第10話 熱血くんとホットプレートと山芋のお好み焼き

 第二回! チキチキ・イケメン会議~。


「そういう不真面目さが問題なんですよ!」


 どうした、このツンツン頭は。

「ほら、こないだ入ってきた子ですよ」

 つってもな優等生。いくらおれでも、さすがに顔は覚えてるが。


「名前は思い出せない。よくあるよくある」

 お前もそうか。ゲームチャンプ。

「リアルでも頭の上に名前付きのステータスが開いてるようにして欲しいよね」

「お前らな。顔と名前一致くらい、人として最低限の礼儀だろ常識」


 出入りが多いと覚える気が失せるんだよ。

「古株のあなたがそんなんだから駄目なんですよ!」


 で、この熱血ボーイはなんなんだ。

「熱血ボーイ(笑」


 うっせ。

「自分、ずっと思っていたんですが。みんなもっと、色々な事に真剣になるべきですよ」


 おう、好きにすればいいぞ。

「で、今回の食材はなに?」

「今回はお好み焼きにしましたよ」

「おう。それは戦争になるな」


 だから好きなように作れって。お好みなんだからよ。

「今回は大和芋を擦ったものを生地にします」

 もちもちして美味いんだよな。じゃ、ホットプレート出すぞ。


「なんかワクワクするんだよね。ホットプレート」

 そうかね? ただの熱くなる鉄板じゃねえの。

「オレの家だと、家族の焼き肉パーティの時くらいだったからね。ホットプレート使うの」

「それはテンション上がりますね」

「天涯孤独の俺にはよくわからん」

 家族なんてうるせーだけだと思うがなぁ。

「両親共働きだったから、スペシャルな日だったんだよね」


 それならちょっとわかる。

「あと、妹が喜ぶのが嬉しくてさ」

「可愛いですよね。妹」

「お前の妹は、可愛いじゃなくて怖いだろ」

「オレの妹は可愛くて巨乳だからいいの」

 巨乳はいらんだろ。その情報。

「乳の大きさは重要だろ常識」

 女はケツだろ。

「尻も重要だが乳も重要だ」


「だから真面目にしてくださいよ!」

 ほら、怒られたじゃねえか。

「お前に怒ったんだろ常識」

「両方に怒ったんです! まったく、あなた達と来たら」

「でもさ、真剣にって具体的に何よ?」


 色々だろ。

「色々って何だって話ですよ」

 色々は色々だな。


「だから、そうやって混ぜっ返さないで下さい! だから、そうですね。例えば住民同士で協力し合うとかですよ」

 協力し合ってるよな? 食い物あるヤツが無いヤツに奢ってやったりとか。

「貴方は主に奢られる側ですが」


 こないだのうなぎとかはおれの持ち出しだろ。

「ゼリー寄せはやっぱりイマイチだったね」

「もう少し時間をかけて煮崩した方が良かったですかね」

「やっぱ寒天投入が失敗だったんじゃない?」

「オレはあれくらいが美味いと思うぞ」

 生姜がやっぱ多かったな。

「あそこまではいりませんでしたねぇ。他の臭い消しを考えましょう」


「ですから! そうじゃないですよ!」

 じゃあ何だよ。

「自分もそうですが。皆さんもそれぞれ、自分のところで問題抱えているでしょう?」


「オレんところはモグラ叩きに潰してるから平和だぞ」

「私の所はこれから問題に取り組むあたりで」

「俺は大体マルチタスクでやってるからなぁ。問題が無い状況が無いというか」

 大変だなお前ら。


「むしろ、問題の一つも無い方がいるのかと」

 おれは明日何食うかが問題だな。

「まあ、先輩は置いておいて、ですね」


 先輩っておれか。

「そういう問題をですね。住人同士が協力して解決していく仕組みを作るとかですね」


 そういうのは昔、やってるヤツはいたなぁ。

「じゃあ、何で今はやってないんですか」

 やってた連中はまとめてとっとと居なくなっちまったからな。


「残当」

「まあ、そうなりますよね」

「軌道に乗れば出て行く風潮はなんだろうな。オレはこっちのが気に入ってるぞ」

 お前んとこは酒池肉林じゃねえか。そっちの方が良いだろ。

「布団の中で女がマジ殺しに来るのがいちいち面倒臭せえんだよ」

「暗殺を面倒臭いで済ませる男」

「女の細腕じゃ傷もつかねえわ」

「運営ー。運営ー! この人裸でダメコンあります! チートですぅ!」


 ゲームチャンプもやっとるだろ。チート。

「俺は常々、チートは絶対許さないって強く主張してるよ」

「おや、意外ですね。貴方の事だから、ズルかろうが何だろうが勝てばよかろう。という主張かと」

「チートは俺一人がやる事に意味があるからね。だから、世論はチートダメ絶対であり続けてもらわないと困るんだ」

 中々のゲスっぷりだな。


「トッププロではメタゲームは基本だよチミィ。ちなみに、匿名掲示板で俺の事を一番叩いているの。俺のボットだから」

「苦労してんなお前」

「俺は記憶に残らなくてもも記録に残る戦いがしたいの。初心者のラッキーパンチでハメ負けるとか有り得ないし。ハメチートバグ技上等で、一方的に安全に勝ちたいの」


 そこまでやって楽しいもんかね?

