第6話 湯豆腐と湯豆腐と兜虫の残り汁

 で、湯豆腐だ。


「湯豆腐ですね」

「湯豆腐だねぇ」

「湯豆腐やるんだって?」

「しゃぶしゃぶ」


 お前は隅にいろ。

「うむ」


 それで、でかぶつは荷物取りに戻って、代わりにゲームチャンプが来たわけだが。

「来たっていうか、先に食堂いたの俺なんだけど」


「カップラーメンばっかり食べていると身体壊すから気をつけた方がいいね」

「増えるワカメ入れてるから大丈夫」

 大丈夫じゃねえと思うがなぁ。


 まあいい。それで、まずは土鍋に昆布と水を入れる。

「そうですね。土鍋に昆布と水を入れます」


 真ん中に醤油と削り節と刻みネギを混ぜたのを入れた容器を置くと。

「さらに白菜長ネギニンジン等を入れます」


 最後に絹ごし豆腐を入れて煮えるまで待つと。

「最後に木綿豆腐を入れて、炊けるまで待つ……これが、湯豆腐です」


「ドヤァ」

「いいノリだね、君ら」


 ドヤァ、じゃねえよ。つうかやっぱり、水炊きだろそれ。

「水炊きって鍋だったんだね」

 なんだと思ったんだよ。

「いや、水炊いてどうするのかと思って」

「水で炊く鍋だから水炊きですね」

 常夜鍋の方が好きだがな。

「しゃぶしゃぶ」


「鍋談義は終わらないからそれくらいにしようか。しかし、水炊きでも野菜と豆腐だけは寂しいね」

 鶏肉が欲しい所っすね。

「ボクは白身魚がいいかなぁ。確か、冷凍庫に何かあったような」

「さっき漁ったけど、こないだのカブトムシの端っこが残ってたよ」

 マジで端っこだけじゃねえか。ダシ出し用だな。


「カニ鍋なら締めは雑炊ですね」

「俺はカップラ投入がいいなー」

 麺類の後に雑炊だな。


「湯豆腐だが」

 なんだよ。食うぞこっちも。

「温めた……豆腐? と、同じ?」

 何で言葉がたどたどしいんだよ、お前。


「とは言え、温奴と大差ないと言われると反論しようもありませんが」

 安物の昆布のダシが出てるだろ。安物のが。

「やっぱ安物だとダメなんじゃね」

「高くてもあまり変わらないんだよね。むかーし、老舗の湯豆腐とか言うのを食べた事あるけど、見事にご家庭の湯豆腐と同じ味だったよ」

 豆腐なんてそんなに変わるモンじゃねえっすからね。

「老舗が豆腐の味しない豆腐を出すはずも無し、と」


 所詮豆腐は豆腐だっつう話だな。まあ、そろそろ頃合いだ。ほれ、豆腐すくえ。

「……崩れる」

 豆腐すくいがあるだろ。豆腐刺すな。


「スプーン?」

 穴開いてるだろ。それだよ。それですくって、真ん中の容器に入れてだな。

「この容器。正式名称が子供の時から謎だった」

 湯豆腐以外で使わんからな。


「……崩れる」

 だから箸で刺すな。豆腐すくい使え。

「できないことはない」

 意味のわからん意地見せんな。


「毎回思うのですが、容器の大きさと豆腐すくいの大きさが合ってないのでは」

「ギリギリ入らないくらいだよね」

 軽く通すくらいでいいんだよ。皿に盛った後に好きに味付けすんだ。


「ここは柚子胡椒の出番ですね」

「とりあえずマヨネーズ」

「キミは何にでもマヨネーズかけるね」

チーターが作りし至高の調味料だからね」

 マヨラーは太るぞ。


「水炊きの方も頃合いですね。こっちはポン酢しょうゆでいただきましょう」

 さて、一味をかけるか。

「俺は七味唐辛子」

 毎回それだな。

「なんか、お得感があるよね」

 毎回それだな。


「……だいたいできるようになった」

 お前はお前で、何の役にも立たん技を開発するな。後、鍋ん中のものを自分の箸で刺すな。菜箸つかえ菜箸。

「ばあやみたい」

 作法じゃねえよ。汚ねえだろ。


「美人の唾液入りとかご褒美じゃない?」

「銀座なら十万は固いだろうねぇ」

 そんな特殊風俗イヤっすわ。


「お、やってんな。オレにも鍋食わせろ」

 やっと戻ってきたか、でかぶつ。

「美人の唾液入り」

 お前は自分で美人とか言うな。


「そういうのはちょっと……」

「珍しいですね。貴方の場合、女体盛りでガハハとかやってそうなイメージですが」

「あるある」

「食い物で遊ぶもんじゃねえぞ」

 女体盛りとか汚ねえとしか思わんわ。


「食い物がぬるくなって不味いんだよあれは」

 やってんじゃねえか。


「そういうのやりたくてたまらん奴もいるんだよ。接待だよ接待」

 お前も大変だな。

「偉い人には多いんだよねぇ、そういう特殊性癖の持ち主は」


「そういえば、私の父もそんな感じですね」

 お前は一族、みんなそんな感じだな。

「妹は普通ですよ」

「やべー奴筆頭じゃないか」

 お前の嫁もたいして変わらんわ。


「まあ、そういう特殊な物事は、やってみて幻滅するのが大抵だけどねぇ」

