第18話 名前

日曜日。本田さんとの約束の日だ。

あれから本田さんとはスマホでやり取りをした。

行く場所は本田さんの希望で、最近できた、僕たちが住む田舎の中でトップクラスにおしゃれなカフェ。

それに合わせて、僕は自分市場一番おしゃれな格好をして、今待ち合わせ場所にいる。

待ち合わせ時間の5分前。本田さんはまだ来ていない。

「いい天気だなぁ」

なんて空を見ていたら、

「いーしーばーしーくんっ!」

「うわっ!」

「びっくりした?」

背後から突然本田さんが登場した。

「いやー、ごめんね? 本当は石橋君が来る前からここにいたんだけど、なんか挙動不審だったから」

「それを面白がって見てたと」

「ごめんって。それより石橋君、今日の私を見て何か言うことはないかな?」

「あー、えーと」

「何かな? こういうのはちゃんと言わないと、ほとんどの女の子はがっかりするよ」

「えーと。に、に」

「に?」

「似合ってて、可愛いです」

「うん、それでいい」

にんまりと笑う本田さん。

そんな本田さんは、シンプルだけど袖が編み上げになっている白いシャツに、スカイブルーのスカート、デニムのサンダルという格好だった。

周りを歩いている同じくらいの年の子と比べると結構シンプルな格好だけど、元が可愛いから普通にかわいい。

それを口に出すのはすごい恥ずかしいけど。

「じゃあ行こっか」

「うん」

歩くこと数分。目的地に到着。

普段は混んでいて並ぶこともあるらしいけど、今日はそこまで混んでいなくて、すぐに座ることができた。

「ねえ石橋君」

「何?」

「なんか、デートみたいだね」

「でっ⁉」

「あはは、石橋君の反応、やっぱり面白い」

「え、からかったの?」

「ごめんね?」

「もう……」

「さ、何か頼もうよ」

「うん……」

メニューを広げると、コーヒーなどをはじめとするドリンクのほか、パンケーキやパフェなどの、女の子が好きそうなスイーツの名前が並んでいた。

「わあ、どれもおいしそう! 何にするか迷うね」

「本田さんも、ここに来るの初めてなの?」

「うん、初めてだよ?」

「そうなんだ」

「んー。あ! 私このチョコパフェにする!」

「じゃあ僕は……苺のパフェで」

「なんか女子みたいなセレクトだね」

「えっ」

若干精神ライフを減らしながらも何とか注文をし、それが届くと、

「ねえ慧斗君」

「……」

「名字で呼び合うのってなんか他人行儀っぽいでしょ。名前で呼び合おうよ」

「……」

「あー、女子を名前で呼ぶのって恥ずかしい? でもひまりのことは名前で呼んでるし、いいじゃん」

「……」

「お願い。……だめ?」

「だ、だ、だめでは、ないですけど……」

「ほんと? ありがと」

「あーいや。いいとはいってな……」

「ねぇねぇ慧斗君。その苺パフェ、一口もらっていい?」

「あ、はい」

「やった!」

ありがと、と笑い苺パフェを食べる本田さん。名前呼びの話はこれで終わりといった感じ。

仕方がない、これも本田さんともっと仲良くなるため、これからは茜さん、もしくは茜ちゃんと呼ぶことにしよう。

「んー! ほんとパフェっておいしいね!」

「ってはやっ!」

「な、何よ」

「いや……」

僕が少しぼんやりしている間に、茜さんはパフェの三分の一を食べ終わっていた。「あー。私パフェが大好きなの。本当はゆっくり食べながらここでお話ししようと思っていたんだけど、どうしてもね」

「別に大丈夫だけど……」

「ねえ慧斗君」

「はいっ!」

「私のことも名前で呼んでみて?」

「え」

「呼んでよー」

「あ、ああああ、茜、さん……?」

「さん付けなのね」

「えと、意外と恥ずかしそうじゃないね?」

「うん。別に恥ずかしいとは思わないけど」

軽くショックを受ける僕。僕を異性としてあまり見ていないということか。

「だって、友達と名前で呼び合うのなんて、当然の事でしょう?」

「友達……!」

「それに、私慧斗君の事名前で呼ぶの初めてじゃないしね。慧斗君だって前は私の事名前で呼んでくれてた」

「あぁ。覚えてたんだ」

「もちろんだよ。改めてよろしくね、慧斗君」

そういうと、茜さんは笑った。

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