バイトの大学生(1)


 雨が降ると傷が痛むなんてまるで年寄りみたいだ。


 僕はまだ十八だと言うのに。


 朝の七時半から八時半くらいまで、出勤前に立ち寄る人たちでカフェは混み合う。


 それが過ぎると昼まではゆっくりとした時間が流れ、ランチタイムが近づくとまた賑わい始める。


 遅刻しそうなのか駅へ向かって走るスーツを着た若い男が窓の外に見えた。


 みぞおちがキュッとなる。


「走りてぇ」


 誰にも聞こえないように呟いた。


 僕はマラソンの選手だった。


 過去形だけど。


 そこまで有望な選手ってわけじゃなかったが、でも僕は真剣だった。


 走ることは僕の全てだった。




 あの事故さえなければ。


高校二年の夏、僕は練習中に交通事故にあった。


 相手は原チャリだった。


 僕は死んだわけでも、大怪我を負ったわけでもなかった。


 日常生活を送るにはなんの問題もなかった。


 だがマラソン選手になる夢は絶たれた。


 僕がそれなりの有望な選手だったらもっと慰謝料請求もできたし、強く相手を責められたかも知れないが、残念ながら僕は夢だけが大きい月並みのランナーだった。


 両親なんかも、これをきっかけに大学受験勉強に励んでくれるからちょうど良かったと言ったぐらいだ。


 畜生。


 どうせ誰も僕の気持ちなんて分かってくれないんだ。


 惰性でしたような受験勉強でいい大学に入れるはずもなく、とりあえず合格した大学の毎日は輝くどころかただ平凡で小遣い稼ぎにバイトを始めた。


 早朝ランニングをずっとしていたので、時給の割がいい深夜か早朝かで、僕は迷わず早朝を選んだ。


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