キャリアウーマン風の女(1)
真由子に何度か写真を見せられたことはあったけど、さほどそのとき二人の話に興味がなかった私はヤツの顔を記憶することはなかった。
だから最初はまったく気づかなかった。
その名前を聞くまでは。
シングルマザーになった真由子はひとりで産んだその子に『拓斗』と名づけた。
真由子が妊娠したと知ったとたん姿をくらました真由子の若い恋人『拓也』から一文字を取って。
真由子は真由子に全然似てないサルのような顔をした赤ん坊を抱いて言った。
「いいのよ可央里。私はずっと子どもが欲しかっただけだし、そろそろ妊娠しづらい歳になってきてたから相手は誰でもよかったの。下手な父親がいるよりこの子と二人きりの方がよっぽど幸せよ」
そう言いながらもいつまでたっても真由子は男物の青い歯ブラシと安物のひげ剃りを捨てようとしなかった。
ある日私はたまらなくなってそれらをゴミ箱に投げ捨てた。
「もうあんな男のことなんて忘れなよ!バカ男をいつまでも想い続ける女はその男以上にバカだよ」
怒りをぶつける相手が違うと分かっていながらも止められなかった。
真由子は目を潤ませた。
どうしてそんな酷いこと言うの?
とその目は言っていた。
震える唇から漏れた涙声で真由子は言った。
「だって仕方ないじゃない」
一線でバリバリ仕事をしていた真由子は時短で働ける部署に移動させられた。
パートのおばちゃん達とおしゃべりしながら誰でもできるような作業をする真由子は以前の真由子ではなかった。
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