第7話 人と話すのは至難の業
さて、大宮君と神田さん改めひまり……さんとの一件があった次の日。
僕は大きな壁にぶつかっていた。
その大きな問題を、神妙な面持ちで奏汰へ打ち明ける。
「なぁ、奏汰」
「うん?」
「僕、もっといろいろな人と話せるようになった方がいいと思うんだ」
「もっと前から気付いておきたかったな」
「あれ、意外と驚かない感じ?」
「だってそんなん、見てたらわかるよ。ずっと前から」
「そうなんだ……」
今まで奏汰以外の人とあまり話してこなかったから、ここ数日でコミュ力不足を露呈していたと思ったのだが。
「そうだな……。じゃあ、大宮とひまりに手伝ってもらうか」
「え……」
「それ以外関わりのある人いないだろ」
「まあ、な」
「あ? 俺は何か大きなことがあったら来いっつったんだ。普通に会話するだけのためにくんなよ」
「ひえっ」
その日の昼休み。僕らは二人のところへ行っていた。
「ははは。まぁまぁ颯。そんなに睨んであげなくていーじゃん?」
「あぁ?」
容赦なく睨んでくる大宮。僕は言葉に詰まってしまう。
「なぁ大宮。じゃあさ、俺ら、友達になんね?」
「あ?」
「おー! それいい! いいね! ねぇねぇ颯! 友達なろーよ」
「友達だぁ? お前らと? ふざけんじゃねえ」
「でもさ、いちいち何かあったときだけ話すのも面倒くさいと思うんだよね。説明も必要だし。それに、今言ったとおり 、慧斗は俺以外だとうまく喋れないから、手伝って欲しいんだ喋れない。これは一大事だろ?」
少しニヤリと笑って奏汰が言う。奏汰がこの表情を見せたら、絶対に逆らうことができないことを、僕は知っている。
「確かに……」
大宮が少しおされている。
よしよし、この調子。
僕は何もしていないけれど、そんなことを思う。
「で、石橋。お前は俺らとダチになりてえの?」
「ふぇっ? あ、えと、その、お、大宮君達が、良いっていうなら……な、なりたいで、でででで」
「わかったもういい」
僕が一生懸命話している最中だというのに、無慈悲な大宮君はそれを遮った。地味に悲しい。
「じゃあ、けってーだね。うちらは友達!」
「つーかその友達ってさあ、恥ずかしくねえの? 俺はそんな友達ごっこがしたいわけじゃねえからな」
「やだなあ颯! 何照れちゃってんの? かーわーいーいー」
「うっぜえ!」
ああ凄いなひまりさんは。こんなにも恐ろしい大宮君に果敢に向かっていって。
「あ! うちわかった! うちらが仲良くなるとできるいいこと!」
「んだよ」
「ほら、うちらって茜と仲いいじゃん? この二人がうちらと仲良くなれば、早いうちに茜と近づけるよ」
「んなもん勝手にやってろって」
「そう、そーゆーこと」
奏汰が満足げに笑う。はたから見ると普通に仲良くしゃべってるって感じなんだよなぁ。でも僕にはわかる。奏汰はこの二人になぜか敵意を抱いている。なぜわかるかって、いつもと雰囲気が違うのだ。しかし、それでも。もう一度言おう。はたから見ると普通に仲良くしゃべってる感じなんだよなぁ。
一方僕は、ダクダク汗をかいてぴしっと両足揃えて立っているくせに手はいろいろな方向へばたつかせあからさまに目を泳がせてまるでコミュ障のキモい男子見た……こほん。とても焦っている。
「おい石橋。お前それ以上醜態さらしまくったらマジ関わるのやめるからな」
「ふええ」
「まぁまぁ、いいじゃないか大宮。ゆっくりやっていこうよ、な?」
「俺いまいちお前のキャラつかめねえよ」
と、そこまで話したところでキーンコーンカーンコーンと、予鈴が鳴り響いた。
「お。じゃあ俺らはこれで。いくぞ慧斗」
「あ、うん。えとえと、じ、じゃあ、またっ!」
何はともあれ、友達になってくれてよかったなあ。いや、僕はもともと友達になるため行ったわけじゃないんだけど、この際そんなことは関係ない。
いやはや、この調子で仲良くなりたいものだ。
「足立奏汰ね……。なんっか気に入らねえな……」
僕らがいなくなった後、大宮君がそんなことをつぶやいていた。
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