第19話 チーズとライスと罪深きオムレツ
キンキンに熱したフライパンにバター一欠け投入。
熱々バターの水たまりに、荒く溶いた卵をじゅわー。卵の表面が半熟になるまで様子を見て。
冷や飯に出汁とケチャップを混ぜて炒めたピラフを乗せて、フライパンの端から卵をめくり上げ、っと。
「ああダメダメ。駄目ではありませんか人の子よ。それはあまりに罪深い」
なんだよエロ女。ちょっと今手が離せないんだから近寄んなよ。
「そのように完璧に美味しそうなオムライスを一人でいただこうなど。他の神が赦そうともわたくしが許しませんよ、人の子よ」
うるせえっての。って、おい。破れたじゃねえか。
「ああ、何という事でしょう。折角の完璧なオムライスが。ここはわたくしが責任を持って処分いたしますよ人の子よ」
いや、半熟部分で補強すりゃいいだけなんだが。
よっと。これでぐるっとくるんで完成っと。
「いやはや。なんとも美味しそうに出来ましたね。ケチャップをつけますか人の子よ」
いけしゃあしゃあと来るなお前。ほれ、半分。
「はい。貴方のそういう所をわたくしは愛していますよ人の子よ」
お前の愛はゲームチャンプの次くらいに軽いな。
「わたくしが愛と言う言葉を使うのは、小人さん達と人の子に対してだけですよ、人の子よ」
全員じゃねえか。
「そこは、自分だけが特別じゃないか、とドキドキする所ですよ人の子よ」
そんなウブだったのはずっと前の事だしなぁ。
「貴方にもそのような時期があったのですか、人の子よ」
そりゃ、おれも木の股から……ちょっと前にも言ったなこれ。
「わたくしは世界樹の股から産まれ出でた神ですよ、人の子よ」
お前の出自とか物凄えどうでもいいわ。
てかお前、
「わたくしは、小人さんの人身御供も有り難くいただきますよ。人の子よ」
お前が出す鶏料理は食わん。
「意外と美味しいですよ、人の子よ。腹皮は真っ黒ですが」
あんま食ってると腹黒先生みたいになるぞ。
「その方を見かけた事が無いのですが、どのような方なのですか。人の子よ」
昔っからあんまり居着かないからな、あいつ。
「レアキャラというモノですね、人の子よ」
居る時は長くいるぞ。あっちで問題起こして、ほとぼりが冷めるまでの避難所に使ってるから。
「それは度々やっていると言う事ですね。大丈夫なのですかその者は」
腹黒って言われる位の事はやらかしてるんだよなぁ。
まあ、見かけたらアイツの言う事は信じるな金を渡すな用事を頼まれるな。って注意喚起はして回らんとならんのが面倒なんだがな。
「全然駄目ではないですか、人の子よ」
いつまでも出ていかねえんだよな、あいつ。
「貴方は管理人のようなものだと聞いていますよ人の子よ。何か強権発動等をすれば良いではないですか」
だから違うっつうの。金とるぞいい加減。
「まあ、見かけた時には気をつける事とします。忠告は有り難く受け取りますよ人の子よ」
絡んで騙されてもいいんだぞ。おれは関係ないし。
「もし、騙されたりしたら貴方も一枚噛ませる事にいたしますよ人の子よ」
だから、ここで金を稼ごうって奴には絡みたく無えんだよ。何回、面倒な目に巻き込まれたか分からん。
「この間は競馬で一儲けしたと聞きましたが? 他の人の子を交えて」
アレは裏がなさそうだったからな。
「ではなく、何故わたくしを混ぜなかったかと言っているのですよ、人の子よ」
いない奴をわざわざ呼ばねえよ。面倒くさい。
「貴方は本当にいけずですね、人の子よ」
いいから乳を押し付けるな。いやらしいんだよお前。
「もう少し、わたくしの色香に迷っても良いのですよ? そうそういけずと言えば、わたくしはもう少し野菜等を混ぜたオムライスが好きですよ。人の子よ」
グリーンピースで我慢しろよ。
「わたくし、グリーンピースはボソボソしていて好きでは無いのです。人の子よ」
小学生みたいなワガママ言うなよ、いい大人が。
「こちらの子供はどうして、グリーンピースやピーマンが嫌いなんでしょうかね」
ガキは大抵青物は嫌いだぞ。
「わたくしは刻んだズッキーニを入れるのが好みですね。人参もよろしいと思いますよ、人の子よ」
今度、冷凍刻み野菜入れてやるから安心しろ。
「茄子もおねがいしますよ、人の子よ」
そうなるとチーズ入れたくなるな。
「チーズですか! それは素晴らしい! 罪深過ぎますね、人の子よ」
チーズ入れるとライスは入らんがな。
「どうしてですか。ドリアっぽくて良いでは無いですか」
中身が多すぎると包みきれないんだよ。
「つうかホレ。オムレツって言うとフライパンを小刻みに振って丸めるもんじゃねえの、常識」
お前は毎回、どうでもいい事にこだわるのな、でかぶつ。
「あのクイックイッというのでオムレツが出来るというのが、わたくしには信じられないのです、人の子よ」
慣れりゃ出来るぞ。フライパン返し使った方が楽だからおれはやらんが。
