第4話
「全員自己紹介終わったことだし、そろそろケーキ食うか。」
君がいきなり切り出す。僕以外の全員が驚いた顔で君を見つめる。当然の反応だ。
『遂にケーキに手を出すのですね。私共はこの時を非常に楽しみにしておりましたよ。』
無機質で無感情な声のはずなのに、急に喜んでいるような声になる。まるで、子供が虫を殺して笑っているかのような。どこか恐怖を覚える声だった。
『ついでに、入っている毒の説明をしますね。入ってる毒の名前はシアン化物。結構有名な毒ですね。リンゴの種や特定の殺虫剤になどに少し含まれていますが、よほど大量に入っていない限り死に至ることはありません。初期症状は頭痛や、めまい、息切れや嘔吐。末期症状は発作や心拍数低下、低血圧や意識消失、心肺停止などの症状がおこります。通常は数分で症状がおこり始めます。とても大量に入っているので、だいぶ早くに楽になると思いますがね。なのであまり苦しまずに死ねると思いますよ。ここで死ねた方は一番ラッキーかもしれませんね。だってちょっとだけしか苦痛を感じないのですから。』
シアン化物は集団自殺等に使用されるもので、シアン化物塩は死ぬのが早い自殺手段として時折使用される。
僕が知ってる限りだと、1943年第二次世界大戦中ヴェモルク重水工場を破壊するために行われたガンナーサイド作戦(ドイツによる原子爆弾の開発を止めようとする、または遅らせる試み)で、特殊部隊員達は口の中で保持するように作られたシアン化物の錠剤(ゴムの中に封入されたシアン化物)を与えられて、ドイツ側に捕らえられた場合、その錠剤を噛んで飲み込むように指示されていて、その錠剤は3分以内に必ず死ねるようになっていた。という情報くらいだが、そのレベルで危険な毒なのだ。
その危険な毒がこのケーキのどれかに入っているということになる。
ケーキは、最年少の翔くんが一番初めに食べ、それから僕らは終盤の方にケーキを食べたが無事、普通のケーキを食べることが出来た。最後の一人まで、誰も異変を訴えることはなかった。つまり最後の一人であるみのりさんが最初の犠牲者ということになる。
みのりさんはぎゅっと目を瞑り、覚悟を決めたように恐る恐るケーキを一口食べる。少し不思議そうな顔をしながらどんどんと食べ進めていき、一分も経たぬうちに食べきった。
数秒経ち、周りも、みのりさん自身も毒が入っているという事自体を疑い始めてから間もなく、みのりさんの表情が歪む。
「あ…あたま…痛い…目…まわ…」
そう呟いた後、みのりさんの体が突如力を失ったかのように崩れ落ちる。
『遂に犠牲者が出ましたか!きっと今は心肺停止の状態ですが、まあそのうちすべての機能が動かなくなって最終的には彼女は死にますね!あー愉快愉快!!』
この無機質で無感情なはずの声が急に高らかと笑い出す。心の底から楽しんでいる声だ。人の死を使い捨てのおもちゃのように弄んでいるかの様な。
それから間もなく、みのりさんは亡くなった。
みのりさんの遺体の顔には、僕が持ち合わせていた白色のハンカチを掛け、全員でみのりさんの冥福を祈った。
どこからともなく何もない台が出てきた。その台には「死体をここに乗せろ」と書いてあった。僕たちはみのりさんの遺体をどうすることもできないから、取り合えず台に乗せた。
人一人の命が消えてゆくところを見た僕らはしばらく放心していたが、その静寂を切り裂くようにまた無機質な声が聞こえてくる。
『無事に第一関門を突破した11人の皆さんですが、早速次の部屋に行っていただきます。次のお部屋はお正月を飛び越えてバレンタインをイメージしたお部屋となっています。こちらは思わず笑ってしまうような死に方をするお部屋になっています。今回は現実味のある死に方で、皆さんに油断しないようにという警告を含めたゲームでしたが、これからは変わった死に方や、現実味の帯びた死に方をしていただきます。皆さん、自分が死ぬのを楽しみにしていてくださいね。死にそうになりながらも楽しくなってきちゃうと思いますよー!っとそういえば、前に質問タイムを設けると言いましたね。取り合えず今一つだけ質問に答えてあげましょう。誰か質問がある人どうぞ?』
武志が目を伏せたまま口を開く。
「ここはどこだ?どうしたら無事に出られる?みのりを助けることは出来なかったのか?!」
『おやおや、質問は一つまでと言ったではないですか。では一つ質問に答えます。ここはどこだ?という質問ですが、ここは楽丘高校の中です。詳しく言うと、町自体いつもの楽丘町ではありません。次元的には別次元となります。見た目だけは楽丘町っていう事ですね。まああまり理解できないと思いますがね。それでは質問に答えたので皆さんには次の部屋に行っていただきます。また移動しないと、体内にある小型爆弾が爆発しますよ。』
みのりさんと武志の関係は分からないが、取り合えず今はおとなしく次の部屋に行った方がよさそうだ。
君も目を伏せながらちょっと顔を動かして、行くぞ、という様に僕を促した。
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