第6話 敵にしたくないなら見方にすればいい
僕がクラスのみんなへのあいさつを失敗した日の昼休み。
僕はとてもいいことを思いつき、それを奏汰へ話していた。
「あのさあ奏汰。大宮君と神田さんっているじゃん?」
「ああ。ちょくちょく慧斗を馬鹿にしているやつらな」
「そう。でさあ、二人に事情を話して、協力してもらったらどうかなと」
「馬鹿なの? それとも正気を失ったとか?」
「馬鹿は否定できないかもだけど、正気ではあるよ」
「だってあの二人は……いくらなんでも厳しくないか?」
「そこはほら、奏汰がいるから」
「お前なぁ」
奏汰が思案顔になる。
僕が考えた案は、難しいけど、成功すればかなりいい線を行くと思う。
奏汰よ、折れてくれ、と心の中で願う。
「分かった。一緒に話してやるよ。ただ、俺に恥かかせんなよ。今日の放課後でOK?」
「うん、ありがとう、奏汰ならやってくれると思ってた」
せめて機嫌を損ねないよう、精一杯笑って見せる。
「はぁ……なんて屈託のない……」
奏汰がいるから大丈夫と、謎の自信に満ち溢れたまま迎えた放課後。
「奏汰、行くぞ」
「マジでやる気だったのか」
「ったりめえだろ?」
二人はまだ帰っていなかった。教室の前の方でだべっている。
「声かけるのは慧斗がやれよ」
「分かってる。……あの、大宮君、神田さん。ちょ、ちょっといいかな」
僕が声をかけると、二人が一斉に振り向いた。
神田さんは何も考えていないような(まあ馬鹿そうだから仕方がない)、しかしからかう玩具を見つけたような、そんな顔で。
大宮君は、うん、、僕をまっすぐににらんでいる。もとから目つきが悪いのもあって、普通に怖い。
「あー、けーと君じゃーん。茜はきょーはもう帰ったよ?」
「あ、えと、その」
「いや、別にいいんだ。慧斗が、というか俺たちが二人に用があるだけで。少し話、聞いてもらえるかな?」
なんて優しいんでしょう、この奏汰という少年は。
「話ー? 別にいいけどー、早く終わらせてよ? この後うちらクレープ食べに行くんだから。ね、颯?」
「あぁ……。大事なようならとっとと話せ」
「あぅ」
「ほら、慧斗。ちゃんと話さなきゃ」
「うん。えっと、あのね……」
数分後。
早く話せと言われた僕は焦ってしまい、かえって時間がかかってしまった。
話している間、神田さんはともかくとして、大宮君の視線が怖かった。何度か奏汰が助け舟を出してくれたのが唯一の救いだったか。
「ばっかじゃねえの? ほんと、ばっかじゃねえの? 縁起でもないこと言いやがって。あと、大宮君って呼び方やめろ、気色わりぃ」
「あー! それだったらぁ、うちのこともひまりって呼んでほしいなー」
「俺の呼び捨てはやめろよ、あくまで名字で、フランクに」
「う、うん?」
意外なところを指摘され、戸惑う僕。
「それで二人とも、今の話、協力してくれるかな」
なんて優しいんでしょう、この奏汰という少年は(二回目)。
「あ? 信じろっていうのか? 信じられるわけねーだろ。でもあれだ、嘘を言っているようには見えねーっつーか。だから、協力するわけじゃない、ただ、心にとめておいてやるだけだ。何か大きなことになったら言え」
もっと怒鳴られるかと思っていたから、なんだか拍子抜けだ。
「えと、あ、ありがとう」
「はあ? 馬鹿じゃねえの? 礼を言われるようなことじゃない」
「あ、ええと。神、あっ、ひまり、ちゃんはどうか、な」
「あっはは。呼び捨てでいーよ呼び捨てで。そうねえ、うちは颯を信頼してるから、答えも颯とおんなじ。なんかあったら言えよ! キリッ!」
「あ、ありがとう」
「礼を言われるようなことはしてねーぞ! キリッ!」
「おいひまり、真似すんじゃねえ」
「へへへ。じゃあ颯、クレープ食べに行くよ!」
二人が教室を出て行ったあと。
「まあ、一件落着だな」
「うん……」
大宮颯。俺は覚えている。のちに、本田さんの彼氏となる人。
……なんてガラが悪いやつなんだ!
「奏汰、ありがとな、助けてもらって」
「今更かよ」
言いながら、奏汰は笑っている。
あれ、奏汰の顔が傾いて……。
倒れ、る。
「おいっ」
「は……」
「大丈夫かよ」
「あ……うん」
「たく……、あんま心配させんな。立てるか?」
「うん……。っと」
「危ね。はぁ、少し休んでから帰るか。なに、今日調子悪かったの?」
心配そうな顔。
「いんや、そういうわけじゃないんだけど。多分、普段話さない人と会話したせい」
「マジか。俺といると普通に話せてるのになあ」
「奏汰は例外だから」
「それは……嬉しいけど。あーあ、こりゃ前途多難だわ」
この後、僕たちは下校時刻まで教室に残って、ゆっくり家に帰った。
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