ヒロインのあたしに貢ぎなさい

「速報サンクスです♪ すっごく素敵で超感動(*^▽^*) お礼したいから、今からアフターとかどう?」


ヨシキにメッセージを送る。

返事はすぐに来た。


『オレもアフターなう』

「合流しない?」

『オK』



「あ。あたし用事ができたから」


メールを確認すると、あたしはそう言って立ち上がった。

キツネにつままれたような顔で、カメコたちは一斉にわたしを見る。

みんな、なにを期待してたの?

そりゃ、ここに集まってるカメコはみんな、あたしがお目当てなんだし、主役ヒロインがいなくなるのが寂しいのはわかるけど、いつまでもこんな冴えないオタク連中のなかで、あたしがグダ巻いてるのも不毛じゃん。


「じゃ、お先~♪」


名残惜しそうなカメコの視線を背中に感じながら、わたしはキャリーバッグを引っ張り、ファミレスをあとにして、ヨシキのいる居酒屋へ向かった。


、、、ったく。

か弱い乙女がこんな大荷物を引っ張ってるのに、だれも手伝おうとしないなんて、、、

少しは気ぃ利かせなさいよ。

そんなだから、リア充になれないのよ。

まあ、ダサいカメコにそんなジェントルマンなこと、期待してもムダか。

あ、、、

ファミレスのスウィーツ代。

払うの忘れてた。

ま、いっか。

だれかがなんとかしてくれるでしょ。




 イベント会場からそう遠くない居酒屋で、ヨシキはサークルの仲間とふたりで飲んでいた。


「よ。こっちこっち」


暖簾をくぐって入ってきたあたしを目ざとく見つけ、ヨシキは微笑みながら軽く手を挙げた。

ヨシキの好みはわかってる。

お絵描きSNSで『ツインテール同盟』ってコミュを作ってるくらいのツインテフェチで、ロリータファッションに目がないのだ。

今着てる襟ぐりの開いた『BABY THE STARS SHINE BRIGHT』の白ワンピなんて、きっとヨシキのドストライク。頭の上でくくったツインテールを揺らしながらキャリーバックを転がし、ヨシキたちのいるテーブルへと、あたしは歩いていった。


「おっ。今日はBABYか。可愛いカッコでそんなデカイ荷物持ってるのは無粋だな。貸してみろよ」


そう言いながら、ヨシキはあたしを出迎えてくれると、キャリーバッグを代わりに持ち、席までエスコートしてくれた。

さすが、ヨシキ。

やっぱデキる男はこうでなくっちゃ。

それにしても、、、

喰いつきがいいのは、このツインテールとロリータ服のおかげ?

案外わかりやすい、単純な男かもしれない。


 ヨシキの隣に座り、今日のイベント話に花が咲く。

そういえば、ヨシキが他のカメコたちと行動してるとこは、見たことがない。

どうやら、大勢でのアフターが嫌いらしい。

今日も相方とふたりだけでまったりしてるみたいで、夏コミでの売り上げがよかったらしく、すでにふたりともお酒がかなり入っていて、上機嫌で滑舌もよかった。

向かいの席に座ってる相方の『ミノル』は、『ザ・オタク』って感じ。

なんだか陰気で、冴えなくて、容姿も丸メガネの引き目な上に小太りで、ぱっとしない。

試しに話しを振ってみたりしても、オドオドして口べたなので、こいつはスルーに決める。


席に座ったあたしは、テーブルの上に胸を乗せてひと息ついた。

こうしてると、重い荷物を降ろしたようで、肩もラク。


大きな胸って重量もあって、肩がこるのよね~。


これって、巨乳じゃないとわからない深刻な悩みで、テーブルの上におっぱいを乗せてくつろぐのは『巨乳あるある』なんだけど、それって男にしてみれば、萌えのひとつらしい。

ヨシキの視線がチラチラと胸元を覗いているのを感じる。

テーブルに肘をつき、両腕で胸を挟み込みながら、あたしはヨシキの話に相づちを打った。

こうすると、胸が寄せられて谷間が強調され、隣のヨシキからはワンピースのなかの胸の盛り上がりがよく見えるはず。


効果抜群!

ヨシキの視線が胸元に吸いつくのがわかる。

向かいの席のミノルも胸元をガン見してきて、気持ち悪いけど、そこは副作用とでも思って、ガマンしとく。


「ね。今日のイベントだけじゃなんか足りなくない? ヨシキにはもっと撮ってほしかったんだけどな~」


それとなく誘いながら、お酌を装って、あたしはヨシキの二の腕を、さりげなく胸の先っぽでつついてみた。

会話の所々で、ポンと肩を叩いたり、手を触ったりする。

男って、そういうボディタッチに弱いのよね。


案の定、ヨシキも気分が乗ってきたみたいで、『今から個撮しよう』という話がまとまり、居酒屋を出てミノルと別れたあと、あたしたちはヨシキお薦めのラブホに足を向けた。


つづく

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