第2話「高校ってどんな感じかな?」
今日は入学式当日。
のんびりとできた春休みは終わり、今日から高校生活がスタートする。
クラス内の環境はこれからの数日間で大体決まる。
あまり気にしないけれど、居心地がいいことを一応願っておく。
「おーい。行くぞー」
「あー、待って」
隣の家に呼びかけると、ばたばたした音とともにそんな声が聞こえてきた。
なんだか大変そうなのでドアを開けてみる。
「もうちょっと待って、もうすぐ入るから」
すると三夏は革靴を手に悪戦苦闘していた。
靴ベラを差して足を入れようとするが入らず、足先を入れて踵をトントン叩いている。
だがそれでも入らず、少しずつ履き口がつぶれていた。
「あーあ、ストップ。俺がやるから」
「うん。お願い」
見ていられず、冬也は手伝いを申し出た。
うなずく三夏は若干目を潤ませている。
一度靴紐を解いてから、前の穴の開いた部分の裏にあるヤツ(タンというらしい)を持って三夏の足を入れる。そしてしっかりとキツめに靴紐を結んだ。
「これで良し。練習しとけよ?」
「うん。しとく」
改めて二人は外へ出る。
天気は晴れ。あたたかい日差しがしっかり差していて、絶好の入学式日和だ。
「ほーん」
「な、なんだよ」
冬也は三夏を上から下までぐるっと見渡した。
肩にかからないくらいの髪をシンプルに下ろしただけのヘアスタイル。
癖の強い黒髪が、自然とウェーブを描いている。
目は眠そうに少し閉じているが、これはいつものことだ。
セーラー服にはなれない様子だが、服に着られている印象は受けない。
身内びいきを抜きにしても、美人な部類に入ると思う。
「ほんとに、見た目はいいよな。お前」
「えへへ、そう?って、見た目はってどういうこと!」
どういうこともなにも、言葉通りの意味に決まってる。
なんて口に出すと怒られるに違いないので、ひとまず冬也は逃げることにした。
「高校ってどんな感じかな?」
道中を、話しながら進む二人。
今日だけは親もついてくるので、割と無難な話題が選ばれている。
というか後ろで親同士が話しているのは普通に恥ずかしい。
「さあ。まあもうすぐわかるでしょ」
「それはそうだけどさー」
不満そうに冬也を見上げる三夏。
元も子もない冬也の返答がお気に召さなかったらしい。
「なんかあるでしょー。イメージとか期待とかさ」
「じゃあなんか思ったことないの?高校だよ?」
目をさらに細めてジトーっと見つめてくる。
これはまともな返答をしないとまずそうだ。
とはいえ考えても出そうにないので、最初に思ったことをそのまま言うことにする。
「まー、高校生なのか。って思ったな」
「何それ」
「アニメとかで高校が舞台の作品って多いじゃん?だからあのキャラたちと同い年なんだなーって」
「あー、わかる。同い年であんなことやってるんだーって感じ」
物語の中の高校生は、物語られるだけのことをしている。
年齢が近いと親近感も湧くが、同じようなことができるとはとても思えない。
それがたとえ現代の日常系だったとしても。
だから『高校生』というのが、今となっては、逆に遠くに感じてしまう設定になってしまっている。
「見て。ハル〇も上条〇麻も高一なんだって」
三夏がスマホの検索画面を見せてくる。
確かにそこには名だたるキャラクターたちの名前が連なっていた。
「マジか。やばいな高一」
世界を変える力や幻想を殺す力を持っているらしい。
日本の高校生を集めれば何でもできるんじゃないだろうか。
「まあ、私たちはそれなりで行きましょうか」
「そうだな」
だが残念ながら冬也も三夏もごく普通の人間なので、ごく平凡な生活をしていきたいと思う。
そしてしばらく歩くと、冬也たちの通う高校に到着した。
家からの近さで選んだだけあって、登校時間は20分程度だ。小学校の時とさほど変わらない。
