おっぱいで世界を制しなさい
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あたしはずっと、自分のからだがキライだった。
全然身長は伸びないくせに、胸ばっかり大きくなって、小学校高学年になる頃にはもう、ジュニアブラじゃ間に合わなくなるくらいにまで育ってた。
ふつうのブラウスやTシャツを着ると、胸の先からストンと服が垂れ下がる、『乳カーテン』状態になって、デブに見えるし、からだにフィットした上着は胸の上下でずれ上がり、『乳袋』みたいなシワができて、胸が余計に強調されてしまう。
体育の授業の時なんかに体操服姿で走ってると、ブルンブルンと胸が震えて痛いだけでなく、ヤニ下がった男子のエロい視線を感じて、すごくイヤだった。
「見ろ! 揺れてる揺れてる!」
「すげ〜!」
「おっぱいおっぱい!」
「もうブラジャーしてんのかよ」
「揉みて〜〜!」
そんな男子の声が聞こえてくると、もう恥ずかしくて恥ずかしくて、顔まで真っ赤にしてた。
「あんなの見て喜ぶなんてサイテー。キショい」
「チビのくせに胸で気ぃ引こうなんて、キモすぎ」
「あいつとしゃべんなよ。ブスが
と、女子からはやっかまれ、理不尽にイジメられ、何度『死のう』って考えただろう。
すべて、このでかい胸が悪い。
サラシをギュウギュウに巻いて、胸を潰してみたり、ブラウスを着るとボタンの間が開いて、男子に冷やかされるから、ホックをつけて隙間ができないようにしたりと、どうにかして胸が目立たないようにするのに、やっきになってた毎日だった。
そんなわたしにコペルニクス的転回を与えてくれたのが、コスプレだった。
「麗奈タン今日も可愛い~♪」
「いいよいいよ。麗奈たん最高!!」
「今日のコスプレもすげーいいっす! 麗奈ちゃん撮るのがオレの生きがいっす!!!」
「相変わらず可愛いですぅ! しかもスタイル抜群で、羨ましいですぅー!!」
「麗奈たんみたいなロリ巨乳が、リアルで存在するなんて、奇跡だお!!!!!」
イベント会場で、たくさんのカメコのシャッターとストロボの嵐を受け、褒め讃える言葉を浴びて、わたしは覚醒した。
カワイイは正義!
おっぱいは世界を制する!!
と。
クラスの女子たちは、本能的に怖れてたんだ。
わたしの可愛さと、この美巨乳を。
だから、わたしを遠ざけ、覚醒しないように、いじめ抜いて封印しようとしたんだと。
だけどもう遅い。
解き放たれたわたしの魅力は、もうとまらない!
『今日は乙。すっげよかった。速報送るよ』
夏コミが終わったあとだった。
数人のカメコとファミレスでアフターしてるなか、iPhoneにヨシキからのメッセージが届いた。
今日のイベントで撮ってくれた、コスプレ画像が何枚か添付されてる。
「やっぱ、ヨシキの写真って、綺麗よね~」
画面に写ったツインテのボカロ画像を見ながら、わたしは思わずため息ついてつぶやいた。
いつ見ても、ヨシキの写真はすごい。
それは、単に技術がすぐれてるってだけじゃない。
乙女のハートを鷲掴みにする魅力に、溢れてるんだ。
しかも、カメコのくせにかな~りのイケメンな上、レイヤーの気分をアゲるのも上手い。
さらに憎たらしいことに、ヨシキはだれでも撮るような安っぽいカメコと違って、自分の気に入ったレイヤーしか撮らないから、余計にレア感が高いのだ。
色仕掛けで取り入ろうとしたレイヤーの話も聞くし、ヨシキから撮ってもらうのはある種、素敵レイヤーのステイタスになってた。
「ヨシキぃ? あいつはダメだろ」
『ヨシキ』というわたしのひとり言に鋭く反応したひとりのカメコが、あからさまに対抗意識を見せながら、身を乗り出してきた。
『カメコ界の大御所』と呼ばれているカメラマン、ノマドだ。
アラフォーに手が届きそうなおっさんで、デブサヲタのノマドは、写真の腕はたいしたことないけど、一流企業に務めるお金持ちで、人脈が広く、サイトのアクセスも抜群に多いので、撮られるだけでステイタスにはなる。
額の汗を拭いながら、ノマドはさらに顔を寄せてきて、断りもなしにわたしのiPhoneをのぞきこんできた。
臭っさ~~~!
なにせ、真夏のイベント会場で、汗だくになりながら人混みにもまれて撮影したあとだから、発酵した汗とホコリの匂いが半端なく香ばしい。あんまり近寄んなよ!
「あいつはズームレンズでのjpeg撮りだろ?
やっぱ単焦点で撮ってRAW現像しなくちゃ、写真の真価は発揮できないよ。フォトスタジオでバイトしてるっていうけど、安直な撮影に流されてるよな。
その点ぼくはカメラもレンズも最高級のもの使ってるから、撮ってる写真もヨシキとは次元が違うよ」
ドヤ顔でノマドは自慢するけど、まずはその匂いをなんとかして。
鼻が曲がりそう。
と、そのとき、いい考えがひらめいた。
つづく
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