「俺にとっては焼きそばパン」

「購買部で争奪戦するほどの物ではないと」


 そもそもアレは貧乏人の食いもんだからな。

「というか、俺の学校には購買自体無いし。コンビニだし」

 風情もくそもねえな。

「……やきそば……パン?」

 つくらんぞ、やらんぞ。


「ああでも、マヨネーズかければまあまあいけると最近発見した」

 何にでもマヨネーズかけるのな、お前。

「|神≪チーター≫が作りし至高の調味料だからね」

「マヨラーは太りますよ」

 毎回やってるな、この流れ。


「何にせよ、女の身体は器には向かんな」

 フツーの器で食うのが一番美味いんだよ結局。

「高い器で食べると冷奴もご馳走みたいな話もあるけどねぇ」


 それ言ったの京都人っすよ、テイさん。

「うん、完全に嫌味だね」


「唐突に京都人を襲う、いわれのある悪評」

 自業自得だしな。


「……京都?」

 古すぎて住民がこじらせている街だ。

「的確すぎて草」

「うちにもある」

 どこにでもあるんだな。ああいうの。

「オレんとこにもあったな」


 お、過去形か。

「全部焼いたからな」

「武勇伝いただきました」


「おう、肉持ってきたんだがお前にはやらん」

「ごめんなさいぼくがまちがってました」

 早いな。

「効率考えるとね」


「ゲームチャンピオン的にそれはどうなんですかね」

「死ぬほど効率極めて、つまんないコダワリ持ってる奴を蹂躙するのは、すごーく、楽しい」

 鬼だなお前。


「ネットの誹謗中傷見てゲラゲラ笑えるくらいじゃないと、チャンピオンなんてやってらんないよ」

「ある意味人間出来てますね」


「ぼくはもっと、実りある人生を送りたいなぁ。田舎でスローライフでエルフの美少年ハーレムがあるような」

 テイさんは変わらず歪んでるなぁ。

「俺、テイさん知った瞬間エルフアバター全消ししたよ」

 早いな。

「間に合わなかったのは残念だよねぇ」

「トリアージ間に合って良かった。本当に良かった」

「その即決力は見習いたい所ではありますね」


「オレが焼いた連中も、それくらい切り分けが早かったら厄介だったんだろうけどな」

 こいつくらいの即決力がそいつらにあったらどうなんだ?

「オレが来る前に都焼いてたな」


 結局焼くんかい。

「結局焼けるなら、自分で焼いた方がいいだろ常識」

「そっちの方が効率いいよね」

「ライフライン破壊も忘れちゃいけませんね」

「民草は、のこす」

「攻め込んできた連中の足かせになるからねぇ」


 お前らが畜生なのはよくわかった。

「まあ、負けて良い事ある訳じゃねえんだから。やるだけやって、勝った後に後始末考えりゃいいんだよ」

「そういうのを飲み込めるのが王者の器というものですかね」

 庶民のおれは小皿でいいわ。


「豆腐のせられるくらいの奴ですか」

 後、麺と雑炊が入りゃ十分だな。


「……ごはん、投下」

「ちょっと待って。雑炊の前にチキンラーメンがあるから」

 チキンラーメン入れると味が変わるだろ。

「それがいいんじゃないか」

「締めの雑炊がチキンラーメン味になるのが良し悪しですが」


「……たまご」

「卵は雑炊に入れるもんだろ常識」

「いやいや、チキンラーメンなんだから卵入れるでしょ」

「チキンラーメン投下は湯豆腐の方でやりませんかね」

「……ゆどーふ? どっち?」


「そりゃ貴方。豆腐だけの方ですよ」

 昆布が入ってただろ。安っすい奴がさ。

「ふえるワカメも入れるかな」

 海鮮ラーメンっぽくなったな。

「魚の一匹も入っていない海鮮ラーメンとはこれいかに」

 それなりに美味そうだからいいんじゃねえか。


 ほれ、よそってやるから箸つっこむな。

「ばあやみたい」

 お前は放っておくと何するかわかんねえんだよ。小皿にとって普通に食えよ。

「鍋に口つけてかっこむのにも憧れるけどね」

 唇ヤケドするぞ。

「そこを敢えてやるのが漢というもので」

 それでやってみて後悔するんだな。

「理想と現実は違うからねぇ」


 何事も、器が大事って事でまあ。

「うまく落ちた所で第二ラウンド始めましょうか」


「うーし。食うぞ食うぞ」

「雑炊は甲虫の出汁が出てていいね」

「売り切れ早かったな」

 美味いもんから無くなっていくからな。昔漬けたざざむしなんかはまだあるぞ。

「それも入れますか?」

「大惨事になるからやめて!」

 砂糖醤油の味しかしねえよ。見た目悪いけど。

「見た目大惨事なら十分だよ」

 ざざむしは後で酒の肴にするか。さて、どの酒にするかな…………。

 

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