんがもし、家でDVとか受けてて、それが辛くて家出したんだったら、帰せるわけないじゃないか』


なんて、、、

どんだけ女の子にドリーム持ってんのよ。ったく、これだから童貞クンは。

なんだかんだ言って、あんたみたいなキモデブサヲタなんて、『宿主』としてカモられて、ポイじゃん。


得体のしれない家出少女が上がり込んでるってのに、のほほんとカラオケなんかやってていいの?

こうしてる今でも部屋が荒されて、金目のもの全部持ってかれてるかもしれないじゃない。

もしかしたらその子、美人局つつもたせで、怖いおに~さんが部屋で待ち受けてるかもしれない。

下手したら人生、棒に振るよ。


「おまえは栞里ちゃんの人生に、責任持てるのか?」


ミノルの話を黙って聞いてたヨシキが、不意にミノルに訊いた。

真剣な表情。

ヨシキのこんな顔、初めて見る。


つづく

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