番外編 年越し

「年越しゲーム大会!」

「イエーイ!」

 説明しよう!

 年越しゲーム大会とは、様々なゲームで戦いを繰り広げ、年を越すまでに勝った回数が一番多い者が優勝となる大会である!

 ちなみに参加者は、毎年冬也と三夏の二人だけである。

「第一試合。レースゲーム5本先取」

「よーいスタート!」

 年末特有のハイな雰囲気でこの大会は行われる。

 最後は疲れてくたくたになるのがオチだが、楽しいのでついやってしまう。

 そんな闇の大会が、今年も始まった。


「俺の勝ち。これで4対4。並んだな」

「うわー。負けないぞー」

 二人の戦績が仲良く並んでいた時、それは鳴った。

「ピピピ。ピピピ。ピピピ。ピピピ…」

 部屋に甲高い電子音が響く。

 新年の到来を告げるアラームである。

「あー。いま年越したのか」

 冬也がスマホを手繰り寄せて言う。

「そうなの?じゃあ引き分けかぁ…」

 三夏は大人しくコントローラーを机に置き、椅子を倒してうんと伸びをした。

 動かないわけではないけれど、ずっとゲームをしていると、体は固まってしまうのだ。

 そして二人はカーペットに座り、きっちり向かい合った。

「「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」

 かしこまって言い終えた二人は、どちらともなく笑い出す。

 新年の挨拶を互いに、親よりも先にするようになったのは、何年前からだったか。

 それは忘れてしまったけれど、少し奇妙なであることはわかる。

「よし。じゃあ母さんたちのとこに行くか?」

「あー、うん。そうだね」

 三夏は少し面倒そうな顔をする。

 だがそれでも、素直に冬也についていった。


 まず冬也の両親に会い、彼らと一緒に三夏の両親と会う。

 遠方からの親戚の電話に出ていると、時間はもう12:30になっていた。

 あれ、そこまで経ってないな。

「あー。よし。寝るか」

「ふわぁ…。うん」

 もう眠くなってきた二人は、ベッドと床に敷いた布団にのそのそと入る。

「…襲わないでよ?」

「襲うか!…俺も今日は眠いっての」

 明かりを消して横になる。

 そうすると、互いの呼吸や身じろぎする音が、鮮明に聞こえてきた。

「初詣行くー?」

「行かない。元日は人多いだろ」

 そうだねー。と。あくび交じりの声がする。

「お年玉でなんか買うのか?」

「うーん。福袋は引くけど、他はいいかな」

 と言っている時点でいろいろと察してほしい。

 もう手遅れだ。助かる余地はない。

「今年の抱負をどうぞ」

「えー。考えてない。冬也さきー」

「俺か?…俺は、もっと楽しく過ごすこと、かな」

 体を三夏の方へ向け、視線で返答を催促する。

 すると、三夏は冬也の顔を見て言った。

「私は、冬也ともっと遊ぶことかな!」

 そして、這ってベッドをよじ登ってきた。

 これにはさすがに冬也も慌てる。

「ちょっと?何してんの?二人寝れる広さはないんだけど?」

「えー。いいじゃん。私小さいから大丈夫だって」

 そうこうしているうちに、横にしっかりと潜り込まれてしまった。

 ちゃっかり枕も運んできている。

「女子の中じゃ大きいんだよなぁ…」

「気にしない!たまには一緒に寝かせてよ」

 三夏はにぱっと笑うと、そのまま目を閉じて寝息を立て始めた。

 そんなあどけない笑顔を見ながら冬也は思う。

 こうしてみると、本当に昔と同じみたいだ。

 体はすっかり大人になって、色っぽくなったけど。

 本来の純真さは変わらない。

 まあ、一部が小さいというか貧しいのはご愛嬌だろう。

「イテッ。なにすんだよ三夏」

「いやー?なんとなく失礼なことを考えてる気がしたから」

 怖っ!

 勘がいいってものじゃないぞ。

 と、冬也が戦慄していると。

「え?ほんとに考えてたの?」

 三夏ががばっと起きて覆いかぶさってきた。

 冷や汗を流しながらも、なんとか言いつくろう。

「いや、そんなことはないぞ?本当だ」

「怪しい」

 三夏は疑わし気に目を細める。

 ただでさえジト目気味の三夏が目を細めると、なんとも居心地が悪かった。

「はあ。まあ別にいいけどさ」

 三夏が元の位置に転がっていく。

 冬也は何とか解放されたようだ。

 ただ、布団を巻き付けて全部持っていくのはやめて。寒い。

「ちょっと布団返して?」

「あ、ごめん。…はい」

 再び同じ布団にくるまる。

 いつもと同じ年越し。

 だけど、今までと違うことが、今年は一つある。

 冬也と三夏が恋人同士になったということだ。

 先ほど行かないとは言ったが、落ち着いた日に晴れ着で初詣に行くのもいいかもしれない。

「冬也」

「三夏」

 差し出された手を優しくつかむ。

 布団や暖房よりも、互いのぬくもりが二人を温めていた。

「「お休み」」

 手をつないだまま、瞼を閉じる。

 初夢ではないらしいけれど、いい夢が見られるといい。

 そう思いながら、二人は眠りに落ちていった。

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