第9話 進展

 朝、僕はいつものように奏汰と一緒に登校してきた。

 他愛もない世間話……ゲームやテレビ番組について話しながら、楽しく歩いてきた。

 扉の前で一度立ち止まってから勢いよく開ける。

 本田さんはもう来ているかなと教室を見回すと、前の方で大宮君、ひまりさんと一緒に話しているのが見えた。今日は挨拶をしてみようと思っていたけれど、これでは少し難易度が高い。

 とりあえず自分の席へ向かい、カバンをつけのわきに引っ掛ける、と、

「あ! 慧斗君! 奏汰君! おっはよー!」

「んんんんんん?」

 ひまりさんが大きな声で僕らの名前を呼んでいる。

 奏汰は爽やかスマイルでおはようと言っているけれど、僕にはとてもそんなことができるはずがない。

「ねーねー! 二人もこっち来てお話しよーよ!」

「んぐぐぐぐぐ」

「いいね。よし、慧斗、行こう」

「ええええええええ? マジで? マジで?」

「ほらほら! いいチャンスじゃん」

 ずるずると奏汰に引きずられて進んでいく。

 マジでいきなりあんなリア充グループに話しかけに行くのはきつい。

「やー、慧斗君、自分で歩きなよー」

「う」

 ちらっと本田さんを確認すると、何やら気まずそうにしているのが見えた。

 いや、気まずいのはこっちだよ! ん? 気まずいわけではないけど……。

 ここは一つ、挨拶をした方がいいだろう。

 落ち着いて。なるべく笑顔で、爽やかに。

「本田さん、おはよう」

 言えた! するっと口から挨拶が出てきた。これなら会話もいけるかもしれない。

「あ、うん。おはよう……」

 ……。待っていたのは、悲しい結果でした。

「あ、い、石橋君と足立君って、ふたりと仲良かったんだね」

「よくねぇ」

「仲良しだよ!」

「えーと」

 混乱している様子の本田さん。そりゃそうだろうなと思う。すると、すかさず奏汰が助け舟を出した。

「俺らが二人に用あって話しかけたんだよ。そしたらひまりが友達になろうって言ってくれて」

「へ、へー。そうなんだ。確かに、ひまりならそういうことしそうだもんね」

「ちょ、それどういう意味よ」

 ひまりさんが突っ込んで、本田さんがアハハと笑う。

 ……楽しそうでいいな。

「ねえ、石橋君」

「ふぇっ? な、何でしょう?」

「えーと。石橋君は、本当にもう、大丈夫?」

「ん? それはどういう……?」

「いや、何もないならそれでいいの。ただ私が気になっただけ」

「そう……」

「何々-? もしかして二人、前に何かあったとか?」

「何もないよ。ね? 石橋君」

「あ、うん。別に何も」

「ふーん。つまんないのー」

 本田さんの質問、どういう意味なんだろう。小学校の時の事、か?

 まあ、それは後で考えればいいか。

「なあ、大宮」

 少し冷たい奏汰の声。

「んだよ」

 あからさまにイラついている大宮君の声。

「今日、いつもより静かだね?」

「あ? どういう意味だよ」

「いや、別に?」

 何やら険悪なムードになってきた。僕、こういうのはつくづく苦手なタイプで……。

「はーい、二人ともストップー! なんで君たちはすぐけんか腰になるのー?」

「ひまり……」

「奏汰君は昼休み屋上ね!」

「は?」

「は? じゃないの! ひまり命令だぞ!」

「わかったよ」

「マジで!」

「なんで慧斗が驚くんだよ」

「いや」

 僕は昼休み、何をして過ごせばいいのか、という質問は言わないでおいた。

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