第4話

 え~っと、なになに。『菊は死す』に『空は永遠』か。菊が死ぬ。枯れるってことか? 空はいつまでも……ってなんだこりゃ。『岩と福』に『舞う乞う』もわかんねぇ。

 菊。聞く? きく。

 あー、さっきの二問もひらがなにしたっけ。ひらがなに変換してみよう。


『きくはしす そらはとわ いわとふくへ まうこう』


 お? 『』で、『』か。なるほど。

 そういうことか。

 ポケットからスマホをとりだし、五十音表を表示して確認してみる。


 うん、それで合ってそうだな。





 。それぞれの関係を五十音表のなかで見つけられると、答えは出たも同然だ。表の中で、すぐ左隣の文字を表している。

 つまり、『岩と福 舞う乞う』を『いわとふく まうこう』にして、すぐ左側の文字に変換すればいいわけだ。

 で、で……。

 全部変換すると、『きんのむすめ やくそく』になった。


 金の娘、約束。


 金の娘か。ショッピングモールの金色の女性像のことだろうな。あそこでした約束は、やっぱりあれかな。


『幸せな暖かい家庭を築いていこう』


 プロポーズの言葉だ。


 やっぱり千夏か? この約束を思い出せって言いたいのか? 

 いや待てよ? 後輩たちは知らないが、隆は知っているな。何て言おうか散々相談してたから。あのときの約束を思い出して、しっかり家庭を守れと言ってるのか?

 

 ショッピングモールに向かう道々考えた。


 どっちが書いたにしろ、家を出ていったってことは、彼女にとって幸せな暖かい家庭ではなかったってことか。

 女を作るわけでもなく、ギャンブルをするわけでもない。きちんと給料も渡していたし、自分ではいい夫だと思っていたのに。

 残業や接待で遅くなるのは仕事なんだし、その仕事だって千夏がなに不自由なしに暮らせるために頑張ってるんじゃないか。

 全部、俺の独りよがりだったってことか?

 


 金色の像のあるところに着いて驚いた。

 そこはショッピングモールのはずれにあたり、しっとりと落ち着いた空間になっていたはずだった。

 それなのに、今は大勢の家族連れでごった返している。おもちゃ屋と子供服屋ができたからのようだ。

 人波を避けながらゆっくりと近寄り像の前に立つ。するといきなり十数人の子どもたちがわらわらっと駆けてきて、像の周囲をあさりだした。


「おじちゃん、邪魔~」

「どいてよ~」


 子どもたちに押されてバランスを崩し数歩下がる。


 一体なんなんだ?


「あった~!」

「ボクも!」


 どうやら宝探しか何かのようだ。手に手に小さな紙切れを持っておもちゃ屋さんへ駆けていく子どもたちの後姿を見送って、もう一度像を見ると。


 え!? いつの間に!?


 金色の像が、手に封筒を持っている。さっきまで絶対に持ってなかったはずなのに。でも今大人は近くに来ていない。


 子どもたちの誰かに頼んだのか? この近くで見ているのか?


 封筒を手にとり辺りを見回してみるが、千夏の姿も隆の姿もやっぱり見当たらない。

 

 まだ続けるつもりなんだろうか。ずっとついてきているんだろうか。本当はやっぱり千夏なんじゃないのか? 隆がここまでする理由がわからない。勿論、千夏だったとしても、なぜこんな手の込んだことをするのかはわからないけど。


 とりあえず今は問題を解くしかない。


『 色は変え 猿さん

  うねつせひりわばふれ 』

  

 えーっと、今までのパターンからして、まずひらがなにしてみよう。


 ……あれ。ヒント多すぎじゃないか。これって、普通の暗号文だな。

 

 答えを見て腹が鳴る。


 そういえば、もう昼だな。俺が解く時間までよんでたのか? とりあえず、それを食べよう。

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