5年後(7)
「この死んだ男に恨みをもつ四人と女がどうやって知り合ったかというとね、こういうカフェなの。街のどこにでもあるカフェ。毎朝同じ店に同じ時間にいる彼らは見ず知らずの知り合いだった」
「彼らは何をきっかけに会話をすることになったんです?」
女性はひとくちコーヒーを飲むと眉間に皺を寄せた。
「うるさかったのよ、男が」
「えっ?」
「キーボードを親の敵みたいに叩いたり、大声で電話で話すのよ。それまで静かだった朝が男がやってきてから一転してしまったの。だからみんなで男を殺すことにしたの」
「いや、殺す動機はみんなそれぞれ他に」
「そうね、確かにそれぞれが男を憎む理由をもっていたわ。でもそれらはちゃんと封印することができるものだった。それを爆発させてしまったのが男が立てる騒音だった。馬鹿な男ね、静かにコーヒーを飲んでたら死なずにすんだのに」
女性はコーヒーを飲んだ。
とても静かに。
風味を堪能するように数秒間女性は目を閉じた。
そしてゆっくりとその目を見開く。
「みんなで男を囲んでね、ホームから突き落としたの」
女性が駅名を口にしたとき、五年前に事情聴取した六人の目撃者たちの顔をはっきりと思い出した。
この女性を知っている。
あの人身事故の目撃者の一人だ。
「女の夫はどうなったんです」
「死んだわ去年、老衰よ。最後まで女に裏切られたとは知らずに。全ての財産を失ってもそばにいてくれる妻をもって自分は幸せだと信じてね。ある意味ほんとうに幸せよね。真実を知ることがいつもいい事だとは限らないから」
「そんなの許されるはずがない」
「許す?誰が?法が?男のしてきたことは法で裁かれることではなかったかも知れない。でも法で裁かれない罪が法で裁かれる罪より軽いわけじゃないでしょ」
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