「こっちだけズルして相手を蹴散らすのって楽しいじゃん?」

 おーおー。ゲスいゲスい。


「後、時々別垢で遊んでるかなぁ」

「通常、複数アカウントは違反では?」

「バレなきゃ犯罪じゃないって名台詞もあるからね」


「この人らに相談した事自体間違いだったかなぁ……」

 かなぁ。じゃなくて明確に間違いだぞ。

「自分には比較的まともな人達に見えたんですが」


 そう言う話するんだったら誰だろうなぁ。イソギンチャクあたりか。

「あの人……人なの? ですか」

 割と面倒見良いぞあいつ。

「はあ。今度声かけてみます」


「女性陣は割と協力体制作るのに積極的だよ」

 つっても、銭ゲバお嬢とかエロ女だろ。

「あの人らが作りたいには、協力”してもらえる”体制ですから」

「自分から動く女は、相当の淫乱か思惑あるかのどっちかだぞ」

「相当の淫乱について詳しく」

「話せば長くなるぞ」

 経験者の語りは後でな。


「ざっと言うと、女に手球に取られた数が男の甲斐性というヤツだな」

「だからそういう話はいいんです!」


 そうだな。

 ダベってないでお好み焼き焼くぞ。

「まずは肉を焼きしょう」

「片面焼いてひっくり返して、焼いた面の上に肉を置く感じ?」

「他にやり方がある事を自体、今この瞬間に知りましたが」

「俺の家では、生地を流し込んだらその上に焼いた肉を置く派」

 それ、肉を置いた側は生焼けにならんか?

「だから、肉載せた側が固まるくらいまでじっくり焼くんだよ。どんぶり被せて蒸らしたりして」


 逆に面倒だな。

「カリカリになった肉が生地に一体化して、これはこれで美味しいよ」

 そんなモンかね。


「オレの所はそもそも窯で焼くからな。ホットプレートじゃできん」

 お好みというか、ピザだな。

「ピザと違うのは生地に混ぜものするくらいだな。ベーコンとかの乾物だが」

 干しエビとかいいな。

「こないだのザリガニ残ってない?」

 残ってるけど、さすがに干しちゃいないぞ。

「いやいや。今回ちょっと試したいことあってさ」


 いるなら出してくるが。で、何やるんだ?

「広島風に挑戦するから、焼きそばに混ぜようかと」

 手間かかるぞあれ。

「だからだよ。プライベートくらいは無駄な事したい」

「と言っても、焼きそばはありましたっけ?」

「ここにソース焼きそばがあるのだよ。超特大が」


 ソース焼きそばは焼きそばとは別枠だろ。

「ダメなら次があるから大丈夫」

 まあ止めんがな。


「広島風ってどんなだ?」

 焼きそばに薄く焼いた生地を被せて固めるんだったか?

「目玉焼きを乗せるんじゃなかったですか?」

「こういう時はグーグル先生の出番だよ」

 なになに。上から生地、キャベツ千切り、焼きそば、目玉焼きの順か。たかがお好み焼きにどうしてそんな面倒くさい事を。


「広島県民のソウルフードらしいから、あんまりディスるのもどうかと」

 ソウルフードって本当か? 現地民からしてみりゃ、あんなん食わんなんてよくあるぞ。

「もんじゃ焼きとかですかね」

「前に食わされた、ベチャベチャしたヤツか」


「あれ、元々は地方ローカルの子供の駄菓子だよね」

 わざわざおこげを作って食うってのが貧乏たらしくて好かんな。


「いいじゃないですか! 自分は好きですよ。もんじゃ焼き」

 好きなヤツがいるのは構わんが。勝手に郷土食にされてもなって話なんだが。

「山田うどんとかね」

 あれは運転手くもすけ専用店だからな。貧乏人にはありがたいがそれだけだ。


「詳しいですね。埼玉出身でしたっけ?」

 昔ちょっと居たんだよ。それがどうした。

「珍しく自分の事を語ったなと」


 わざわざ話すほど面白い事ねえぞ。

「それでも気になるじゃないですか」

「わかる。出る情報はコンプしたい系」


 そんなモンかね。


 で、熱血くんはもんじゃにするんか?