校門前で入学式と書かれた看板と家族ごとに写真を撮り、ついでに三夏と冬也の二人でも撮った。
幸運にも二人は同じクラスとなり、喜び合いながら体育館へと入った。
入学式は何事もなく終わり、それぞれの教室でのホームルームの時間になった。
といっても今日は大したことはせず、自己紹介と明日からのオリエンテーションの案内をしただけで終わった。
そうしてクラス自体は解散となったわけだが、まだ誰も帰っていない。
みんなが互いを観察しながら、話しかけて交流を深めている。
目を向けてみると、三夏は早速近くの女子に話しかけられている。戸惑いながらもなんとか対応できているから大丈夫だろう。
一応誰かと話しておくべきか、このまま帰ってもよいものかと考えていると、後ろから声をかけられた。
「よう、水沢。久しぶり」
「服部。お前いたのか」
「いたのか!ってさっき自己紹介しただろうが」
「いや、そうだけど。まさかお前だとは思わなかった」
こいつは服部幸光。中学からの付き合いだ。
イケメンで運動もできるがオタクなのが玉に瑕。
それでも人気はあったのだが、中2の時に告白を思いっきり振られて以来、自分はモテていないと思い込んでいる。
なんかムカつくのでずっと勘違いしていればいいと思う。
そもそも俺が言ったところで冗談だと思われるだろうし。
「しっかり不知火さんと同じクラスになってるし。よかったなぁおい」
「だからあいつとは別にそんなんじゃないって」
「はぁ?今まであんだけ見せつけてきておいて何をおっしゃいますか。リアル幼馴染の女子とかほんと羨ましい!」
あと、服部は俺と三夏の関係を邪推してこちらの話を聞かない。
なんでも幼馴染萌えなんだとか。不治の病で助からないらしい。
「でも服部がいるならまあ楽かもな。面倒も起きなさそうだし」
「そうだ。水沢はこの後カラオケ行くか?もうクラスの何人かと約束してるんだけど」
「あー、ちょっと待ってくれ」
それは別にやぶさかではないが、三夏と一応相談しなくては。
そう思ってLINEを開くと、三夏からメッセージが届いていた。
三夏『遊びに誘われたんだけど』
三夏『どうすればいい?』
三夏が困って相談してきている。
それくらい自分で決めてもいいと思うが、友達と遊ぶという経験自体が少ないのだから仕方がない。たぶん。
冬也『行ってみたらどうだ?』
冬也『人間関係も大事だぞ』
三夏『わかった』
三夏『冬也はどうするの?』
冬也『俺もカラオケに誘われた』
冬也『それに行ってくる』
最後に車に乗ったキャラのスタンプを添えてスマホを閉じる。
俺は別にどうも思わないが、話している最中にスマホを見ているのはあまりいいことではないだろう。
「俺もカラオケ行くよ」
「了解。みんなに言っとくわ」
そう言うと服部もスマホを持って連絡を始めた。
冬也のスマホが通知で振動する。
LINEを開くと、服部から『カラオケ』なるグループに招待されていた。
参加し自己紹介をしておく。
すると、冬也は三夏から追加のメッセージがあることに気づいた。
三夏『今日の夜のお祝い。忘れないでね』
冬也は少し微笑んで返事を打ち込む。
冬也『わかってる。夕方までには帰る』
「おーい、水沢。そろそろ行くぞ」
「おう。わかった」
冬也は荷物を持って服部のもとへと急いだ。
カラオケは恙なく終わり、冬也は数人のクラスメイトと仲良くなることができた。
あまり来たことがなかったのでシステムをよく理解していなかったのは内緒だ。
普通どんな歌を選ぶのかわからなくて少し不安だったが、大体知っている曲だったのでほっとした。
今どきはjポップだけでなく、ボカロやアニソンもみんな歌うようだ。
オタク趣味で浮くようなことにならなくて一安心だ。
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