番外編 大晦日

【ご注意】

 番外編は時空がいろいろとねじ曲がっています。

 本編とはつながっていたりなかったりします。

 どうか細かいところは気にせずお読みください。



「ねえ冬也ー」

「なんだー」

「ジュースとってー」

「はいよー」

 冬也と三夏は、家でゴロゴロとしていた。

 冬休みに入ってからというもの、毎日がこんな感じである。

 学校がなくて外が寒い。

 その上親たちは年末年始もお仕事があり、旅行に出かける予定もない。

 とくれば、冬也と三夏のインドアな二人がひきこもるのは自明といえた。

 ま、まあ。一日おきにもう一方の家に外出(徒歩10秒)してるから…

「王マムだるい」

「マムだしなあ…」

 二人は椅子に座りながら、あるいは床に転がりながら、そしてベッドで横になりながら、思い思いの姿勢でゲームを進めていた。

「あー、今日コミケだったのか」

「服部がなんか言ってきた?」

「ああ。なんでも始発で乗り込んだんだと」

「へー。こんな寒いのによくやるねー」

「まだずっと並んでるって」

「わー。寒そう」

 そんなことを言いながら遊んでいく。

 時折「虹枠8キター」という狂声が聞こえながら、穏やかに時間が流れていった。

 そんな時、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。

「宅急便か?」

「あー、そういえば今日木実来るって言ってた」

「は?」

 問い詰めようとするも、もう一度ピンポーンと音が鳴り、冬也はひとまず玄関へ向かった。


「お邪魔しまーす」

「どうぞー。でも俺にも連絡欲しかったなー」

「あれ、三夏ちゃん何も言わなかった?」

「そうなんだよ。まあ、いいけどさ」

「ごめんね。次からはそうするよ」

 木実は笑って足早に冬也の部屋に行く。

 三夏ほどではないにしろ、勝手知ったるという雰囲気が出てきた。

 それを見て、女友達ばかりやって来ているという事実に苦笑しながら、冬也も後をついていった。

「こんにちは!」

「おー。いらっしゃーい」

 ちょうどモンスターの角を兜割で破壊した三夏が、椅子を回して振り返る。

 木実は上着を脱ぎ、いそいそと小さなこたつの中に足を入れていった。

「あー。あったかーい」

 そして、至福の表情を浮かべながらだらんと突っ伏した。

 ドアを開けた時、外の風がとても寒かったから無理もない。

「じゃあ、あそぼっか」

 三夏はいそいそとコントローラーを配っていく。

 そしてゲーム機の電源を入れ、ソフトを起動した。

 これで準備は万端だ。

「今日は勝つよー」

 こたつむりと化した木実も気合十分だ。

 顔と手だけ出したその状態はあまりにも締まらないのはご愛嬌。

「言ったな?手は抜かないぞ?」

 毎日ゲームをしている冬也と三夏は、素のゲームの腕前が高い。

 その上このソフトは二人で何度も戦っているので、プレーヤースキルはかなりのものだ。

 割と頻繁に来ているとは言え、二人と遊ぶときにしか遊ぶ機会がない木実が勝てるはずもない。

 だが、二人の顔には油断も慢心もなかった。

 その理由は、二人がゲームに常に誠実であるから、だけではなかった。


「いけっ!カイ〇ーガ!」

 紅白のお正月っぽいボールを投げて、木実は言う。

 中からは青い伝説のモンスターが出てきた。

 そいつは宙を泳いで、キャラクターを押し出す水流を出し始めた。

「ちょっと、待って待って!冬也助けて!」

 崖に復帰する途中だった三夏がそれに巻き込まれ、距離が足らずに落下していく。

「わかった。ホレ!」

 それを聞いて冬也はリモコンミサイルを発射した。

 このゲームでは、キャラクターは一度攻撃を受けると、もう一度大きく上に移動できる技を使うことができるのだ。

 そう。ゆえにこの行動は、三夏を救出するためのものに他ならないのだ。

「ちょ、冬也――」

 しかし三夏はさらに悲鳴を上げて冬也を揺すり始めた。

 せっかく助けようとしているのに、どうして邪魔しようとするのだろう。

 そう思いながら、冬也は慎重にミサイルを操作し、無事命中させた。

 その瞬間、赤い派手なエフェクトが発生し、三夏のキャラクターは勢いよく飛んでいった。

 そして、しっかりと三夏の残機が一つ減った。

「ア、 ゴメーン」

 冬也が棒読みで謝罪する。

「許さない」

 ちょっとキレて、三夏は復活してから冬也に猛攻を仕掛ける。

 冬也も負けじと応戦するが、今までに負ったダメージの分、だんだんと追い詰められていく。

 そうして三夏が冬也をつかみ、とどめを刺そうとしたとき。

「えーい」

 木実が爆弾を投げて、二人まとめて撃墜した。

 二人の間に沈黙が降りる。

 それに気づかないように、木実の明るい声が響いていく。

「やったー。リア充爆殺!」

 冬也と三夏は顔を見合わせ、うなずき合う。

 視線だけで、二人は雄弁に意思を交わした。

「ヨシ。ヤッチマオウ」

 というわけである。


「きゃー。来ないでー」

 悲鳴を上げながら、木実は必死に攻撃をかいくぐる。

 ガード。ダッシュ。回避。

 そして、落ちてくるアイテムを投げながら、何とか生き延びていた。

「ちっ!」

 広範囲に爆風が及ぶ爆弾に、いったん冬也は足を止める。

「いけっ!助けて!」

 木実が味方のキャラクターを召還するアイテムをたくさん使うので、冬也と三夏は攻めあぐねていた。

「なんで、木実の行くところには強いアイテムがあるんだよー」

 たまらず三夏が不満をこぼす。

「ただの運だってば」

「それか仕様だな」

 二人が木実を甘く見ていない理由はこれだった。

 木実は非常に運がよく、ゆく先々に有効なアイテムがある。

 そのおかげで、二人とも渡り合うことができていた。

 

 そうして、しばらくやり合ってた三人だったが、

「あっ、間違えた」

 木実が操作ミスをして落ちていったことにより、戦いは終了した。


「あー。楽しかった」

 満面の笑みで木実は言う。

 その後も何回も戦って、すっかり満足したようだ。

「じゃあ、飯にするか」

 時間も知らぬ間にすぎ、お昼の時間になっている。

 冬也は台所へと歩き出した。

「そうしよっか」

 三夏もそれに続く。

「あー。私も手伝う」

 取り残された木実も、慌ててついていった。


「ほんと、夫婦みたいだよね」

「そうか?」

 昼食の後片付け。

 皿を受け取って拭きながら木実は言う。

「だって家事も結構やってるんでしょ?」

「まあ、そうだね」

 三夏は何でもないことのように答える。

「家出てもそんなに変わらないんじゃない?」

「あー、確かに」

 今気づいたように冬也は言い、木実は暖かくほほ笑んだ。


 午後、三人は木実が持ってきた映画を見た。

 最近の有名なアクションもので、そういうのをあまり見たことがない冬也と三夏でも十分楽しめた。

 三夏は、「さすが映画。グラがいい」と言ってたけど、ゲームと映画のグラフィックを同列に語ってはいけないと思う。


 それを見終わったあと、しばらく雑談をしていたら日が暮れてきたので、木実は帰ることになった。

「じゃあまたね。よいお年を」

「気を付けてね。よいお年を」

 もう慣れたやり取りをあっさりと終わらせて、二人は家に戻った。

 今日は大晦日。夜遅くまで、二人の一日は終わらない。

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