「もんじゃ焼きをやるにしても、具材が無いじゃないですか」

 なんか持ってねえかと思ったんだがな。


「それでは、我慢してお好み焼きを食べましょう。いい感じに焼けてますよ」

「はあ。いただきます」

「で、味付けだが」


「俺は広島風作るから、とりあえずいいや」

「それでは、私はあけぼのソースを試してみましょうか」

「トマトケチャップとマヨネーズね」

「分かっていますよ」

「こないだの、ほれ。アレはあるか?」

 ウスターの中濃だな。削り節もあるぞ。

「うちでも作らせるかな。こういうの」


 ほいじゃあ、おれは醤油でもかけてみるかね。

「醤油ぅ?」

「美味しいんですか?」

 いや、初めてやる。

「チャレンジャーだなぁ」

 準備無しに広島風に挑むヤツに言われたくねえわ。


「新境地を試してみるのはいい事だぞ。飽きるのが一番良くない」

 お前が言うといやらしい意味にしか聞こえんわ。

「とは言え、醤油でまずくなる事も無いでしょう。鰹節もかけますか?」


 削り節っつうと、じい様が不平たらたらだったなぁ。

「なんでさ?」

 じい様の時代、カツオ節はだし取りに使うモンで直接食うもんじゃなかったんだと。

「じゃあ、かけませんか」

 いや、かける。後は海苔も千切ってと。


「結構美味そうになったね」

 さっぱり味でまあまあだな。

「じゃあ。俺は焼きそばを軽く炒めてと」

 ほれザリガニ。後冷凍イカもあったぞ。

「お、中々美味そうになったじゃん」

「海鮮風だな。ちょっと食わせろ」


 慌てるなよ。出来るまで待てって。

「いやぁ。楽しみですね……って! そんな事はいいんですよ!」


 なんだ。いらんのか熱血くん。

「でなくて。ここの色々な可能性を模索しようと思うんですよ、自分は」

「ここ経由で芋種とか薬品とか輸入するあれか」

「誰もが一度は考えますよね。そして大体失敗する」


「え。なんでですか?」

 大体、日本円が足らなくなって破綻するんだよ。

「円に換金出来るモンがねえんだよな」


「貴金属とか宝石とかあるじゃないですか?」

 ああいうモンは、鑑定書が無いと二束三文だぞ。

「延べ棒や宝石単体だと、正式な証明が無いと扱ってもくれませんよね」

「そもそも、不純物が多すぎて話にならんわ」


「ほっほっほ。配信で稼げない人は大変ですなぁ」

 ゲームチャンプは稼げてるのか。

「スポンサーとかついてるよオレ」

 後で何かおごってくれ。

「すき焼きというのがあると聞いたぞ」

「ふぐとかいいですね」

 久しぶりにあんこうが食いたい。

「少しは遠慮しようよ」


 結局、稼げる奴は金を稼ぐ才能ある奴だっつう話だな。

「なんだか、夢の無い話ですね」

 ここで一攫千金出来るなら、おれはもっといい生活しとるからな。

「説得力あるなぁ」


 うっせ。

 結局、自分ところで真面目にやれって事だな。

「それでもまあ。可能性の範囲とか気にはなりますよね。持ち運べる量とは範囲とか」

「うん。ゲーマーとしては数値化したいところ」


「そこでボクの出番だよ!」


 がらら、とフスマを開けて入ってきたのはトコヨ荘の古株でまとめ役のテイさんだった。


「以前色々と試したからね。しっかりノートにまとめてあるんだ」

 割と制限ゆるいんですよね。

「まあ、そうでないとオレの得物が持ち込めん」

「そういや、別の人んとこに行く事って出来るの?」

 テイさんはよくやっとるが。


「人を連れ込むのは出来ないんですね」

「風紀が乱れるからねぇ」

 連れ込み宿にされるとうるさくてかなわんしな。


「そういや、住民同士で付き合ったりとかって無いの?」

 付き合うもクソも、突拍子も無い女ばっかじゃねえか。こっちからご免願うわ。


「まあ、大体自分のとこにつれあいが出来るからねぇ」

「確かに。オレには嫁を裏切る選択肢は無いし」

「妹さえいればいいです」

「こっちに一人くらい愛人いてもいいとは思うが、相手がなぁ」


 お前は入れられる女がおらんだろ。

「だからゆっくり拡張するんだよ」


「いや、何の話してるんですか。こう言う貴重な資料をもっと活かす方法をですね」

 だ、そうですよテイさん。

「久しぶりに、そういうのに積極的な子が来てくれてボクは嬉しいよ」

 という事で、熱血くんはテイさんに任せるとしてだ。


「ほい。広島風上がり」

「中々いい出来じゃないですかね」

「じゃあソースかけるかソース」

 待て待て。オタフクソース出すから、そっち使おう。

「何か違うのか?」

 専用だけあって、お好み焼きに合う味だな。

「業務用で欲しくなります」


「そういや、こないだ通販で蒲焼のタレ業務用売ってたからぽちった」

 でかしたゲームチャンプ。

「うなぎゼリー第二弾が捗りますね」


「え、ちょっと。なんで自分を外す流れなんですかね?」

「キミはボクと将来の可能性について語り合おうじゃないか」


 実はテイさん。ああいうのもイケる口なんすかね。

「あの人の趣味はわかりません」

「じゃ、青のり削り節投入、オタフクかけて完成と」

 まあ、熱血くんもすぐに居なくなるんじゃねえの?

「割と、こういう子ほど長居するもんですよ」

 まあ、それならそれで構わんけどな。

「ちょっと! 助けてくださいよ! なんかボディタッチが執拗ですよこの人!」


 じゅうじゅうと、ソースの焼ける匂いの中で

 熱血くんの悲鳴がいつまでも続いていた。


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