「意外と高等テクニック持っていますね、人の子よ」
「料理うまいんだよな、お前。ずぼらな割に」
独り暮らしも長いからな。酒の肴作ってる内に料理なんかイヤでも出来るようになるわ。
「そうでも無い女子も多いと聞きますよ、人の子よ」
「ちなみに、女神サンはどうなんだ?」
「わたくしは全く出来ませんがそれが何か?」
威張って言うことじゃねえぞ。
「わたくしは奉仕される側だから良いのですよ人の子よ」
嫁には貰いたくない系統の女だな。
「わたくしを嫁に欲しいと申しましたね、人の子よ」
そう言う意味じゃねえよ。
「オレも嫁に貰うなら、せめてまっとうな性格の女がいいわ」
でかぶつなんかはよりどりだろうに。
「そらおめー。権力者にたどり着ける女なんてのは相当の根性持った性格破綻者だけだぞ常識」
「わたくしのように心根の優しい女性が恋しいのですね、分かりますよ」
飼ってる小人どもを何回絶滅させたよお前。
「数えているだけで8回くらいですね、人の子よ」
「悪魔かお前は」
「神というものは、元来そういうものなのです」
「クソだな神ってやつは」
こいつを基準にするのも何か違う気がするがなぁ。
「で、チーズか。うちんとこので良いならいくらかあるぞ」
お、穴あきチーズか。実物見たの初めてかもしれんな。
「オレんところはこれがメインだぞ」
ガキの頃は、この穴がネズミが齧った後だと思い込んでいてなぁ。
「ネズミが潜り込むには、穴の大きさが少しばかり足りませんね、人の子よ」
「何でそんな思い込みが発生するんだよ」
ガキの頃見てたアニメのせいだな。やたらとネズミと穴あきチーズが出てきたんだよ、昔のアニメは。
「チーズ倉はネズミも出るが、虫の方が問題だって話だがな」
あれか。ウジ入りチーズとか言うゲテモノか。
「虫が喰うのは美味い証拠、くらいのノリの食い物はいくらもあるが、わざわざウジ入れるとかありえんぞ、常識」
「虫入りのチーズという事は、やはり虫ごと食べるという事ですか、人の子よ」
病原菌とか混じってなけりゃ、ウジくらいは食えるだろうが。
「流石にそれは無いでしょう。人の子よ」
「オレもそれには引くわ」
おれがガキの頃は地蜂の幼虫とかセミとか食ってたぞ。
「カブトムシの幼虫も食ったとか言ってたな、お前」
あれは土臭くて不味いんだよ。
「土臭く無ければ食うって言っているように聞こえるぞ」
今はさすがに食わんがな。
ガキの頃は何食っても食い足りなかったんだよ。
「思い当たる所はあるが、さすがに虫は食わねえなぁ」
じゃあ、お前は何食ってそんなでっかくなったんだよ。
「まあ、近所の野犬ぶっ殺して食ってたな」
「大して変わらないじゃないですか、人の子らよ」
いや、野犬は食わねえよ。
「虫は食わねえよ常識」
「普通は両方食べませんよ、人の子よ」
お前は小人食ってるじゃねえか。
「捧げ物だから良いのですよ人の子よ」
牛や豚は神様が食い物として作ったから殺していい。みたいな理屈だな。
「そういう奴はどこにもいるんだな。そういうの見かける度に屠殺場勤務に回してやっとるわ」
「犠牲になった生き物に感謝して食べるのですよ。人の子よ」
まあ、そうだな。
で、チーズと茄子と人参入れるんだな。ちょっと待ってろ今刻むから。
「ズッキーニもですよ人の子よ」
ズッキーニねえよ。キュウリでいいか。
「大分違うと思うのはわたくしだけでは無いですよ、人の子よ」
大して変わらねえだろ。お、冬瓜あるじゃねえか。こっちのが近いな。
「本当ですね。信じますよ、人の子よ」
「そういや、このくらいでテイさんが出てくる頃だろうに、何やってんだあの人」
ああ、こないだ阪神ファンにぶっ飛ばされたらしいぞ。
「嗚呼。それでは当分戻って参りませんね。ご愁傷様です」
「あの細腕のどこにあんな馬鹿力が詰まってるんだろうな」
ここの連中は大体そんなモンだろ。
「オレは常識的な部類だからな」
お前も大概の部類に入るからな。
「わたくしは常識的ですよ。人の子よ」
ふざけんな。
「人の子よ、貴方は本当にいけずですね。わたくしがこんなに愛しているというのに」
「おい、言ってるぞ。応えてやれよ」
本気で言ってねえだろその女。
「いえいえ。本気ですよ、人の子よ」
うっせえ。言ってろよ。
「お前が攻められるのも珍しいな。面白いからもっとやれ」
お前、オムレツ作ってやらんぞ。
「チーズ代くらいは作るもんだろ常識」
「わたくしの愛の分も作ってくださいな。人の子よ」
ったく。ほれ、フライパンにバター投入っと。
邪魔すんなよ。卵で包む時に邪魔すると破れるからな。
「ええ、決してしませんとも」
「邪魔なんかするわけねえだろ、常識」
二人の顔は明らかに邪魔するつもりの顔なんだが。
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