キャリアウーマン風の女(2)

 真由子は私の自慢の女友だちだった。


 美人で頭も良くお洒落で、週末は真由子お薦めの店で仕事や恋の話で盛り上がった。


 これからお金がかかるからと、安いアパートに引っ越した真由子は何ヶ月もヘアーサロンに行っていないようなパサついた髪に、剥がれかけたネイル、手入れされていない肌は以前はなかったシミが目立った。


「産後太っちゃって、前に着てた服が全部入らないのよね」


 そう笑う真由子は近所の商店街で買ったような変な服を着ていた。


 話の話題はもっぱら子どものことばかりで、私の自慢の真由子はもうどこにもいなかった。


 真由子だったらもっといい男を捕まえられたはずなのに、自分のキャリアを諦めることなく、一緒に子育てをしてくれる新しいタイプの男を選ぶことができたはずなのに。


 それが戦力外ギリギリのどれを取っても人から頭ひとつ抜けることのないような若い男に引っかかるなんて。


 それもこんなかたちで捨てられて。


 私はわざと大きな音をたてて新聞を折りたたむ。


「ナース?はたちはたち。焦ってないから楽でいいよ。歳食ってるといろいろ面倒臭せーからさ」


 思わずふり返る。


 おまえみたいな程度の低い男が真由子に触れられただけでも幸せと思え。


 ヤツは私の視線に気づくことなくしゃべり続ける。


 向き直るとポタリと新聞に丸い染みができる。


「仕方なくなんてない」


 悔しくて涙がでた。


 私の真由子を返せ。


 私の自慢だった真由子。


 ずっと憧れていた。


 私の憧憬を打ち砕きやがったヤツ。


 それなりの男だったらまだしも、あんな、あんな、あんな男に。


「仕方なくなんてない」


 男に向かって大声で叫びたい言葉は、ぽとりと新聞の上に落ちて転がった。


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